生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2025年1月10日
 
 

通信制高校におけるアカデミックスキルの育成を目指した実践(つうしんせいこうこうにおけるあかでみっくすきるのいくせいをめざしたじっせん)

キーワード : アカデミックスキル 、通信制高校 、総合的な探究の時間 、初年次教育 、高大接続
八田 友和(はった ともかず)
 
 
 
  1.はじめに
 本稿の目的は、通信制高校の卒業を控えた生徒が、進学・就職先でのスタートを円滑に切ることを目指したアカデミックスキルセミナーの概要を整理・提示することにある。
 
 
 
  2.セミナーの概要
 ここでは、クラーク記念国際高等学校姫路キャンパス(以下、「クラーク姫路校」と表記する)でおこなったアカデミックスキルセミナーの概要について整理する。
1)名  称:大学1年生を先取りしよう!
2)場  所:専修学校クラーク高等学院姫路校、姫路市立城内図書館、姫路城
3)担  当:筆者
4)対  象:クラーク姫路校 3年生
5)期  間:2023年11月〜2024年1月(全9日間)
6)実施時間:1コマ50分
7)授業科目:総合実践、発展地歴
 セミナーの構成は、各地の大学がおこなっているアカデミックスキル教育の構成や学習過程を参考にしている。多くの大学で、「プレゼンの方法」をセミナーに取り入れているケースが散見されたが、クラーク姫路校では、「情報基礎」や「ディスカッション&プレゼンテーション」の授業内で、同内容を学習しているため、セミナーからは外している。なお、全ての講座終了時に、本実践の内容・方法はあくまでも一例であり、大学入学後は、各大学や専攻する分野のルールに従うことも併せて伝えている。
 
 
 
  3.セミナーの学習過程
 次に、クラーク姫路校でおこなったアカデミックスキルセミナーについて、具体的な授業内容を生徒の感想とともにまとめていく。
1)大学ってそもそも何をするところ?
 まず、アカデミックスキルセミナーの概要について説明をおこなった。その際、東京理科大学が同大の学生を対象に実施した入学時の成績と卒業時の成績の相関に関する調査の結果を提示した。本調査では、入学試験の結果と卒業時の成績に相関関係はなく、むしろ1年生終了時の成績と大学卒業時の成績に相関関係があることを明らかにしており、本セミナーの動機づけになると考えたためである。そのため、同大のホームページやWebサイトの記事などを示しながら、「大学1年生で良いスタートを切れると、その後の大学生活が順調に進んでいく可能性が高いこと」を説明した。そのうえで、高等学校と大学・短期大学等の違いについて、「時間割、教科書、クラス、出席、卒業要件」などを視点に説明をおこなった。高等学校と大学・短期大学等との違いを明らかにすることで、その後のアカデミックスキルセミナーを展開しやすくした。
2)シラバスを見て履修登録をしよう!
 インターネット上でシラバスを公開している大学を見つけ、サイトを見ながら時間割を組み立ててもらった。なお、時間割を組み立てる注意点として、115単位以上になるように選択すること、2大学に通う際の条件(通学に時間がかかる、アルバイトをする予定など)を考慮することを指示した。
履修科目を選択する際は、自身の興味・関心だけでなく、「資格・免許取得に関する科目か否か」「必修・選択必修、自由選択科目の確認」「科目に重複がないか」を確認するように伝えた。生徒からは、「自分で時間割を組めるのは楽しみだけど、たくさんあるシラバスを見るのが大変そう」「今回の授業を踏まえて、早い段階でシラバスを読んでおこうと思いました」「入学前に大学のホームぺージなどで情報収集しておきます」などの感想が寄せられた。
3)メールの書き方をマスターしよう!
 まず、メールを使用する場面を複数例示し、メールの送り方や作法を学ぶ目的について考えた。次に、メールの基本形として「挨拶⇒名乗り⇒本文⇒結び」の順に作成することを伝えた。
 次にメールの文面をいくつか提示し、「おかしい」「ここが変」と思う部分を見つけ、適切な言葉・フレーズに置き換える練習をおこなった。そのうえで、「To・Cc・Bccの機能」「署名の設定」など、便利な機能を紹介した。最後に、本時の集大成として、場面設定を行ったうえで、筆者あてにメールを送ってもらった。
4)いろんな情報検索の方法を試してみよう!
 情報検索の実践のみ、2023年11月に発展地歴(専修学校科目)で実施している。授業では、歴史を調べる・探究する際に役立つデータベースやサイトの紹介を行った。生徒は一人一台タブレット端末をもっているため、それぞれのサイトでできることを説明したうえで、利用方法を演習形式で学習した。具体的には、「〇〇時代について書かれた『〇〇』という本は、〇〇図書館にあるか」「自身が進学する学校にはどんな先生がいるか」などの問いかけを行い、その解答を適切なサイトを選んで見つける練習をおこなった。
5)正確な情報を入手するために
 先述した「情報検索」の授業をおこなった際、検索結果の上位に表示されるものを「正しい情報」と判断している生徒が多く見受けられた。一方で、情報を発信している機関や、情報が発信された日時を確かめるなど、「発信源の確認」「日時の確認」「取捨選択」をしている者は少なかった。そのため、「欲しい情報を適切なサイトから収集する」練習に取り組んだ。そのうえで、「調べたサイトの名称」「確認した年月日」「サイトのURL」「そのサイトを選んだ理由」をまとめさせた。授業のまとめとして、大学のレポートを作成する際は、「信頼できる情報源にあたること」、「参照したサイトの名称や日時など必要な情報を記録すること」、「最新の情報にあたること」を伝えた。生徒からは「検索して上の方に出てくる情報が正しい・新しいと思ってた」「今まで1つの情報をみて満足していたから、これからは複数のサイトを調べてみようと思う」などの感想が寄せられた。
6)図書館での学習に向けた事前学習
 セミナーの一環として、姫路市立城内図書館への訪問を予定していたため、前日に事前学習をおこなった。まず、「図書館で何ができるか」と生徒に問いかけ、生徒がもつ図書館のイメージや既有知識について確認を行った。すると、「本を読むことができる」「本を借りることができる」「調べもの・受験勉強ができる」との回答があったものの、それ以外に利用・活用できるサービスへの言及はなかった。そこで筆者から「レファレンスサービス」「複写サービス」を伝えると、一様に驚いている様子であった。そのため、図書館が提供する様々なサービスを紹介したうえで、城内図書館を事例に図書館で利用・活用できるサービスについて調べてもらった。
7)図書館の使い方・レファレンスサービスを体験!
 城内図書館に移動して、生徒に6つのミッションに取り組んでもらった。なお、普段図書館を利用しない生徒が多いため、簡単に取り組めるミッションを複数提示した。具体的には、「〇〇という本を探してきてください」、「本の10ページ目と奥付をコピーしてください」といったミッションを課している。後者のミッションであれば、司書との会話のなかで、「コピー=複写」であることを知り、複写申請用紙の存在と意味を理解することになる。図書館での学習を終えた生徒からは、「図書館での勉強楽しかった」「大学に行ったら、大学図書館を活用しようと思う」など、様々な感想が寄せられた。
8)アンケート調査の方法(基礎編)
 アンケート調査の方法として、筆者がこれまでに実施したアンケート調査を事例に説明した。具体的には、アンケート調査前の依頼方法や、調査後の御礼状の書き方など、アンケート調査時のマナーや作法についてレクチャーした。また、アンケート調査に限らず、研究や調査を行う際は、適切な方法で依頼をすること、実施後は、御礼状の作成や研究成果のフィードバックをおこなうことも併せて伝えている。加えて、アンケート調査で知り得た個人情報を適切に管理することや、廃棄時のルールについても併せて解説している。
9)フィールドワーク
 文化遺産の巡り方・見学時のマナーを学習することを目的に姫路城訪問を企画した。
 1月29日(月)に事前学習をおこなった。事前学習では姫路市などが作成・発行しているパンフレットを複数用意し、姫路城の概要、歴史、キャンパスから姫路城までのアクセス方法、関連イベントなどを確認した。なお配布した資料は、公益社団法人姫路観光コンベンションビューローからいただいた。
 1月30日(火)は午前中に事前学習やグループ分けを行い、午後に姫路城を訪問した。見学はグループ毎におこない、「姫路城喜斎門跡→有料ゾーン前で集合→天守閣→三の丸広場→西の丸」の順に巡ってもらった。生徒達には、「指定した6つのポイントを発見すること」「2か所でグループの集合写真を撮ること」「自分が“いいなぁ”と思った場所で写真を撮ること」というミッションを課した。外国人とコミュニケーションをとっている生徒も確認でき、結果として、異文化交流を図る機会にもなった。
 
 
 
  4.本実践の成果と課題
 本実践の成果としては、1)通信制高校に在籍する生徒の実態に即したアカデミックスキル教育を提供できた点、2)探究学習(日本史探究や世界史探究など)への応用が期待できる点が挙げられる。一方で、課題としては、1)アカデミックスキルの育成を目指した大学初年次教育のシラバス分析、2)「総合的な探究の時間」の基盤となるアカデミックスキルの育成についての検討、などが挙げられる。
 
 
 
  5.さいごに
 筆者がクラーク芦屋校に勤務していた際、「履修登録ができなくて大学をやめました」と報告に来た生徒を複数見てきた。卒業後の進路決定に主軸を置いた指導はもちろん大切であるが、その限界を感じた瞬間でもあった。通信制高校における進路指導では、在籍する生徒の特性や背景をふまえた進路決定後に役立つ知識や情報の提供も必要不可欠であると感じている。そのため、先行授業実践はもちろん、生徒や保護者、教職員などと意見交換をおこない、実践に反映させていきたいと考えている。
 
 
 
  (参考文献)
【謝辞】
 本稿執筆にあたり多くの方に御教示ならびに御配慮を賜りました。深く御礼を申し上げます。なお、本実践は拙稿「通信制高校におけるアカデミックスキルセミナーの検討」(『関西教職教育研究』第15号、2024年収録)をもとに記述しています。あわせてご参照ください。
【引用参考文献】
・越智拓也ほか「「総合的な探究の時間」を基盤としたアカデミックスキルの育成に関する実践」『日本科学教育学会第47回年会論文集』2023年 ほか

 
 
 
 
   



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