登録/更新年月日:2024年12月22日
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1.サービス・ラーニングによる批判的思考力の涵養と社会関係資本の活用 堀川プロジェクト(福岡県北九州市、生涯学習研究e事典「学生による地域学の挑戦」2023)での地域学を通した学修成果として、分析力や課題解決力などの市民性(シティズンシップ)に一定の効果が認められた。大島プロジェクト(福岡県宗像市、2023‐2024)では、批判的思考力に特化した地域学への改善を試みた。プロジェクトマネジメントのテーマを「社会関係資本(地域の歴史遺産)を活用した地域学、学生の学びへの多様な教育的仕掛け」として取り組んだ。プロジェクトは、市民性の涵養に有効とされるサービス・ラーニングの手法を活用している。サービス・ラーニングとは、地域社会のニーズに基づく社会貢献活動であり、大学でのカリキュラムを活用すること、事前準備・活動・振り返り・祝福のプロセスを踏む社会貢献学習である。 社会関係資本とは人と人の関係性を資本とし、社会の効率化を高めることであり、信頼、規範、ネットワークの社会組織が必要とされる(ロバート・D.パットナム)。批判的思考力とは、直感的に考えるだけでなく、批判的に考えることで、より良い結論に導く思考法であり、社会批判(改善)や他者批判が単なる誹謗、中傷、批判ではなく、自己の振り返りへと向かうことである。批判的思考力は社会関係資本を活用して、地域社会をフィールドに学ぶことが効果的であり、プロジェクトの意義はそこにある。 |
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(参考文献) ・山田明「学生による地域学への挑戦」生涯学習研究e事典、https://ejiten.jpn.org/content50523009.html、2024-12-20参照。 ・ロバート・D..パットナム、河田潤一訳『哲学する民主主義』NTT出版、2001。 |
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2.2023年度大島学プロジェクトによる地域学の改善と学修効果 宗像市主催による「学生によるまちの課題プロジェクト(補助金)」に採択された活動である。参加者は九州共立大学の学生21名(3・4年生、生涯学習論、社会教育学受講生/サービス・ラーニング)、活動期間は2023年4〜2024年3月である。堀川プロジェクトから大島プロジェクトへの改善は、主として3つの仕掛けを取り入れたことである。地域との関わりを深める地域住民との対話、批判的思考力に関する事前の学び、多様な情報を収集した後で整理し熟考する機会(熟議)である。以下(1)〜(4)は、具体的活動である。(1)事前準備Preparationでは、学修目的の明確化(ルーブリック)、住民との事前の学び、批判的思考力に関する学び(情報分析、推論)、(2)活動Actionでは、フィールドワーク(質の向上)、完成冊子を活用した住民との合同会議(熟議)の実施、(3)振り返りReflectionでは、アンケートのデータ化で批判的思考力の涵養を可視化、(4)祝福Celebrationでは、交流会型祝賀会(満足度確認、新たなサービス・ラーニング情報獲得)である。 2023年度大島プロジェクトにおいて、批判的思考力に特化した地域学への改善における学生の学修効果の概要は、以下(1)〜(4)の通りである。(1)事前・事後アンケート調査において、批判的思考力、他者への傾聴、他者意見への共感に効果が見られた。(2)ルーブリック評価において、地域ニーズの把握、改善点の把握、分析力について向上が見られた。(3)座談会(祝福・祝賀会)における学生の主な自己評価は、プロジェクトを通して地域の歴史遺産を次世代へ継承する必要性を認識したこと、地域社会の認識はこれからの社会の在り方を考える上での基盤となり、必要な資質能力が批判的思考力であることを認識している。活動における冊子作成を通して他者へのコミュニケーション(伝え方)を認識し、情報収集、整理分析する力、批判的思考力までを意識したことが伺われる。(4)インタビューについては、多様な地域の情報を得て、自分なりに整理、分析し批判的に思考しようとする姿勢が見られるようになったことが確認された。 |
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3.今後の課題 プロジェクトマネジメントの質をさらに向上させること、常に意識をもって学ぶためのプログラム内容を学生や地域住民の目線で構築していくことである。批判的思考力の涵養は、市民性の資質能力の中でも、必要かつ涵養が困難なものである。学生にとって身近な社会関係資本たる地域学を活用し、サービス・ラーニングというリアルな体験で学ぶ教育的手法を連携させることは、有効なマネジメントになる。大島学プロジェクトを通して学生が郷土の社会関係資本(地域)にも思いを巡らし、批判的思考力の学びを将来に向かって継続していくことを期待する。 |
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