生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2025年1月10日
 
 

通信制高校における点字絵本寄贈プロジェクトの実践(つうしんせいこうこうにおけるてんじえほんきぞうぷろじぇくとのじっせん)

キーワード : 点字 、ボランティア 、体験活動 、通信制高校
八田 友和(はった ともかず)
 
 
 
  1.はじめに
 本稿の目的は、クラーク記念国際高等学校芦屋キャンパス(以下、「クラーク芦屋校」と表記する)でおこなった点字絵本作成ボランティアの取り組みについて紹介することにある。
 クラーク芦屋校は、生徒が多様なことに興味関心をもち、自立した青少年として成長するために、教育目標として「次のステージで活躍できる人材の育成」を掲げており、その実現に向けて多くのボランティア活動・体験活動を実施している。コロナ禍においても「文化遺産清掃ボランティア」「ガードレールの清掃活動」「校内草抜き大作戦」「教室から世界を応援しよう!」といった様々な活動を展開している。このように多様なボランティア活動を企画する背景には、様々な挫折や困難を経験した生徒の存在が挙げられる。生徒の実態や個性に応じたボランティア活動を計画することは、様々な分野や活動に興味関心を抱き、目標の達成へ向かって意欲をもち、生き生きと活動する子どもたちの育成に寄与すると考えている。
 以上を踏まえ本稿では、クラーク芦屋校で行ったボランティア活動のうち「点字絵本寄贈プロジェクト」を取り上げ、活動内容について整理をおこなう。
 
 
 
  2.実践の概要
 ここでは、点字絵本作成ボランティアの概要について整理・提示する。
1)名  称:点字絵本寄贈プロジェクト
2)日  時:2021年11月15日(月)、22日(月)、12月 1日(水)
3)場  所:クラーク芦屋校
4)活動主体:地域研究部(部活動)の生徒および2年生有志
5)参加人数:38人(のべ人数)
6)担 当 者:筆者
7)協  力:ゆめさき6点の会
8)実践の概要
 本実践は、「街中にある点字を見つけてみよう」「点字の概要説明」「目が見えない人の体験をしてみよう」「点字をうつ練習をしよう」「点字絵本を作成しよう」の順に行った。ここでは、時系列に沿って、実践の整理をおこなう。なお、「ゆめさき6点の会」からは、携帯用点字器などの貸し出しを受けている。
 
 
 
  3.実践の内容
1)街中にある点字を見つけてみよう
 まず、参加者希望者を教室に集め、「点字」をテーマにした活動をおこなうことを伝えた。その際、「普段の生活の中で、点字を見たことがあるか(具体的にどこにあるか)」と聞いたところ、「どこにあるかわからない」「あまり見ない」との返答が多数を占めた。そのため、街中にある「点字」を探してもらう活動を組み込んだ。具体的には、個人ないしグループで街を散策し、「点字がどこで」「どのように使われているか」を調べる学習をおこなった。参加者の多くが電車で通学しているため、駅で点字を見つけた生徒が多数確認できた。他にも、「点字ブロック」や「自動販売機のお釣りのレバー」「公衆電話の硬貨投入口」など、様々な場所で点字を確認していた。普段何気なく歩いている通学路も、注意深く観察することで、様々なところに点字が設置されていることに気付いた。なお点字を見つけた際は、その対象物を写真に撮り、チャットツールを用いて筆者に写真と場所を送るように指示を出している(後日、写真と活動の様子をまとめて、『ボランティア通信』を作成し、参加者および保護者に配布した。以降の活動も同様である)。
2)「点字の概要説明」と「目が見えない人の体験をしてみよう」
 次に、スライドを使いながら「点字」について説明を行った。専門的な固い話ではなく、「点字はどんな背景があって生まれたんだろう」「点字を発明したのは誰だろう」といったトピックを複数取り上げながら、「点字」や「視覚障害」について説明をおこなった。最後に、「私たちにできることって何だろう」というテーマをもとに参加者全員で話し合った。その後、休憩をはさみ、「目が見えないってどんな状態だろう」「どんなことに困るだろう」などと問いかけ、「目が見えない状態」を教室で疑似体験してもらった。目が見えない人は、「物を触ること」「におい」「音」など、様々な情報をもとに行動していることや、「得意なこと」と「苦手なこと」があることに気づいてもらった。その際、多くのことを視覚情報だけで判断している私たちにとっての「得意なこと」「苦手なこと」についても考えてもらった。
3)「点字をうつ練習をしよう」
 次に参加者同士で、ペアやグループを作り、携帯用点字器を使って点字をうつ練習に取り組んでもらった。まずは、点字の五十音表を見ながら、「あいうえお」「かきくけこ」とうってもらった。そこで、点字のもつ法則性(「あ行」をもとに「か行」以降の点字がデザインされていること)、点字をうつ方法、うつ際のポイントについて説明をおこなった。
 続いて、「おにぎり」「がっこう」「きょうしつ」「わたしはこうこうせいだ」など、濁音等が入り混じった単語や文章を点字でうってもらった。点字をうつことが初めての生徒も多く、お互いに助け合いながら作業に取り組んでいる姿が印象的であった。
4)「点字絵本を作成しよう」
 本実践の締めくくりとして、これまで学んだことを振り返りながら、「目が見える人も見えない人も楽しく読める絵本を作ろう!」というスローガンのもと点字絵本の作成を行った。まず、参加者同士でペアないしグループをつくってもらった。次に、携帯用点字器や点字タックペーパーなど、必要な道具を配布し、作業に取り掛かってもらった。なお本実践では、五味太郎氏の絵本『世界は気になることばかり』の点訳に挑戦してもらった。いざ作業がはじまると、「これであってるかな」「私前半つくるから、後半お願い」など、作業分担をして、助け合いながら製作に取り組んでいた。濁音や数字など、少し難しいところは、ダブルチェックしている姿も印象的であった。加えて、目が見える人も楽しめるように、文字や絵の部分にタックペーパーを貼らず、余白部分に貼るなど、工夫している様子も見られた。2時間ほどかけて何とか完成することができた。
 完成した点字絵本は、「ゆめさき6点の会」に寄贈した。なお寄贈した点字絵本は、小学校での出前授業で教材として使用した後、学校図書館に寄贈される予定である。
 
 
 
  4.考察
 本実践の成果として二点挙げることができる。
 第一に、段階をおって活動を展開し、活動の成果を社会に還元できた点が挙げられる。本実践は、生徒の実態や理解度に応じて、「街中にある点字を探そう」「点字の概要を理解しよう」「目が見えない体験をしてみよう」「点字をうってみよう」「点字絵本を作成しよう」という段階をふんでおこなった。また、実践の冒頭で街中にある点字を見つける活動を組み込むことで、自分たちとかけ離れた問題ではなく、身近なところに潜んでいるテーマであることを意識するきっかけづくりもおこなった。加えて、作成した点字絵本を外部団体(ゆめさき6点の会)に寄贈することで、社会貢献や達成感を得ることもできたと感じている。
 第二に、活動時に豊かなコミュニケーションが形成された点が挙げられる。先述したように、参加生徒のほとんどが点字をうつ体験をしたことがなかったため、助け合いながら活動している姿が印象に残っている。「みんな初めて」「みんな知らない」という状態が、質問しやすい空気を作っていたのか、自由に質問をおこない、意見を出し合う姿が確認できた。
 
 
 
  5.さいごに
 本稿では、クラーク芦屋校でおこなった点字絵本作成ボランティアについて整理・提示を行った。
 筆者は、ボランティア活動をおこなう際、「子どもたちの実態に即していること」「社会と関わる活動であること」「社会に還元できる活動であること」「楽しく・面白い活動であること」の4つを重要視している。ボランティア活動をおこなう際、「成すことによって学ぶ」ことを念頭に置くことで、普段の授業・活動では得られない様々な体験や経験の獲得が目指される。一方で、「活動あって学びなし」という言葉に代表されるように、“楽しかった”、“面白かった”で終わる活動も多い。もちろん、時には純粋に“楽しかった!”、“面白かった!”と思える活動も大切ではあるが、学校という教育機関でボランティア活動をおこなう際は、何か付加価値を付ける必要があると感じている。これからも上記の4つの考え方をベースに、“他の教科科目との連携”や“専門家の活用”などを図りつつボランティア活動を展開していきたい。
 
 
 
  (参考文献)

【謝辞】
 本実践をおこなうにあたり、河邊文宏氏、石川眞椰氏、ゆめさき点字6点の会にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。本稿は拙稿「広域通信制高校における点字絵本作成ボランティアの取り組み−「点字絵本寄贈プロジェクトを事例に−」(『関西教職教育研究』第12号,2023年収録)をもとに記述しています。あわせてご参照ください。
【引用参考文献】
・八田友和「広域通信制高校における点字絵本作成ボランティアの取り組み−「点字絵本寄贈プロジェクト」を事例に−」『関西教職教育研究』第12号、2023年 
・クラーク記念国際高等学校芦屋キャンパス地域研究部『クラーク記念国際高等学校芦屋キャンパス地域研究部報告書』第1巻、2022年 ほか
 
 
 
 
   



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