登録/更新年月日:2023年8月11日
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1.ワークショップの概要 1)実施団体について 本稿で紹介するワークショップは「NPO法人ちゃいれじ」が実践したものである。団体名の「ちゃいれじ」は、「チャイルド(子ども)」と「レジリエンス(回復力)」の造語で、「ホンモノ!?体感!!こどもときずくワークショップ」をキーワードに、こどもを主対象とした、こどもの「知りたい」を応援するワークショップを企画・実施している。関西の学生を中心に、現役の学芸員、大学教員といったメンバーで、関西圏を中心に活動している団体である。今回の実践報告は、世界考古学会議の会期中に行ったワークショップの概要および成果をまとめたものである。 2)真弧とは 今回のワークショップでは真弧という道具を使用した。真弧は、主に出土したものを記録するために使用される考古学の道具である。使用方法は至って簡単で、先端部を測りたい計測物に押し込み、形状を記憶させるだけ。記憶された輪郭をなぞることによって、より正確な実測図が書けるようになる。日本から海外へのODAとしても送られた事例もあり、名実ともに日本考古学の代表ツールである。今回のワークショップは、真弧に対する理解を深めていただき、その上で、その真弧を作ってしまおう!という趣旨で開催した。 3)ワークショップの概要 本ワークショップは、子どもやその親子連れ(幼児を含む)、そして世界考古学会議第8回京都大会(wac-8)の参加者を対象に企画したものである。ここでは、京都文化博物館を会場に行った真弧ワークショップの概要を整理する。 3−1)ワークショップ名:「真弧。マコ?Mako!!〜考古学のヒミツ道具〜」 3−2)開 催 日:平成28年8月28日(日) 3−3)開催時間:午前10時〜午後4時 ※時間中は随時実施する形をとった。 3−4)開催場所:京都文化博物館別館2階会議室 3−5)参 加 費:無料 3−6)参加人数:88人 3−7)実施方法:真弧の実物を用いた実測体験を滋賀県文化財保護協会が担当し、真弧作り体験をちゃいれじが担当した。 3−8)共催:公益財団法人滋賀県文化財保護協会 3−9)広報等 GoGo土曜塾7・8月号、WAC-8関連イベント案内Web、みやこ土曜塾ホームページWAC-8ホームページ、京都文化博物館ホームページ、世界考古学会議(WAC-8)のサテライト会場でワークショップを実施したこともあって、口コミによる広報効果もあったと考えられる。 |
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2.ワークショップの内容 今回の真弧ワークショップを「第1段階 真弧を知る」「第2段階 材料を切る!そろえる!はさみこむ!?」「第3段階 完成?いや、納得できない!」「第4段階 あらゆるものを図りだす」の4つの段階に分け整理していきたい。 1)真弧を知る まず、参加者は「マコってなんだろう?」という状態でのスタートである。 そこで、真弧がどんな道具か知っていただく必要がある。真弧を手に持ってもらい、スタッフが口頭で説明しながら、土器の欠片や石膏で固めたヤクルトなどを測ってもらう。まさに、“百聞は一見に如かず”ならぬ“百見は一触に如かず”である。使用方法や特徴など、真弧がどんな道具なのかわかったところでマコ作り体験に移行していく。 2)材料を切る!そろえる!はさみこむ!? まず、15本のマドラーを選んでもらう。選んだマドラーの真ん中に線を引き、その線に沿ってマドラーを半分に切る。子どもたちは、1人ではなかなか切ることが出来ないので、サポートしながら半分に切っていく。あちこちに手で支えていないマドラーの半分が飛んでいき、てんやわんやしながらの作業であった。次にアイスキャンディの棒を2本用意し、片方に防水テープを貼り付ける。子どもたちは「どこが真ん中だろう」とテープを持った手を右往左往しながら標準を定めていた。テープを貼り終えると、飛騨春慶の入れ物に入った大量のゴムの中から、自分の好きなゴムを2つ選ぶ。「これでもない、あれでもない」といいながらゴムを選んでいる姿が印象的であった。 次に、片方のゴムでキャンディ棒同士の端を固定し、その間に切ったマドラー30本を入れていく。ここが一番の難所だったようだ。キャンディ棒を手で固定した状態でマドラーを1本1本挟んでいくわけであるから、とても子ども1人で出来るものではない。私たちスタッフや親御さんがキャンディ棒を固定して、その間に子どもたちが必死にマドラーをつめていった。1本1本丁寧に挟んでいく子どもから、30本一気にはさもうとする子どもまで、作り方は人それぞれであった。全てはさみ終えると、もう1つのゴムでキャンディ棒をくくり、手作りマコが完成する。 3)完成?いや、納得できない! 手作り真弧が完成した。少なくとも、私たちスタッフも含め周りの大人はそう思っていた。しかし、子どもたちは納得いかない様子。「ゴムがきちんと締まっているか」「マドラーの高さがあっているか」など、子どもたちの厳しいチェックが入る。単純な工程が多いとはいえ、手の込んだ手作りマコ体験である。自分で手直しできるところは直し、ゴムをきつくするなど、自力ですることが難しい作業はスタッフや周りの大人に頼んでいた。 4)あらゆるものを測りだす! ここからが本当のスタートだった。子どもたちばかりでなく、大人たちも身近なモノを測りたい衝動にかられる。そして、身近に置かれたものを手当たり次第に、時には人間の顔を手作り真弧や説明・展示用に準備したホンモノの真弧で測っていく。測る対象物がなくなると、自分の指や鼻など体の一部を測り、両親の指や鼻の大きさと比較している子どもたちもおり、各々の子どもたちが自由な発想で真弧を活用した。 |
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3.考察 本稿では、手作り真弧ワークショップの概要について整理を行った。今回のワークショップに参加したのべ100人超の人々の関わりのなかで主に二点の発見があった。 第一に、実施者と子どもたちの楽しい・嬉しいと感じるポイントの違いである。土器づくりを例に考える。実施側は、「いかに上手くつくれるか」に考えがいきがちであるが、一方で、子どもたちは、「粘土をのばす行為」「丸める行為」「ひっつける行為」その1つ1つに喜びや楽しみを見出し、その副産物として完成品の土器がついてくるという感覚ではないだろうか。今回のワークショップを見ていても、マドラーを半分に切る行為、好きな色のゴムを選ぶ行為、半分に切ったマドラーをキャンディ棒に挟んでいく行為を行っているときに一番、笑顔で楽しそうに、また黙々と取り組んでいたように感じた。「ワークショップ=遊びの連続」「ホンモノ=子どもを魅了するモノ」と定義してみても面白いのではないだろうか。少なくともマコは、子どもたちだけでなく、大人も知らない考古学専門の道具である。そんな道具を扱ったワークショップがまがりにも成功した背景には、「真弧という魅了するモノ」「子どもとともに創り上げていくヒト」そして「遊びの連続」があったからではないかと思う。今回のワークショップをステップに、未就学児や小学校低学年の子どもたちに対して、どんなワークショップができるのか今後も考えていきたい。 第二に、子どもたちが考古学に関わる時期についてである。今回、ワークショップを企画して感じたことは、小学校に入学してからではなく、もっと早い段階から考古学に関われるということだ。現状は、歴史学習が始まる小学校6年生から、考古学を学ぶ・触れるという考えが主流だと思われる。その背景には、「歴史を学ばなければ(知識がなければ)内容がわからないはずだ」「価値が分からないはずだ」といった考えがあると想像できる。確かに、6年生にならなければ、縄文土器、弥生土器、土偶、勾玉といった考古学のキーワードは勉強しないだろう。しかし、「わからない=できない、意味がない」にはならないと、本ワークショップを通じて再確認した。学校で習ってからではなく、子どもたちが興味をもった時点でアプローチすることが大切ではないだろうか。 一方で、課題も二点指摘できる。 第一に、ワークショップを開催する土地や場所を最大限生かせる資料の選定を行う点である。今回の場合であれば、京都文化博物館周辺で出土した資料や平安京に関係する遺跡で出土した資料を準備するなど、資料とワークショップを行う空間を関連づける必要があった。次回以降ワークショップを行うときは、地元の博物館や埋蔵文化財センターと連携を図りつつ、資料の選定・準備を行いたい。 第二に、手作り真弧ワークショップの位置づけである。今回の真弧ワークショップにおいて、子どもたちの興味関心のレベルは主に、3つの段階があると考えられる。第1段階は、ワークショップをすることへの関心、第2段階は真弧や、はかる対象物への関心、そして第3段階は、その道具や遺物を作った人への興味・関心である。これら3段階のうち、どこまで達成できたのか、達成に向けて誘導した場合と、そうでない場合(誘導しなかった場合)、どのように違う結果がでるのか、ワークショップの達成度と位置づけについても、考えていきたい。 |
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(参考文献) ・八田友和「手作り真弧ワークショップ−「遊びの連続」が織りなす歴史系ワークショップの実践−」『日本生涯教育学会論集39』pp.145-152,2018年 ・今井和子編『遊びこそ豊かな学び 乳幼児期に育つ感動する心と、考え・表現する力』ひとなる書房2014年 ・しみずみえ『あそびのじかん-こどもの世界が広がる遊びとおとなの関わり方-』英治出版2016年 ・中野民夫『ワークショップ-新しい学びと創造の場-』岩波新書2001年 ・広瀬浩二郎編『ひとが優しい博物館 ユニバーサルミュージアムの新展開』青弓社2016年 ・池野範男ほか『小学社会6年上』日本文教出版株式会社2016年 |
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