生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2023年8月11日
 
 

通信制高校における学校所在資料の教材化と活用方法の模索(つうしんせいこうこうにおけるがっこうしょざいしりょうのきょうざいかとかつようほうほうのもさく)

キーワード : 学校資料 、学校所在資料 、通信制高校 、自校教育 、学校の廃合
八田 友和(はった ともかず)
 
 
 
  1.はじめに
1)研究の目的と背景
 2022(令和4)年に文部科学省が発表した「令和3年度公立小中学校等における廃校施設及び余裕教室の活用状況について」によると、2002(平成14)年から2020(令和2)年までに8,580の学校が廃校になったとされている。それに伴い、学校が所蔵する資料(以下、学校資料)が散逸と廃棄の危機にさらされている。学校資料を保存し、後世に伝えるためには、“次の世代に受け継ぎたいモノ”という気持ちを子どもたちが育むことが重要であり、その方法として、授業をはじめとしたあらゆる教育活動における利用や活用が想定できる。
 そこで、筆者の勤務校であるクラーク記念国際高等学校(以下、クラーク高校)においても、学校資料を活用した授業実践を行った。また、授業実践の記録を教育史系のニューズレターに投稿し、実践記録の蓄積を図ってきた。本発表では、クラーク高校で行った、学校資料を活用した授業実践、授業モデル開発を事例に、通信制高校における学校資料の活用方法(在り方)について模索する。

2)学校資料の定義と概要
学校資料は、「学校に関するあらゆるモノ・コト」と定義できる(村野2019)。ここから、「学校内外、有形・無形、動産・不動産」問わず、学校に関するものであれば、全て学校資料と捉えることができる。そのため、筆者が行った授業実践においても、「集合写真、三浦雄一郎氏、クラーク博士」など、多様なテーマを取り扱うことができた。また、授業実践を行った教科科目も、日本史・現代社会・学校設定科目(小論文・基礎日本史)など、多様なものとなった。
 
 
 
  2.通信制高校における学校資料の活用
1)人物:クラーク博士、三浦雄一郎氏を取り上げた実践
 日本史の授業で、明治期に活躍したお雇い外国人を学習する際、「クラーク博士」を事例に取り上げ、説明を行った。「君(少年)よ大志を抱け」というフレーズは知っているものの、クラーク博士の具体的な業績や活動を知らない生徒が多かったため、明治期の歴史だけでなく、自校史や自校にゆかりのある人物を知る上でも良い機会となった。

2)道具:ランドセル、絵葉書などを取り上げた実践
 姫路城とその周辺環境を扱った絵葉書を、歴史の授業で取り上げた。姫路城が描かれた絵葉書を複数枚用意し、時系列に並び替えさせる活動を組み込むことで、姫路城とその周辺環境の変遷を理解することにつながった。また、それを支えた主体や方法として、姫路市や市民団体などが行ってきた文化財保護や環境整備の取り組みについて理解を深めることができた。授業の最後には、自分自身が文化遺産や周辺環境の保護や保全にどのように関わることができるのか、についても考察することができた。

3)写真:入学式、卒業式での集合写真など
 多くの学校が所蔵しているであろう集合写真を取り上げ、授業実践を行った。学校によって場所は異なるが、校長室や応接室、玄関などに掲示されていることが多い。授業では、撮影時期の異なる集合写真を複数枚用意して、時系列に並び替える活動を行うなかで、児童数の変遷から、少子化をはじめとした人口問題について考えを深めた。また、写真が撮影された小学校の在籍児童数のデータを過去数十年さかのぼり、グラフにして提示することで、複数の資料にあたりながら、人口問題や少子化問題について考えることができた。

4)その他の学校資料の活用
 本稿で取り上げた学校資料以外にも、「チャイム、アイロン、校歌、校門、試験、学校博物館、二宮金次郎、奉安庫(奉安殿)、震災モニュメント、制服、青い目の人形、土器の欠片、運動会、学校、学校日誌、修学旅行など」を取り上げ、授業実践や教材化の模索を行ってきた。詳しくは、『月刊ニューズレター 現代の大学問題を視野に入れた教育史研究を求めて(『月刊ニューズレター現代の大学問題を視野に入れた教育史研究を求めて』編集委員会が編集・発行するオンライン雑誌)にて紹介している。
 
 
 
  3.考察
1)本研究の成果
 ここでは、本研究の成果について主に二点取り上げる。
 第一に、比較的歴史が浅い学校にも学校資料が多く存在することが明らかになり、授業をはじめとした様々な教育活動において活用できた点が挙げられる。学校資料を活用した先行授業は、伝統校と呼ばれる学校で行われているものが多くあった。しかし、先述したような学校資料の活用を通して、クラーク高校のような比較的歴史が浅い学校においても、学校資料が多く存在し、活用が期待できることが明らかになった。また、何らかの形で義務教育を終える日本において、学校に関するモノ・コト・エピソードは、多少の誤差・相違はあれど、全員が共通して話し合えるテーマである。話し合いの題材やきっかけを提供するという点においても、学校資料は優れた教材であることがわかった。
 第二に、学校資料を活用することで自校(史)を知るきっかけづくりを提供できた点である。学校資料の活用を学習過程に組み込むと、生徒側から「なぜ」「そもそも」という疑問が多く出てくる。例えば、「なぜ、校名に“クラーク”と入るのか」 「そもそも、学校が誕生したのはいつか」といった様々な質問が寄せられた。このような在籍校に関する素朴な疑問や質問をもとに調べ学習を行う過程で、在籍校について理解を深めている生徒が多く確認できた。クラーク高校に通う生徒は、様々な地域から通学しているため、必ずしも、クラーク高校が所在する市町村や周辺環境、学校の歴史や伝統に明るいわけではない。そのため、在籍校や学校所在地について理解を深める1つの方法として、学校資料を活用した学びが大きな役割を果たすと感じている。

2)今後の展望
 本研究では、通信制高校における学校資料の活用について、筆者が行った授業実践をもとに整理を行った。先述したように、学校資料は「学校に関するあらゆるモノ・コト」を指す広範な言葉であるため、学校だけでなく、自宅にある卒業アルバムや教科書、ノートも学校資料になり得る。そのため、多くの人が学校資料を介して、様々な課題や問題に向き合うことができるのではないかと感じている。今後は、通信制高校における学校資料の活用だけを考えるのではなく、「学校資料と遊び」「学校資料と社会教育士」など、様々なテーマを設定して考えていきたい。
 
  (参考文献)
・八田友和「通信制高校における学校資料の活用」『日本生涯教育学会第43回大会発表要旨集録』p.33日本生涯教育学会2022年
・八田友和「学校資料の教材化を模索して‐集合写真の活用を事例に−」『月刊ニューズレター 現代の大学問題を視野に入れた教育史研究を求めて』第53号pp.2-4,2019年
・八田友和「学校資料の教材化を模索して5‐クラーク高校の三浦校長を事例に−」『月刊ニューズレター 現代の大学問題を視野に入れた教育史研究を求めて』第61号pp.12-15.2020年
・八田友和「学校資料の教材化を模索して6‐学校にゆかりのある人物の教材化−」『月刊ニューズレター 現代の大学問題を視野に入れた教育史研究を求めて』第62号pp.13-16,2020年
・八田友和「学校資料の教材化を模索して21‐「ランドセル」の歴史と普及を事例に−」『月刊ニューズレター 現代の大学問題を視野に入れた教育史研究を求めて』第77号pp.16-18.2021年
・八田友和「考古学模型標本から時代の特色を理解する原始・古代史授業開発−小単元「物質資料から時代の特色を探れ!」を事例に−」『関西教育学会年報』第45号pp.111-115,2021年
・村野正景・和崎光太郎(編集)『みんなで活かせる!学校資料 学校資料活用ハンドブック』京都市学校歴史博物館,2019年
・和崎光太郎「学校歴史資料の目録と分類」『京都市学校歴史博物館研究紀要』第6号、pp.35-44,2017年
 
 
 
 
   



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