登録/更新年月日:2025年1月10日
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1.はじめに 2025(令和7)年で阪神・淡路大震災から30年を迎えることを受け、クラーク記念国際高等学校姫路キャンパス(以下、「クラーク姫路校」と表記する)において、防災セミナーを企画・実施した。ここでは、その概要について紹介する。 |
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2.セミナーの概要 クラーク姫路校でおこなった防災セミナーの概要は次の通りである。 1)名 称:クラーク姫路校 防災セミナー 2)目 的:阪神・淡路大震災から29年がたち、災害や防災に対する意識に世代間や被災の有無による格差が生じている。よって、阪神・淡路大震災の教訓をふまえ、防災について「知る」「触れる」機会を提供する。災害や防災の分野において「自分たちに何ができるのか」「何をしなければならないのか」について考える・理解する・行動する。地域の防災リーダーとしての資質と能力を身につける。 3)日 程:2024年2月15・22・29日、3月14日 4)対 象:クラーク姫路校2年生 5)実施場所:クラーク姫路校、キャンパス周辺 |
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3.セミナーの流れ 本セミナーは「避難所運営ゲーム」「キャンパス周辺の防災設備調査」「命のパスポート作成」「地域清掃ボランティア」「普通救命講習の受講」の5つから構成されている。以下、時系列に紹介していく。 1)避難所運営ゲームの実施 姫路市危機管理室からhug(避難所運営ゲーム)の貸出を受け、クラーク姫路校2年生を対象に避難所運営を疑似体験してもらった。hugとは、「避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれが抱える事情が書かれたカードを避難所の体育館や教室に見立てた平面図にどれだけ適切に配置できるか、避難所で起こる様々な出来事にどう対応していくかを模擬体験するゲーム」であり、「避難所(Hinanzyo)」「運営(Unei)」「ゲーム(Game)」の頭文字をとっている。 授業の冒頭で、過去に発生した災害や避難所運営の事例を説明したうえで、hugのルールを説明した。最初は戸惑いながら参加していた生徒たちも、徐々になれていき、途中からは夢中になってゲームに参加していた。約3時間かけて避難所運営に取り組んだ生徒からは「外国人の避難者への対応が難しかった」「イベントカードへの対応が追い付かなかった」など、様々な感想が寄せられた。授業の最後に、個人・グループ・会場ごとに振り返りを行い、「工夫したこと」「困ったこと」「悩んだこと」を発表してもらい、授業を終えた。 2)キャンパス周辺の防災設備調査 クラーク姫路校は、徒歩圏内に姫路城、JR・山陽姫路駅をはじめとした文化遺産や公共交通機関が位置する市の中心市街地に所在している。そのため、平日・休日問わず、人の往来が多く、災害発生時の被害も甚大なものになることが想定される。そのため、災害にそなえ「中心市街地にはどのような防災設備があるか」「どのような対策が模索できるのか」について検討をおこなった。 具体的には、災害時に使用する(される)防災設備(名称と使用方法、設置場所)について簡単に解説をおこない、そのうえで、クラーク姫路校周辺の防災設備(消火器・AEDなど)の設置場所を調べ、地図にマッピングしてもらった。また、フィールドワークの際は、高齢者・外国人・観光客の視点で街を歩いてもらい、「困ったこと」「悩んだこと」について考えてもらった。 3)「命のパスポート」作成 姫路市危機管理室より提供を受けた携帯版・災害避難カード「命のパスポート」の作成を行った。居住地周辺の地理的環境や、その地域にどのような危険があるのかをよく知り、災害時にどのような行動をとるか検討をおこなった。クラーク姫路校に在籍する生徒の多くは近隣市町からも通学しているため、自身の居住地を事例に検討してもらった。 4)地域清掃ボランティア 「#ひめじでごみひろい」の協力を受け、JR姫路駅周辺の清掃活動をおこなった。駅の商業施設前に集合し、簡単な自己紹介・ルートの説明をおこなったうえで、二手に分かれて清掃活動を実施した。清掃中は、「#ひめじでごみひろい」が目指す“ゴミ拾いをエンタメ化する”を意識して、黙々とゴミを拾うのではなく、周りの生徒や市民と会話を交わしながらゴミ拾いをおこなった。清掃活動を通じて、地域とのかかわりを創出し、多様な人と触れ合うことは、「コミュニティを形成する」「地域の人とコミュニケーションをとる」点において有効な方策になりえると感じている。普段から挨拶を交わすような関係性を構築することは、災害発生時の共助を支える大切な柱になると感じているだろう。 |
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4.本実践の成果と課題 本実践の成果としては、次の二点が挙げられる。 第一に、地域の人的・物的資源を活用し、演習・実技を中心にセミナーを展開できた点が挙げられる。本セミナーは、姫路市危機管理室や姫路東消防署、#ひめじでごみひろいなど、多くの機関や団体の協力を得て開催することができた。校内で学びを完結させるのではなく、空間的には教室の外へ、時間的には授業時間以外も活用し、様々な活動を展開することで教科書の域を超えた学びの創出につながったと感じている。 第二に、次年度への発展を見据えて実践を終えることができた点が挙げられる。本実践は、年度末におこなったため、ともすれば一過性の取り組みで終わってしまうところであった。しかし、セミナーを企画・運営するなかで、セミナーの振り返りや次年度に向けた話し合いもおこなわれ、次年度への展望をもった状態で、セミナーの全日程を終えることができた点も本実践の成果といえよう。 一方で課題としては、「通信制高校の実態(教育システムや生徒像)にあわせた防災学習を行う点」「継続して実践することで、学校としての防災意識の向上を目指す点」「より身近な保護者や地域を巻き込んだ防災学習に発展させる点」などが挙げられる。 |
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5.さいごに 本稿では、クラーク姫路校で行った防災セミナーの概要について整理を行った。 阪神・淡路大震災から30年が経とうとしている今、兵庫県に住む高校生にとっても「防災」や「災害」を自分事として捉えることが難しくなっている。むしろ、「自分たちとは関係のないこと」という印象を抱いている高校生も少なくないのではないだろうか。だからこそ、「防災」や「災害」を教科書の学習で終わらせるのではなく、よりリアリティをもたせて、生徒に伝えていく必要があると感じている。今回の実践も、「防災」「災害」をより身近に感じるために、能登半島地震の発災直後から企画を練り、座学をなるべく最小限に抑え、演習や実技を多く組み込んでいる。これを一過性の取り組みとせず、次年度の向けて見直し、充実を図っていきたい。 |
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(参考文献) 【謝辞】 本実践を行うにあたって、姫路東消防署、姫路市危機管理室、姫路市市民活動・ボランティアサポートセンター、ひめじでごみひろいなど、多くの方にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。なお本稿は、筆者が関西教科教育研究会でおこなった紙上研究発表「通信制高校における防災セミナーの実施報告」をもとに執筆しています。ご笑覧いただけますと幸いです。 【引用参考文献】 ・日本社会科教育学会(編)『社会科教育と災害・防災学習』明石書店、2018年 ・日野宗門「地域防災図上演習の進め方その3 避難所HUG」、令和6(2024)年4月。 https://www.n-bouka.or.jp/local/pdf/2015_03_28.pdf ・姫路市版携帯・災害避難カード「命のパスポート」、令和7(2024)年4月。 https://www.city.himeji.lg.jp/bousai/0000008691.html |
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