生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2025年1月10日
 
 

通信制高校における学校適応感の向上を目指した歴史学習の実践(つうしんせいこうこうにおけるがっこうてきおうかんのこうじょうをめざしたれきしがくしゅうのじっせん)

キーワード : 学校適応感 、通信制高校 、オンライン動画配信サービス 、個別最適な学び
八田 友和(はった ともかず)
 
 
 
  1.はじめに
 本研究の目的は、通信制高校における学校適応感の向上を目指した歴史学習の在り方を、オンライン動画配信サービスの活用を事例に提案することにある。
 筆者が勤務するクラーク記念国際高等学校(以下、「クラーク高校」と表記する)には、小・中学校において不登校を経験した生徒が多く在籍している。そのため、中学校から高校への円滑な接続・移行は生徒の学校適応感を向上させるうえで、必要不可欠な作業となっている。一方で、生徒の特性を高校に伝えることが、入試において不利に作用することを心配し、生徒情報が高校側に伝わらないケースも散見される。そのため、高校入学後に改めて生徒の特性や情報を収集することも珍しくない。
 生徒の特性を理解したうえで教科指導や生活指導をおこなうことは、一人ひとりに合った方法で指導や支援が模索できることはもちろん、生徒達の学校適応感の向上にも繋がると考えている。また、教職員だけでなく、生徒が自身の「強み」や「弱い部分」を理解することは、生涯にわたって学び続ける姿勢や方法を育む点においても有効な方策になり得るのではないだろうか。
そこで本研究では、歴史学習においてオンライン動画配信サービスを活用した学校適応感の向上を目指した実践をおこなったため、その概要を紹介する。
 
 
 
  2.オンライン動画配信サービス
 本実践では、NTTドコモが提供するオンライン動画配信サービスgaccoを活用した。gaccoには、本格的な大学レベルの教養講座からリスキリングのためのビジネススキル講座まで幅広い講座が用意されており、自身の興味・関心に応じて講座を選択できる。
 gaccoを活用した理由としては、1)原則無料で利用できる点(一部の講座は有料)、2)動画を何度も見返せる点、3)場所や時間を学習者自身が選べる点(欠席した場合でも自宅等で視聴可能な点)、4)視聴予定の動画に字幕がついている点、5)動画の時間が約10分前後で設定されており、集中が持続しやすい点、6)普段の学習内容と関連する動画が公開されている点、7)全講座を受講すると修了証が発行される点、8)生徒が一人一台タブレット端末を持っている点(タブレットを忘れた場合も、学校のパソコンを貸し出せる)が挙げられる。
 なお先述したように、gaccoには様々な講座があるが、今回の実践では、「世界史から学ぶ会計入門」、「コテンの法則!!(1〜3)」の合計4講座を受講した。筆者が担当する発展地歴において特設単元として位置づけて取り組んでおり、世界史や日本史に関係する講座となっている。
 
 
 
  3.実践の概要
 ここでは、クラーク高校姫路キャンパス(以下、「クラーク姫路校」と表記する)でおこなった実践の概要を紹介する。
1)名 称:gaccoの講座名をそのまま実践名としている
2)目 的:自分の「強み」「弱み」を知る。それをふまえて自分に合った学びの方法をみつけ、工夫して課題に取り組む。教科書や授業以外で「歴史」を学ぶ機会・方法について考える。期日や指示を守って、課題を提出することを通して、規律性をみにつける。
3)期 間:2022年10月〜2023年10月
4)対 象:クラーク姫路校2・3年生
5)科 目:発展地歴(専修学校科目)
6)担 当:筆者
7)備 考:本実践は2年間かけて行っており、「対象」で述べた2・3年生はいずれも同じ生徒である。
 
 
 
  4.授業の流れ
 授業は「講座登録」「gaccoを使った学習」「アンケートの回答/修了証の提出」の順に展開した。ここでは時系列にそって実践を紹介していく。なお、オンライン動画配信サービスを活用した学校適応感の向上を目指した部分を中心に取り上げるため、講座の内容については触れない。
1)講座登録
 まず、講座登録や受講方法に関しては講義形式で全員に説明をおこなった。スクリーンにgaccoの会員登録画面を投影し、生徒にもタブレットで同じ画面を開いてもらい、一緒に操作をおこなった。しかし、出席していた生徒の半数は、「自分のメールアドレスがわからない」「パスワードがなかなか設定できない」などの理由から登録に手間取ってしまったため、講座登録や受講方法の説明に約1時間使うことになった。タブレットの不調等を除き、全員が受講可能となった状態でgaccoの学習をスタートさせた(遅刻者や操作方法がわからない生徒は、休み時間や放課後の時間を使って個別に対応した)。
2)gaccoを使った学習
  「講座登録」が終わった生徒からgaccoでの学習を開始した。なお、動画を視聴するにあたって、筆者が作成した補助教材を配布した。この補助教材には、動画を視聴することで解ける問題だけでなく、「タブレットを使って調べる問題」「意味調べ」「自分の考えをまとめる問題」など、多様な問題を配列している。動画を視聴しつつ、補助教材に取り組むことで、講座の理解を促すだけでなく、一人ひとりの得意な部分と苦手な部分を明らかにすることを目的としている。なお、「歴史が好き」「歴史が得意」という生徒も少数ではあるが在籍しているため、ワークシート作成時に難易度の調整を行っている。また、講座ごとに作成した補助教材は、講座が進むにしたがって難しくなるように作成している。そのため、「歴史が好きな(得意な)生徒」「歴史が嫌い・苦手・よくわからないと感じている生徒」も、時間をかけて取り組めば全て解き終わる内容構成をとっている。
 最初は心配していたものの、結果として多くの生徒は特にサポートすることもなく、全ての課題に取り組むことができた。その背景として、「2オンライン動画配信サービス」で述べた理由に加え、再生速度や一時停止などが自由に操作できるため、自身の既有知識や能力に応じて視聴方法を変更できた点も生徒の負担軽減や課題のスムーズな提出に繋がったと思われる。また、本講座は自宅からも受講可能であり、欠席者は自宅で課題に取り組み、後日補助教材を提出することが可能である。「自分だけがわかっていない・進んでいない・取り組めていない」という感情を抱かせないような工夫を行った。
 一方で、3分の1程度の生徒には、筆者が机間巡視をおこない、個別にサポートや質問対応にあたることになった。もちろん、生徒の状況をみて課題に取り組めない(取り組まない方が良い)生徒に対しては、本課題への取り組みを促していない。
3)アンケートへの回答/修了証の提出
 講座終了後、gaccoの画面に表示された簡単なアンケートに回答してもらった。その後、修了証をダウンロードし、メールに添付して筆者に提出してもらった。加えて、少数ではあるが、gaccoが用意する多様な講座を見て、自主的に他の講座を受講している生徒も確認できた。
 
 
 
  5.考察
 本研究の成果としては、1)生徒自身が、自分の強みや弱みを理解することに繋がった点、2)教員(筆者)がどのようなことに気を付けながら授業を行うべきか、根拠に基づき内省することができた点、3)教科書や資料集以外の歴史を学ぶ方法について体験的に理解できた点、などが挙げられる。また、「生徒自身が自分の強みや弱みを知ること」、「自分にあった学習方法を知ること」は、将来にわたって学び続ける姿勢や認識を育むうえで、有効な方策になり得ると感じている。そのため、わずかな部分ではあるが、学校教育から生涯学習への接続を目指したものになったことも、成果といえるのではないだろうか。
 一方で課題として、1)本課題に最後まで取り組めなかった生徒や提出できなかった生徒こそ、より十分な支援が必要であり、さらなる対応を考える必要がある点、2)この取り組みでわかった一人ひとりの課題や強みを、他の教職員に共有することで、組織的な対策を行うきっかけにする点、などがあげられる。
 
 
 
  6.さいごに
 本稿では、通信制高校における学校適応感の向上を目指した歴史学習の在り方を、オンライン動画配信サービスの活用を事例に提案してきた。
 近年、通信制高校への入学者や転編入希望者が全国的に増加している。もちろん、積極的な理由・動機から通信制高校に入学・転編入する生徒も存在する。しかし、「在籍校から進級できない(留年してしまう)ことを伝えられた」「学校に行きたくない」「人間関係がうまく構築できない」など、ネガティブな理由から通信制高校に入学・転編入することになった生徒も多い。通信制高校特有の教育システムを踏まえ、一人ひとりに合わせた個別最適化を図ることが急務である。「通信制高校は最後の砦である」という意識をもって、今後も一人ひとりの生徒に対応していきたい。
 
 
 
  (参考文献)
【謝辞】
 本研究を行うにあたって、クラーク記念国際高等学校の先生方、元通信制高校教員である八田眞椰氏にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。なお本実践は拙稿「通信制高校における学校適応感の向上を目指した歴史学習の実践−学校教育から生涯学習への接続を目指して−」(『奈良大学教職課程報告』第16号,2024年収録)をもとに執筆しています。あわせてご笑覧ください。 
【引用参考文献】
・小川慶将『高等学校通信教育規程−令和3年改正解説−』勁草書房、2022年
・八田友和「通信制高校における学校適応感の向上を目指した歴史学習の実践−学校教育から生涯学習への接続を目指して−」『奈良大学教職課程報告』第16号、2024年
・八田友和「通信制高校における学校適応感の向上を目指した歴史学習の実践−学校教育から生涯学習への接続を目指して−」『日本生涯教育学会第44回大会発表要旨集録』2023年
・文部科学省『生徒指導提要』東洋間出版社、2022年
・ドコモ「gacco」https://gacco.org/ 令和6(2024)年3月確認。 ほか
 
 
 
 
   



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