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登録/更新年月日:2025年1月29日
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1.自治体の防災部局と教育部局が連携した地域ぐるみの防災教育 (1)地域と学校の連携による防災教育の意義 コミュニティ・スクールの導入が努力義務化されたのをきっかけに、地域と学校が連携・協働しながら地域の課題解決に取り組む事例も見られるようになった。 しかしながら、防災教育の推進については、多くの自治体では、防災部局は地域住民を対象に、教育部局は学校の児童生徒等を対象に行われ、学校で実施する防災学習に自治体の防災部局が協力することはあっても、両者が連携した地域ぐるみの防災教育推進体制を構築している自治体は決して多いとは言えない。 したがって、地域コミュニティの核となる学校等において、防災部局と教育部局が組織的に連携しながら、地域ぐるみの防災教育の推進を図ることは、地域のレジリエンスを構築する上で有効ではないかと考える。 本研究では、自治体の防災部局と教育部局が連携した地域ぐるみの防災教育に取り組んでいる、北海道の「1日防災学校」の事例を通して、地域と学校の連携・協働によるレジリエンス構築に果たす意義について検討する。 (2)北海道の防災教育の概要 海に囲まれ、豊かな自然を有する北海道では、過去に地震や津波、火山噴火などさまざまな自然災害を経験している。 しかしながら、2017年の台風に伴う大規模災害における道民の避難行動について道が調べた調査によると、避難指示や避難勧告が出されたにも関わらず、指定避難所へ避難した住民は約5%という結果であり、住民の防災意識が課題として明らかになった。 学校教育に目を向けると、現行の学習指導要領には、「防災」に関する内容が盛り込まれるなど、「生きる力」や「想像力」を育むことが重要とされている。防災教育を通して、災害時に生き抜く工夫や知恵を事前に考え、対処するための想像力を養う取組が求められる。 一方、コミュニティに目を向けると、さまざまな社会的要因により地域の結び付きの希薄化が課題となっている。災害発生時には、地域が連動した自助・共助が必要不可欠であり、防災対策においても「地域コミュニティの形成」を促進することが重要となる。 こうしたことから、北海道では、防災部局と教育部局が連携した「1日防災学校」を実施している。 (3)「1日防災学校」の概要 「1日防災学校」は、児童生徒等が安全に関する資質・能力を教科等横断的な視点で確実に育むことができるよう、自助、共助、公助の視点を適切に取り入れた系統的・体系的な防災教育や学校と家庭や地域が連携した防災教育を推進するため、公立小・中学校でスタートし、取組の3年目からは幼稚園、4年目からは高校、特別支援学校も加え拡充した(図1)。 各学年の授業で1時間以上「防災」の要素を取り入れ、保護者や地域住民の参画を通じて、地域ぐるみで防災について考えることとしている。学校、地域、行政など関係機関が連携し、子供たちだけでなく、地域防災力の向上を目指すこともねらいの1つである。 防災部局と教育部局が組織的に連携した取組が特徴で、学校等が当該事業を効果的に実施できるよう、教育委員会は、教育活動へ参画し助言を行うとともに、防災担当部局は、保有する防災に関する専門的知識や防災関係機関との連携等を活用し、教育活動を支援する。 学校を核とした地域ぐるみの防災教育を推進する上で、北海道の危機対策課が、過去の被災経験を教訓にして開発してきた防災教育コンテンツを活用することとした。 |
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(参考文献) ・文部科学省「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」、https://manabi-mirai.mext.go.jp/torikumi/chiiki-gakko/cs.html ・北海道「北海道における防災教育推進の方向性」、2014 |
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2.実践的な防災教育プログラム 各校の取組内容を調査し、校種別に教育効果があると思われる実践事例を整理した(表1)。 (1)小学校の実践事例 小学校の実践事例については、主に「自助」の要素が強いプログラムを実施している傾向が見られた(図2?図5)。 参加した小学生からは、次のような感想が寄せられた。 ・カルタ遊びやクイズは、楽しみながら災害について知ることができた。 ・新聞紙スリッパなど身の回りの物で防災グッズを作ることで、家にあるものでも自分の身を守ることができるとわかった。 ・DIGや防災マップ発表会で災害時の避難の仕方や地域の危ない場所を考えることで、災害時には慌てずに避難できると思う。 また、教職員からは、主に児童の変容や工夫点について、次のような声が寄せられた。 ・実際に地層を見学した後、噴火の仕組みを学ぶことで見通しや課題意識を持つことができ、火山災害について児童の防災意識を高めることができた。 ・関係機関や外部の有識者からの説明は、児童の理解が深まるだけではなく、教職員にとっても参考になる内容だった。 (2)中学校の実践事例 中学校の実践事例については、総合的な学習の時間を活用し、「共助」や「公助」の要素が強いプログラムの事例が多く見られた(図6?図8)。 参加した中学生からは、次のような感想が寄せられた。 ・避難所では、お年寄りから子どもまでいろいろな人がいるので、年齢や性別など、それぞれの状況に応じて対応することが、とても大切なことだと思った。 ・自分たちの地域を実際に見て歩いて、災害の時に危険な箇所があることが改めてわかった。避難する時は、危険個所を避けて避難したいと思った。 また、教職員からは、主に生徒の変容や工夫点について、次のような声が寄せられた。 ・生徒が災害時における避難所生活を体験したことで、有事の際には生徒自身が率先して行動することが期待できる。 ・ハザードマップをもとに、生徒が実際に地域の危険箇所や防災施設を見学することで、町がどのような被害に遭う可能性があるかを具体的に知り、自ら考えることで生徒の防災意識が高まった。 (3)高等学校の実践事例 高等学校の実践事例については、中学校と同様、小学校と比べて「自助」よりも「共助」や「公助」の要素が強いプログラムを実施している傾向が見られた(図9?図14)。 参加した高校生からは、次のような感想が寄せられた。 ・災害が起きたときにどのように避難すればよいのか日頃から考えておくことが大切だと思った。 ・地域の防災に対する探究活動を通して、地域の防災力向上のために私たちができることについて理解を深めることができた。 また、教職員からは、主に生徒の変容や工夫点について、次のような声が寄せられた。 ・防災講話や防災に係る体験的な活動を通して、生徒たちは地域貢献への意識を高めることができた。 ・関係機関からの助言により避難訓練の改善を図った。今後は、危機管理マニュアルの見直しを図り、本校の防災教育の充実を図っていきたい。 (4)学校間の連携事例 学校間の連携による実践事例については、上級学校の中学生や高校生が幼児や小学生をリードしている事例が多く見られた(図15?図17)。 参加した児童生徒及び教職員の感想からは、参加した児童生徒の防災意識や地域貢献への意識が高まったことがうかがえる。 |
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(参考文献) ・一般社団法人日本損害保険協会「幼児向け防災知育玩具『ぼうさいダック』の提供」、https://www.sonpo.or.jp/about/efforts/reduction/bousai-duck/index.html ・北海道「災害図上訓練(DIG)」(『ほっかいどうの防災教育 実践編』、pp.14-16、2014)、http://kyouiku.bousai-hokkaido.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/03/755db71388fa1e2262323a8282714b25.pdf ・北海道「災害対応ゲーム クロスロード」(『ほっかいどうの防災教育 実践編』、p23、2014)、http://kyouiku.bousai-hokkaido.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/03/755db71388fa1e2262323a8282714b25.pdf ・北海道「避難所運営ゲーム北海道版(愛称:Doはぐ)」、http://kyouiku.bousai-hokkaido.jp/wordpress/do-hug/ |
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3.「1日防災学校」の取組状況と成果 (1)取組状況 「1日防災学校」の取組状況について、札幌市を除く道内全ての公立学校を対象に、2018年度から5年間の実施状況を調査した結果、コロナ禍にもかかわらず、実施校は、年々増加していることが明らかになった(表2)。 また、実施市町村を見ると、北海道内178市町村中171市町村、全道の96.1%の自治体に拡大されており、域内で1校も実施していない市町村はわずかであることがわかった。 (2)成果 実践の成果として、学校を核としながら、防災部局と教育部局の連携・協働による地域ぐるみの実践的な防災教育を推進することができ、各地域の自然災害へのリスクに備えたレジリエンス構築への可能性が示唆された。 本取組の成果として、次の3点が挙げられる。 第1に、「1日防災学校」の取組状況について、その割合は年々増加傾向にあることがわかった。さらに、小学校と中学校で開始した本取組は、開始3年目から幼稚園で、4年目からは高等学校と特別支援学校でも実施されるなど北海道全域に拡大し、その取組が定着していることが明らかになった。 第2に、取組内容について、各校種で発達段階に応じたプログラムを工夫していることがわかった。さらに、海に囲まれ、豊かな自然を有する北海道では、さまざまな自然災害に備える必要があることから、各地域の災害リスクに応じた活動が展開されている。 第3に、各地域の自然災害へのリスクに備えたレジリエンス構築への組織体制づくりが強化された。さらに、学校と地域の連携をスムーズに行うには、学校、地域、自治体、防災関係機関等の役割を明確にすることがポイントとなることが示唆された。なお、地域と学校が連携・協働する仕組みである「コミュニティ・スクール」を導入している学校が増えていることから、こうした既存の仕組みを活用した取組も期待できる。 |
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(参考文献) ・北海道教育庁学校教育局生徒指導・学校安全課「1日防災学校実践事例?実践的な防災教育の推進?」、2022 ・松浦賢一「コミュニティ・スクールの活用による地域のレジリエンスの構築―子どもの視点を取り入れた実践的な防災教育の取組から―」(『日本生涯教育学会論集』44、p.34、2023) |
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