生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2024年1月30日
 
 

コミュニティ・スクールの活用による地域のレジリエンスの構築(こみゅにてぃ・すくーるのかつようによるちいきのれじりえんすのこうちく)

キーワード : 防災教育 、コミュニティ・スクール 、学校運営協議会 、レジリエンス 、地域防災の担い手
松浦賢一(まつうらけんいち)
 
 
 
  1.コミュニティ・スクールの活用による防災教育
(1)地域と学校の連携による防災教育の意義
 全国各地で発生している地震に加え、激甚化・頻発化する豪雨、台風等の計り知れない自然災害のリスクに直面する中、地域における防災と復興を支えるレジリエンスの強化や学校の安全体制の更なる強化・充実を推進していくことが重要である。
 第3次学校安全の推進に関する計画(2022)では、地域の多様な主体と密接に連携・協働し、子供の視点を加えた安全対策を推進することに取り組むとし、地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育・訓練の実施を求めている。このような取組を通して、全ての児童生徒等が、自ら適切に判断し、主体的に行動できるよう、安全に関する資質・能力を身に付けることを目指している。
 また、『仙台防災枠組2015-2030』(2015)の前文では、災害リスクを減らすため、広範かつ人間中心の予防的アプローチを必要としている。地域のレジリエンスを構築するためには、防災教育が重要であり、それを推進する防災リーダーが不可欠となる。
 しかしながら、過疎化が進む我が国において、人的資源の確保に困っている地域も少なくなく、地域社会としてのレジリエンスの持続可能性に課題が残る。そのため、地域コミュニティの核となる学校を活用しながら、地域づくりの担い手となる中高生を防災リーダーとして育成し、地域のレジリエンスの強化を図ることが有効であると考える。
 本研究では、少子高齢化の進展が課題となっている過疎地域における子どもの視点を取り入れた防災教育の取組過程において、地域住民や保護者が学校運営に参画するコミュニティ・スクール(以下CSと表記)を活用した事例に着目し、中学生の地域でのレジリエンスの構築に果たす役割や教育効果等について検討する。
(2)実践地域の概要
 北海道島牧村は、人口1,303人(2023年4月末現在)で、日本海沿岸部に位置し、過去に津波の災害発生の場合に大きな被害を受けてきた。特に、1993年に発生した北海道南西沖地震の時には、津波の最大高が7.5mにも及んだ地域があり、津波と落石により7名の尊い命が失われた災害の歴史がある。
 2018年11月に、町内に1校ずつある小学校と中学校に合同の学校運営協議会が設置され、2020年にCSを活用して、学校と地域が連携した防災学習、とりわけ生徒の視点を取り入れた防災マップの作成等を通じて、実践的・実効的な防災教育の取組を行った。
 学校運営協議会の事務局は中学校に設置され、委員は、社会教育委員、PTA会長、学校長等の8名である。委員の一人である社会教育委員と村教育委員会社会教育主事が地域と学校のコーディネートを担当する地域学校協働活動推進員を担っており、協議会を年3回開催している。
 主な地域学校協働活動の内容は、ふるさと教室、海学習・田植え体験、子どもたちを見守る活動、移動図書、中高生ボランティア育成、多世代交流等で、本研究の対象とした防災教育もその一つである。
 実施にあたって、新たに実践委員会を設置した。構成員は、学校運営協議会の委員8名に加え、老人クラブ連合会、交通安全協会、交通安全推進委員会、教育委員会事務局、各校の管理職、中核教員とし、アドバイザーとして大学の教授、気象庁の地震津波防災官、北海道教育委員会の社会教育主事も加わった。
 各校における防災学習は、8月から10月にかけて行った。その前後に実践委員会を3回開催し、取組の成果と課題を明らかにした(表1)。
 
 


添付資料:具体的な取組とスケジュール

 
  (参考文献)
・文部科学省「第3次学校安全の推進に関する計画」、2022年、p.8、https://www.mext.go.jp/content/20220325_mxt_kyousei02_000021515_01.pdf、2023年5月5日参照。
・Third UN World Conference on Disaster Risk Reduction, Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030, 2015, p.5, https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000071589.pdf, 2023年5月5日参照。
・文部科学省「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」、https://manabi-mirai.mext.go.jp/torikumi/chiiki-gakko/cs.html、2023年5月5日参照。
・北海道島牧村「人口統計」、https://www.vill.shimamaki.lg.jp、2023年5月5日参照。
・島牧村「北海道南西沖地震島牧村災害記録集」、1995年、p.18。
・島牧村「北海道南西沖地震島牧村災害記録集」、1995年、p.52。
 
 
 
  2.実践的な防災教育プログラム
(1)地域と密着した授業づくり
 災害の歴史を地域住民から学ぶことによる生徒の災害に関する知識の深まりと地域との関わりによる生徒の防災への当事者意識の醸成をねらいとした。
 中学生は、村のハザードマップを参考にしながらフィールドワークを行い、地質や防災設備の確認をするとともに、被災経験のある地域住民から過去の災害の歴史を聞きながら、居住区毎に自分たちのアイデアを生かした防災マップを作成する取組を行った(表2)。
 中学生が作成した防災マップについて、フィールドワークの際に撮影した動画をインターネット上にアップロードし、QRコードで確認できるように工夫された。その動画では、国道などから避難施設へ向かう経路も確認できるようにした(図1)。
 中学校がある地区では住民向けの防災訓練を実施しておらず、村としては、地域と学校が連携した防災の取組ができないかとのことで、学校運営協議会が中心となり、中学校が地域を巻き込んだ防災学習を実施することとした。
 生徒、教員、住民が一緒になって、地域の課題について話し合い、防災の考え方に対していろいろな意見を共有した。
 また、生徒が作った防災マップを掲載した防災カレンダーを作成し、村内施設に掲示することで、地域住民の防災意識を高めることをねらいとした(図2)。
(2)CSを活用した安全確保体制の充実
 CSの仕組みを活用することにより、中学校を会場に企画した「1日防災学校」に、多くの地域住民が参加し、生徒と住民が一体となった避難所運営体験や避難行動の確認をするなど、生徒と地域住民の「顔が見える関係づくり」を築き、災害時の安全確保体制の構築に向けた取組を行った。
(3)小・中学校が連携した系統的防災教育の推進
 小学校においては地域の危険箇所を知る方法について理解させ、中学校においては実際に危険箇所を把握して、自ら課題を立て、解決する能力を育成する授業づくりを行い、小・中学校連携による発達段階を踏まえた、系統的防災教育の推進により、教職員の防災教育に対する意識向上や教育内容の充実を図った。実施に当たっては、村の防災担当部局とも連携し、各校の授業内容を共有した。
 
 


添付資料:「総合的な学習の時間(防災)」指導計画案と成果物

 
 
 
  3.CSを活用した防災教育プログラムの確立
(1)調査方法・内容
 プログラムの教育効果については、次の3つの方法で実施した。
 第1に、町内全ての学校の児童生徒及びその保護者と教職員を対象に質問紙調査を実施し検証を行った(表3)。
 調査は、事前と事後の両方の調査に回答した児童生徒60名、保護者54名、教員21名を対象とし、各質問項目について4件法で回答を求めた。
 第2に、各校における学校安全体制に係る成果指標を設定し、各項目の達成度について評価した(表4)。
 第3に、地域住民と中学生が一緒に行った防災学習の授業を一般公開し、「北海道地域学校協働活動推進会議兼コミュニティ・スクール連絡協議会」の構成員3名による視察を行い、自由記述式の質問紙調査を通して成果内容を確認した。
(2)調査の結果
 第1に、中学生を対象にした調査の結果について、8項目中5項目において、事前よりも事後の方が「当てはまる」「やや当てはまる」の数値が向上しており、学習や訓練等の成果が表れている(図3)。小学校及び保護者、教員を対象にした調査の結果については、全ての項目において、事前よりも事後の方が「当てはまる」「やや当てはまる」の数値が向上した。
 第2に、各校の学校安全体制に係る調査結果について、全ての学校で安全体制が強化された(表4)。
 第3に、地域学校協働活動推進会議構成員による視察の結果について、構成員からは、
・防災の専門家や大学教授が学習に参加し、災害などの危険に際し生徒が自らの命を守り抜くための「主体的に行動する態度」や「支援者となる意識」の学習をしていた。
・CSは、地域住民が学校に対して応援するという動きが強く出るものだが、今回のように学校が地域に仕掛けていくという動きも非常に大切。「防災」を内容にした事業は地域への広がりや深まりも求められるので、有効な内容であり、他地域でも参考になる取組。
などの感想や意見が寄せられ、CSを活用した地域ぐるみの防災教育の取組について、その有効性を挙げており、今後の取組について、さらに期待を寄せていることがわかる。
(3)考察
 本研究から明らかになった成果として次の3つが挙げられる。
 第1に、フィールドワークを通じて、地域との関わりによる生徒の防災・減災への当事者意識の醸成や災害の歴史を地域住民から学ぶことによる生徒の防災に関する知識を深めるとともに、中学生の学びを地域に還元し、地域住民の防災意識を高めることができた。また、地域と学校が連携することで、中学生を地域防災の担い手として育成することができた。その際、学校運営協議会の委員によるコーディネートの働きが大きな役割を果たした。
 第2に、学校運営協議会を中心に学校と地域が連携した地域の安全体制を構築するとともに、生徒と地域住民の「顔が見える関係づくり」による防災・減災教育への取組等を通して、学校の児童生徒のみならず地域住民を含めた村全体の防災意識の向上を図ることができた。地域学校協働活動推進会議構成員の質問紙調査からも地域住民の防災教育への参加について評価している。
 第3に、合同の運営協議会設置により、小・中学校連携による児童生徒の発達段階を踏まえた教育内容の充実と系統的防災教育の推進による教職員の防災教育に対する意識の向上を図ることができた。
 
 


添付資料:アンケート調査の質問項目と結果

 
 
 
 
   



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