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登録/更新年月日:2026年2月4日
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| 1.高校生による地域レジリエンス強化へのアプローチ (1)人口減少社会における地域づくりの担い手の育成 全国各地で自然災害が頻発・激甚化する中、地域防災および復興を支える取組の強化は喫緊の課題である。2022年の『第3次学校安全の推進に関する計画』では、地域の多様な主体と連携し、子供の視点を反映した安全対策を推進することが求められている。また、国際的な指針である『仙台防災枠組 2015-2030』においても、災害リスク削減に向けた「人間中心の予防的アプローチ」と、それを牽引する防災リーダーの重要性が強調されている。 しかしながら、現代の地方自治体、特に北海道のような広大な地域では、人口減少や少子高齢化の進行により、地域コミュニティを維持するための人的資源の確保が困難となっている。こうした背景から、地域づくりの次世代を担う中高生を「防災リーダー」として育成し、地域のレジリエンスを強化することは極めて有効な戦略となる。 ここでいう「レジリエンス」とは、単なる回復力や復元力に留まらない。発災の抑制や被害を最小化させる「事前防災」から、発災後の避難生活支援に至るまでを包括する、地域にとって不可欠な力を指す。 北海道教育委員会は、過去の地震、津波、火山噴火などの教訓に基づき、「自助・共助・公助」の視点を取り入れた系統的な防災教育を推進してきた。その中核的な実践事例が、各学校の代表が一堂に会する「高校生防災サミット」である。本取組を通じて、高校生が地域防災を支える重要な一翼を担いうることが明らかとなった。 (2)「北海道高校生防災サミット」の概要 「北海道高校生防災サミット」は、高校生が安全・安心な社会づくりに貢献できる資質を養い、生徒主体による防災ネットワークを構築することを目的としている。本取組は、北海道の広域性をカバーするため、札幌会場と道内13の地方会場をオンラインで接続して実施される点が特徴である(図1)。 その実践は単日のイベントに留まらず、重層的なプロセスを経て展開される(図2)。まず事前学習として、生徒自身のニーズを反映させるためのアンケート調査や、被災経験を持つ他県の高校生によるオンデマンド講演を実施し、当事者意識の醸成を図る。サミット本番では、大学教授や行政機関の専門家による助言を得ながら、以下の3つの分科会で議論を深める。 分科会1:「災害時に自らの命を守り抜くために」 地域の地形や過去の災害履歴を学ぶ重要性を再確認し、日常活動を通じた地域との繋がり作りが提案された。 分科会2:「地域防災力の向上のために」 避難所運営に関する知識向上や、SNSを活用した高校生同士のネットワーク構築、地域交流の重要性が議論された。 分科会3:「私たち一人一人の防災意識を高めるために」 ハザードマップの確認といった家庭での備えに加え、高校生が企画するリアリティのある防災訓練の実施などが解決策として示された。 これらの議論は、最終的に「北海道の防災・減災に向けた、わたしたちの提言」として集約され、カレンダー付きポスターとして道内全域の高校や社会教育施設に配布される(図3)。これにより、サミットの成果を全道の高校生や地域住民へ広く普及・波及させることを目指している。 |
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| (参考文献) ・文部科学省「第3次学校安全の推進に関する計画」、2022 ・松浦賢一「コミュニティ・スクールの活用による地域のレジリエンスの構築―子どもの視点を取り入れた実践的な防災教育の取組から―」(『日本生涯教育学会論集』44、2023) ・内閣官房「国土強靭化基本計画」、2023 ・北海道「北海道における防災教育推進の方向性」、2014 ・北海道教育委員会「本道の防災教育の推進」、2021 |
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| 2.高校生防災サミットの成果と展望 (1)成果と課題 「高校生防災サミット」の実践は、高校生が防災学習を通じて地域防災を支える一助となる可能性を明らかにすることを目的に設計された。参加した高校生たちは、単なる講義形式の受動的な学習に留まらず、自地域の災害リスクを調査し、他地域の生徒との対話・議論を重ねるプロセスを経験した。 本実践の最大の特徴は、個人の学びを「ネットワーク構築」へと発展させた点にある。異なる地域から集まった高校生たちが対話を重ねることで、共通の課題や独自の解決策を見出し、それが「北海道の防災・減災に向けた、わたしたちの提言」という形のアウトプットへと結実した。この提言を全道に向けて発信したことは、学習効果を測定する重要な指標となった。 2年間にわたるアンケート調査の結果、本実践は高校生の防災に関する資質・能力を統計的に有意に高めたことが確認された。また、従来の知識伝達型学習ではなく、ネットワーク構築を伴う対話型の学習スタイルが、生徒の主体性を引き出す上で極めて有効であることも示された。これは、生涯学習における「個人の学び」が「コミュニティの力」へと変換される具体的なプロセスを体現している。 本取組の成果を、文部科学省の示す「資質・能力」の3つの柱に基づき整理すると、以下のとおりとなる。 第1に「知識・技能」:「共助」の視点から地域防災を考察する知識が定着した。生徒は、共助の根底には地域コミュニティの人間関係があることを学び、学校・家庭・地域の課題を「共通の視座」で捉えるスキルを習得した。 第2に「思考力・判断力・表現力等」:他校の実践や専門家の助言を自分事として捉え、自発的に提言を作成・発信する能力が向上した。特に、他者との交流を通じて視野を広げ、課題解決への意欲が高まったことが生徒の自由記述からも裏付けられた。 第3に「学びに向かう力・人間性等」:家庭での備えの見直しや、地域の避難訓練への積極的な参加意欲が向上した。高校生の若い力が地域防災に不可欠であるという「自己有用感」の醸成も、特筆すべき成果である。 また、教員側への波及効果も大きく、引率教員にとっても生徒主体の授業づくりや、学校全体の危機管理マニュアルを再考する契機となった。 一方で、今後の課題も明らかになった。アンケート結果において、「サミットでまとめた提言を実践できそうか」「校内で内容を広める活動を行うか」といった項目の肯定回答が他と比較して低かった。これは、校内全体での防災意識の格差や、具体的な行動へ移す際の心理的・物理的ハードルの高さを示唆している。 (2)今後の展望 今後は、一部のリーダー的生徒に留まらず、学校全体や地域住民を巻き込んだ「持続可能な体制」の構築が必要である。高校生の発想を地域社会の仕組み(避難所運営マニュアル等)に具体的に反映させるための「学校と地域の連携強化」こそが、地域レジリエンスを真に強固なものにする鍵となるだろう。 |
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| (参考文献) ・文部科学省「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」、2019 |
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