生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2025年2月15日
 
 

「BuRaLi(ぶら〜り)e上野」の実践における成果と課題(ぶらーりいーうえののじっせんにおけるせいかとかだい)

キーワード : BuRaLi(ぶら〜り)e上野 、学習成果の活用 、社会教育実践研究センター
山本 裕一(やまもと ゆういち) 、川田 貴之(かわた たかゆき) 、新木 圭彦(しんき よしひこ)
 
 
 
  1.定義
 学習者が日頃の学びの成果を活かして、教える側にもなるということは、学習成果を活用したり学びを充実させたりする方策として、これまで多く実践されてきた。また、様々な事業や講座への参加を契機に、学習者がそれぞれの興味・関心に基づいて学びを継続できるよう、自主的な学習団体の組織化を支援するアプローチも、学習支援の手法として多く取り組まれてきている。
 平成20(2008)年の中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について―知の循環型社会を目指して―」等によれば、人々が学習した成果を社会へと還元していくことは、社会全体の教育力の向上につながるとされ、このような手法は生涯学習・社会教育においてより一層意識されることとなった。
 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(以下、社会教育実践研究センター)では、平成26(2014)年度に、「BuRaLi(ぶら〜り)e上野」という企画(以下、BuRaLi)を実施した。これは、「社会教育の手法で、上野公園地区にある様々な施設と連携しながら地域資源を活用した学びの場を創造し、社会教育実践研究センターに来所される方々や上野地区に訪れる皆さんに上野の魅力を広く知ってもらうとともに、社会教育実践研究センターの存在、そして社会教育というものを広く知ってもらいたいという思い」(当時の構想メモより)から企画されたもので、参加希望者を一般公募し、上野公園を散策するというツアーであった。このツアーは、上野の山文化ゾーン協議会(事務局は台東区文化振興課)の主催により毎年秋に開催されている、「上野の山文化ゾーンフェスティバル」の事業としても位置付けて実施され、初回は上野周辺の建築物をテーマに、外部講師を依頼して解説してもらう内容であった。
 その後、社会教育実践研究センターは、BuRaLiの参加者の中から「自分たちでテーマを決めて自主学習を行い、その成果を活かす形でボランティアガイドをする」活動に興味がある方を募り、自主的な学習団体としての組織化を促した。この団体は、「上野の山の学習会」(以下、学習会)と呼ばれ、上野公園地区内にある魅力あふれるスポット等について、興味・関心に基づき自主的に学ぶとともに、社会教育実践研究センターを会場として学習会を開催するようになった。
 そして、平成28(2016)年度から、「上野のことを学ぶために集った学習者が学びの成果を生かし、上野の魅力の案内役・情報発信者となって、上野公園地区内にある様々なスポットを案内する活動」として、BuRaLiが位置づけられるようになった。
 BuRaLi自体は学習会の会員自身が主催する企画となり、社会教育実践研究センターは人材養成とその学習成果を活用する実践的な場としてBuRaLiを位置付け、学習者と学習団体への支援・学習機会のコーディネート等を担う役割とともに、学習会のメンバーとこの企画を運営するパートナーとして関わりを保っている。
 
  (参考文献)
・中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について―知の循環型社会を目指して―」平成20(2008)年。
・山本裕一、渡辺徹、糸賀真也「実践報告:社会教育の手法を活用した学びの場の提供 BuRaLi(ぶら〜り)e上野〜こんなとこあったの?!『意外と知らない上野の建物探訪』の取組を通して」ボランティア学習研究、第16号、平成27年(2015)年。
 
 
 
  2.説明・動向
 ここでは、学習会の活動の実際と、これまでの活動の展開について述べる。
 学習会は、年間を通じて不定期で開催している。年度初めの学習会では、会の説明や年間の学習テーマに関する講話・会員同士の情報交換等を行い、1回目ないし2回目の学習会で、会員個人の学習テーマを決める。このテーマに基づいて、会員は自主学習を行い、フィールドワークや文献調査等の探究活動を行う。そして、その内容等を持ち寄って、お互いに発表し合い意見交換を行うというスタイルで学びを深める。その学習成果を発表すべく、毎年秋に、その年のテーマに基づいて案内できそうなルートを設定し、誰がどこの案内を担当できるか等の役割分担をして準備を進め、リハーサルも行った上でBuRaLiを開催している。
 社会教育実践研究センターの職員は、学習会に参加して、会員の方々がどのような学びを深められているか、どのようなルートで案内を行いたいのか等について把握するようにしているが、会員個人の自主学習のための事務等は原則として行わない。この学習会は、あくまでも会員個人の自主性に基づく学びの機会だからである。社会教育実践研究センターの役割は、主に学習会の会場提供と、BuRaLi実施に向けた広報、参加希望者公募の事務手続き、BuRaLi当日の運営支援等である。
 これまでの活動の展開を概観すると、いくつかのフェーズに区分できることが分かる。
 平成26(2014)年度と平成27(2015)年度は、外部講師を招聘し、地域の魅力について学ぶ事業を実施した。【=第1フェーズ】
 そして参加者に、「学習成果をボランティアガイドとして活かしてみたい」という希望がないかを問いかけた。ボランティアガイドを希望した方々は、継続的な学習会を行い、より発展的に興味・関心のあるテーマについて自己学習を行い、その成果を発表しながら学び合う学習集団を形成した。【=第2フェーズ】
 平成28(2016)年度からは、この学習会に参加した方々が案内役・情報発信者としてボランティアガイドを行う機会としてBuRaLiが位置づけられた。これにより、自己学習してきた成果をボランティアガイドの形で活かすという循環を確立することができた。【=第3フェーズ】
 こういった展開は、BuRaLiの要項等における趣旨・目的を見ると明らかである。平成26(2014)年度当初の要項では、「我が国有数の観光地である上野公園地区において、意外と知られていないスポットを歴史的、文化的、自然科学的観点から、地域の様々な方の協力を得て“見える化”し、上野の魅力を一層高める。併せて、こうした活動を通して、実施に携わる人たちの絆づくりを目指す。」という趣旨であることがうたわれていた。しかし、後段の2文目は、後に「併せて、こうした活動を通して、実施に携わる人たちが学習成果を活かす場を提供するとともに、学びが核となる緩やかなネットワークの構築を目指す。」という形式に修正されている。
 令和2(2020)年度と令和3(2021)年度は、新型コロナウイルス感染症の影響によりBuRaLiの企画は中止となり、学習会の活動等も停滞した時期があった。令和4(2022)年度から再開したものの、活動の中心となる会員メンバーの固定化などの課題も見られ、現在は【=第4フェーズ】とも呼ぶべき、新たな学習会の方向性やBuRaLiの在り方を模索する段階にある。
 
 
 
  3.成果と課題
 4つのフェーズに基づく、学習団体としての発展段階モデルは、今後も実践を重ねるなかで、多様な展開を見せるものと予測される。本稿は、主に令和4(2022)年度から令和5(2023)年度の実践を中心に記述しているが、近年確認された成果や今後に向けた課題、そして【第4フェーズ】として想定される展望等についてまとめたい。
 成果としては、会員同士の学びの深まりや主体性の向上が挙げられる。BuRaLiには、例年定員を大きく上回る参加希望者から申込みが寄せられる。会員は、その期待に応えるべく学びに取り組んでいるが、実際にはボランティアガイドを務めることが難しい会員もいる。そこで、ガイド以外の運営に関わる役割(受付事務・開閉会式の進行・フィールドワーク時の安全確認等)も分担することで、会員が全員参加で運営できる雰囲気が醸成されている。また、BuRaLi実施の際、当日のガイドで使用する大型図版・写真図版を会員自ら作成するのだが、他の会員が使用する図版の作成を手伝う会員が現れたり、学習会の活動を情報発信するためのホームページ作成が提案されたりしている。
 課題としては、新規会員の発掘や新たにガイドに取り組む人材の育成が挙げられる。現在、継続的に活動できる会員は固定化されており、特定の年代層に限られている。毎年BuRaLiに参加された方に、声掛けをすることで新たな仲間を増やしていこうとしているが、やはり秋のBuRaLi実施が大きな目的となっているため、「散策を楽しみたいだけ」というニーズの参加者にとって、「学びの成果を行動や活動につなげていく」ことは、高いハードルに感じられるのかもしれない。
 今後の展望として、2点ほど挙げておきたい。
 第一に、学びの成果を発揮できる新たな場面を創出していくことである。例えば、BuRaLiで紹介してきた魅力をマップ化して、より多くの方にこの活動の意義を情報発信することなどが考えられる。そもそもBuRaLiは、長野県の伊那市立図書館が実施していた「高遠ぶらり」という事業を参考にしたものである。事業名に“e”の文字が付いているのは、electronicsの“e”であり、スマートフォン等の端末に地図情報を入れて街歩きをすることを想定していた。現時点で、その構想は実現できていないが、この活動は一般の方が目にする地図や観光案内には掲載されていない隠れたスポットを可視化している側面もあるので、例え紙媒体であってもマップ化して活動の成果を蓄積していくことは意義がある。
 第二に、上野地区にある近隣の中学校・高校・大学等と連携・協働した活動を模索することである。このような学びの機会があるということは、各学校等にはあまり知られていない。児童・生徒・学生や関係の教職員、そして会員が出会う機会をつくり、地域学校協働活動的な取組として昇華させていくことには大きな可能性がある。また、BuRaLiに興味を抱くような若い世代や新たな人材を発掘することも期待できよう。
 このような【第4フェーズ】としての学びを実現していくことが、多面的な活動への発展や継続的な取組につながっていくものと考えられる。
 
 
 
 
   



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