登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日 |
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【意義】 雇用労働者が所属する経済組織体においては、すべての事象を形式合理性に基づいて判断し、機能的成果や所有関心を優先することが自明当然のこととされている。雇用労働者は、この前提を内面化し自己の態度・行為の基準を形成して経済組織体に適応する。ところが定年になれば、雇用労働者の社会運営上の機能的有用性は疑問視され、所有関心から距離をおくことを社会から要請されて定年退職する。経済組織体で内面化した形式合理性に基づく機能的成果や所有関心を優先する前提や価値観で定年退職後の人生を捉えようとするならば、社会の要請との隔たりを感じ、自己の社会的存在を疑問視し戸惑いを抱くことになる。定年退職期の生涯学習の個人的な意義は、この典型例に示されるような経済組織体において内面化した前提や価値観と社会の要請との相違に起因する戸惑いを解消し、新たな所属社会集団の探索を通して高齢期の人生の展望を拓くことであり、社会的な意義は、将来の高齢社会の主要な構成員となる定年退職者による新たな高齢社会の文化創造の展望を拓くことである。 【学習活動】 定年退職期は移行期であり、その期間の学習活動は、それまでの経験に基づいて「形を作っていく(forming)」学習よりも、それまでの経験を見直し「形を変えていく(transforming)」学習が主要となる。「形を変えていく」学習論として、メジロー(Mezirow,J.)が提唱する変容学習論(Transformational Learning Theory)がある。これは社会化の過程で内面化された前提や価値観を省察することによって、それらの変容を促進し、自己を前提や価値観の束縛から解放するための成人学習論である。定年退職期の学習活動は、変容学習論を基礎にして定年退職前の所属社会集団において内面化した前提や価値観を省察することによって、新たな前提や価値観を再構築することを主要とするものであり、定年退職前に獲得した資産を振り返り再資産化することである。 【支援】 生涯学習の支援は、学習機会選択、学習機会提供、および学習成果の評価に大別することができるが、定年退職期の生涯学習支援には、定年退職期の独自性に基づく支援の特徴がある。学習機会選択支援においては、定年退職期は個人にとって高齢期の人生を充実するための重要な移行期間であり、社会的には将来の高齢社会の文化創造に多大な影響を及ぼすことになる重要な期間であることを認識させるための啓発的な情報提供と学習相談が必要である。学習機会提供支援においては、定年退職前に内面化した前提や価値観を省察するための対話的学習機会の提供と、新たな前提や価値観を創造するための意味付与能力涵養機会(クリティカルシンキングのスキル習得機会など)の提供が必要である。また学習成果の評価支援においては、定年退職前に内面化した前提や価値観に関する地図を作成し、学習活動後の前提や価値観に関する地図と比較評価できるシステムの構築と提供が必要である。 br> |
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参考文献 ・Mezirow,J.,Transformative Dimensions of Adult Learning,Jossey-Bass,1991 ・パトリシア・クラントン『おとなの学びを拓く』鳳書房、平成11(1999)年 ・山本恒夫・浅井経子・手打明敏編『生涯学習支援へのアプローチ』第一法規、平成7(1993)年 |
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