生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

生涯発達と生涯学習 (しょうがいはったつとしょうがいがくしゅう)

life-span development and lifelong learning
キーワード : 生涯発達の理解、発達段階と発達課題、生涯発達心理学と老年学、生涯学習・楽集
加藤千佐子(かとうちさこ)
2.生涯発達と生涯学習・楽集
  
 
 
 
  (1)生涯教育・学習が注目されだした要因
ア.ラングランが生涯教育を提唱した
 ラングラン(Lengrand,P.)は1965年ユネスコの成人教育推進国際委員会の席上で、発展途上国の補償教育として「生涯教育」を説いたが、先進諸国における少子・高齢社会へ多大な影響を及ぼし、生涯学習社会への道筋を示した。
イ.平均寿命が延びて自己実現を欲する高齢者の増加
 厚生労働省が発表した平成16(2004)年簡易生命表(平成17(2005)年7月22日)によると、日本人の平均寿命(ゼロ歳の平均余命)は男性78.64歳、女性85.59歳で過去最高となった。ハッチンス(Hutchins,R.M.)は、誰もが「賢く楽しく健康に生きる」ために生涯にわたり学習することが大切である述べている。
ウ.生涯発達心理学や老年学からの知見・解明
 老化という用語より加齢(aging)の方が、高齢期の心身の変化が衰退のみではないことを表すので有用されだした。三宮(1989)は60代頃までは、情報処理能力における年齢変化は見いだせないし、60代以降の低下は、気質的障害や病気によるものが多く、自然発生的な能力低下ではないと指摘している。
 生涯発達心理学は、これまでの発達観のように初期経験・学習等の決定論や完態説(青年・成人期で心身の状態が理想的な状態になる)等を否定し、人は生涯発達・変化し続けるので、再学習が可能で、可逆的な存在であるとする。
(2)生涯学習・楽集社会づくりのポイント
ア.高齢者の孤独感への配慮
 人は、人や物事から物理的・空間的に隔絶されると孤立を味わい、社会・人間関係から阻害されると孤独感に陥る。高齢者は身体能力の減退、経済力の低下、知己からの離別・死別を味わう。特に独り暮らしの高齢者の場合、孤立して孤独感に苛まれると、離れた家族・血縁者はもとより隣近所同士にも援助の手を差し伸べることすらできずに、諦観からうずくまってしまうことがある。こうした高齢者に対して地域社会は日常から支援態勢のネットワーキングが重要である。
イ.高齢者の生きがいは仲間と集い共に楽しく学ぶこと
 人が幸せを実感してより良く生きようとするには、心身の健康、家族・職場・地域社会での人間関係、経済的安定等様々である。これらに過不足が生じても、気の合う仲間と一緒に楽しく、やり遂げたい目標に向かい、時間に追われることなく自己実現する喜びに勝るものがあるだろうか。高齢者が自らの興味・関心を発見するには、生涯学習のメニューとしては政治・経済・社会・文化・教育等様々な分野の情報を取り入れ、多くの人と集い楽しく学習することである。
ウ.お役に立てる喜びを味わう
 車椅子のお年寄りが保育園の乳児室で、乳児が泣き出したらベルを鳴らして保育士に知らせるとか、特別養護老人ホームで高齢者の側に寄り添ってじっと見つめてあげる幼児等、ボランティア活動は様々である。人の役に立つとは、特別な能力・技能がなくとも、相手から何が求められていて、自分には何ができ何がしたいかであり、そこに相互の限りない喜びが生まれるのである。
 
 
 
  参考文献
・子安増生編 キーワードコレクション『発達心理学』改定版、新曜社、2001
・ラングラン (Lengrand,P.1970)、 波多野完治訳『生涯教育入門』全日本社会教育連合会、1971
・無藤隆他編『発達心理学入門』青年・成人・老人、東京大学出版会、1990
・三宮真智子「メタ情報処理能力の必要性」社会教育基礎理論研究会編著『生涯学習 VII 成人性の発達』雄松堂、1989
・山本恒夫編著『生涯学習ハンドブック』第一法規、1989
 
 
 
 
  



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