生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2007(平成19)年6月24日
 
 

教育基本法と生涯学習の理念 (きょういくきほんほうとしょうがいがくしゅうのりねん)

the Fundamental Law for Education and the principles of lifelong learning
キーワード : 教育基本法、生涯学習、生涯学習社会、評価
岡本薫(おかもとかおる)
1.教育基本法と生涯学習の理念
   
 
 
 
  (1)「理念としての生涯学習」という考え方の定着
 平成18(2006)年に改正された教育基本法では、その第3条に初めて「生涯学習の理念」という見出しを付した条文が設けられた。
 生涯学習という概念・用語は、従来から「個々の学習」「個々の学習活動」「学習や学習活動の総体」「一定の理念」など様々な意味に用いられてきた。この新しい条文によって、少なくとも法制上は、生涯学習というものについて、ひとつの「理念」であるという位置づけが確定されたと言えよう。
(2)「理念」の内容
 ここで示された生涯学習の理念とは、ある社会を目指すということであり、その在るべき社会の具体的な内容は、次項で述べるように、臨時教育審議会、中央教育審議会、生涯学習審議会等が用いてきた「生涯学習社会」の定義とかなり類似している。
 むしろ、ここで特筆すべきことの第一は、「国民一人一人」が「学習する」ことの目的を、「自己の人格を磨」くこと及び「豊かな人生を送る」ことと、法定したことだろう。学習者が学習活動を行う目的は、違法でなければ本来自由であるはずだが、ここでその目的を一律に法定したことについては、疑義が提起される余地があろう。
 第二は、「生涯学習社会」という用語が用いられていないことである。従来から政府によって「生涯学習を振興する」だけでなく「生涯学習社会の構築を目指す」と言われてきたのは、「学歴社会」を乗り越えて別の「社会」を作るためと説明されてきた。このことは、臨時教育審議会、中央教育審議会、生涯学習審議会のすべてが、生涯学習振興の最も重要な目的として「学歴社会の弊害是正」を挙げていたことにも反映されていた。生涯学習の理念を法定した条文に、生涯学習社会という用語が用いられていないことについては、疑問が残る。
(2)目標としての「社会」の内容
 生涯学習社会という用語は用いられていないものの、目指すべき社会の内容は、(国民一人一人が)「その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことができる社会」と具体的に規定されている。
 政府や審議会が従来から用いてきた生涯学習社会の定義は、(人々が)「生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される社会」というものであった。
 この両者を比較すると、第一に、学習者による学習機会の「自由な選択」という要素が排除されている。第二に、学歴社会を打破するという意識で言われていた「成果の適切な評価」ということが、「成果を適切に生かすことができる」という、表現は似ているが全く異なる内容に変えられている。
 特に後者については、「学習成果について、社会がそれを適切に評価するようにする」という従来の目標(社会の問題)が、「学習成果について、本人がそれを適切に生かせるようにする」という目標(個人の問題)にすり替えられている−−という批判もあり得よう。
 
 
 
  参考文献
岡本薫『新訂 入門・生涯学習政策』(財)全日本社会教育連合会 平成16年(2004年)
 
 
 
 
   



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