生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2023年1月18日
 
 

小規模自治体におけるコミュニティ・スクールの仕組みを活用した地域ぐるみによる防災・減災教育の推進体制の構築(しょうきぼじちたいにおけるこみゅにてぃ・すくーるのしくみをかつようしたちいきぐるみによるぼうさい・げんさいきょういくのすいしんたいせいのこうちく)

キーワード : 防災教育 、コミュニティ・スクール 、学校運営協議会 、小規模自治体 、防災マップ
松浦賢一(まつうらけんいち)
 
 
 
  1.コミュニティ・スクールの仕組みを活用した地域ぐるみによる防災教育
(1)CSの仕組みを活用した地域ぐるみによる防災避難訓練等の意義
 近年、地震や記録的な豪雨等により、全国各地で甚大な被害が発生しており、児童生徒等への防災教育や学校の防災体制の更なる強化・充実を推進していくことが重要である。
 第2次学校安全の推進に関する計画(2017)では、児童生徒等の安全に関する課題について、複雑で多様な要因が関係しているものも多く、学校や教職員のみによって学校安全の取組を適切に進めることは困難であることから、全ての学校において、保護者や地域住民、関係機関との連携・協働に係る体制を構築し、それぞれの責任と役割を分担しながら学校安全に取り組むことが求められている。そのための具体的な方策として、文部科学省(2019)は「学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール、以下CSと表記)」や学校支援地域本部などの我が国の既存の連携枠組みを生かすことを推奨している。
 しかしながら、人口減少や高齢化が進展する小規模の自治体では、人的資源や財源等に限りがあり、十分な安全体制を整備するのが容易ではない。地域と学校がパートナーとして、防災・減災の取組を通した地域づくりの担い手の育成や「学校を核とした地域づくり」が必要である。
 本研究では、地域住民や保護者等が学校運営に参画するCSを導入する学校が増えていることから、CSの仕組みを活用した地域ぐるみによる防災避難訓練等の取組事例に注目し、小規模自治体における地域の特性に合った防災・減災教育の推進体制の構築について検討する。
(2)実践地域の概要
 北海道えりも町は、人口4,332人(2022年9月末現在)で、太平洋に面した北海道の東南端に位置し、沿岸地帯のため、過去に津波高潮の災害発生の場合に大きな被害を受けてきた。
 2021年に北海道が公表した津波浸水予測において、えりも町における津波の高さは最大で26.0mにも及び、第1波津波到達時間の早い地区では、24分程度で到達するとのシミュレーション結果が出ている。
 こうしたことから、域内の学校に通う児童生徒等が自然災害等の危険に際して、自らの命を守り抜くために行動するという「主体的に行動する態度」を育成し、自然災害等についての理解や、災害時に安全に行動できるようにするなど、危険予測・回避の能力を身に付けさせるとともに、地域全体での学校安全推進体制を構築する必要があり、2019年に町内全ての学校(小学校5校、中学校1校、高校1校)において、1日防災地域学校を実施した。2019年に全ての学校に学校運営協議会が設置されたことから、その仕組みを活用して、全ての学校が自治会と連携し、地域住民と一緒に防災避難訓練等に取り組んだ。
 実施に当たって、町内各校が共通認識を持ち一体的に取り組めるよう、関係団体で構成する実践委員会を設置した。主な団体は、町教育委員会や町内全ての学校のほか、町企画課(防災)、消防署、警察署、学校安全アドバイザー、自治会代表・学校運営協議会委員、自衛隊などであり、これに実践委員会をサポートする北海道教育委員会も加わった(図1)。 
 実践委員会は、6月、11月、1月に開催し、各学校の実践等について共有を図るとともに、取組の成果と課題を明らかにした(表1)。
 
 


添付資料:実践委員会の概要(図1、表1)

 
  (参考文献)
・文部科学省「第2次学校安全の推進に関する計画」、2017年3月24日、p.8、https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/__icsFiles/afieldfile/2017/06/13/1383652_03.pdf、2022年10月7日参照。
・文部科学省「同上」、2017年3月24日、p.28。
・北海道えりも町町民生活課戸籍係「人口統計」、https://www.town.erimo.lg.jp/section/choumin/q75s28000000042k.html、2022年10月7日参照。
・北海道えりも町産業振興課商工観光係「まち・えりも町」、https://www.town.erimo.lg.jp/section/sangyou/u9c3nn00000005or.html、2022年10月7日参照。
・北海道建設部建設政策局維持管理防災課「北海道太平洋沿岸の津波浸水想定について(解説)」、2021年7月、pp.14-15、https://www.constr-dept-hokkaido.jp/ks/ikb/sbs/tsunami/shinsuisoutei/pdf/taiheiyo/kaisetsusyo/taiheiyou_kaisetsusyo_honpen.pdf、2022年10月7日参照。
 
 
 
  2.実践的な防災教育プログラム
(1) 既存の事業を継続発展させた防災学習(地域内共通の取組)
 前年度に実施した「1日防災地域学校」を児童生徒の発達の段階に応じた内容に発展させ、町内全ての小学校で実施した。
 拠点校の小学校では、表2に示したとおり、低学年は「新聞紙スリッパづくり」、中学年は「段ボールベッドづくり」、高学年は「災害食づくり」を行うなど、災害時に自分の身を守るための「主体的に行動する態度」の育成を図るプログラムを実施した。
 また、津波を想定した高台への避難訓練を自治会の協力を得て学校と地域住民が協働で取り組むなど、児童だけでなく、地域住民の防災意識を高める取組を行った。
 なお、中学校は、高台への避難訓練と災害時の保護者への引き渡しを確認し、高校は、地域探求学習において、災害発生からの出来事を時系列で考え、高校生としてできることを「ワークショップ」で発表するなど次年度の避難訓練に活かす取組を行った。
(2) 防災マップを活用した地域防災力の向上(拠点校の取組)
 海岸に近い地域に住む児童が、津波の襲来を想定しながら、地域のフィールドワークを行い、防災マップを作成(図2)。災害時の避難場所や家族の避難状況の確認方法などについて、家族での話合いの結果を授業で発表した。
 作成した防災マップは、海抜を色分けしたシールや写真を用いながら危険な場所を示し、避難所や安全な場所をわかりやすく示した。
 作成した防災マップを校内に掲示するとともに、全家庭に配付して地域の防災力の向上に役立てるなど、子どもの学びを地域に還元する取組を行った。
(3) 命を大切にする防災学習プログラムの構築(拠点校の取組)
 北海道防災教育アドバイザーによる講話を実施した。奥尻町出身のアドバイザーは、「平成5年(1993年)北海道南西沖地震」で被災した15歳の時の経験について、体験を題材にした紙芝居等を通して、自然災害の脅威や命の大切さを訴えるなど、被災経験を継承する取組を行った。
(4) 学校、PTA、地域が連携した防災教育(地域内共通の取組)
 拠点校の取組を地域内全ての学校で共有するため、実践委員会が主体となって、学校、PTA、自治会、警察、防災関係機関等による研究協議を実施し、各校の今後の防災学習に役立てるため、危険個所の想定、情報の入手先、継続した取組、教科横断的な防災学習に取り組むための教育課程の編成、児童生徒の「想像できる力」の醸成など、学校安全アドバイザーの意見を参考に計画的、継続的な取組に向けた課題を整理した。
(5) 若手教員の育成を図る防災教育体制(モデル地域内共通の取組)
 各学校の防災学習について、若手教員を中核とした防災教育を推進する各校の学校安全推進体制を構築した。
 えりも町教育委員会職員と拠点校の教頭が、東日本大震災の被災地域を視察し、社会福祉協議会と連携した避難所等での防災学習、小中合同引き渡し訓練、通学バス避難訓練のほか、宮城県防災副読本「未来へのきずな」の活用、後世への伝承として、「心の俳句」や「いのちの石碑プロジェクト」の取組を学んだ。
 また、石巻市立大川小学校の被災跡地の視察を通して、実効性のある「学校危機管理マニュアル」の重要性を改めて認識した。これらの視察で得た成果を各校に還元し、「えりも町防災学習」に活かすとともに、各校の「学校危機管理マニュアル」の改善・充実について早期に取り組むことを実践委員会で確認した。
 
 


添付資料:拠点校の取組内容(表2)、防災マップ(図2)

 
 
 
  3.CSの仕組みを活用した防災教育プログラムの確立
(1)調査方法・内容
 プログラムの教育効果については、町内全ての学校の児童生徒及びその保護者と教職員を対象に質問紙調査を実施し検証を行った。また、学校安全体制に係る成果指標を設定し、それらの項目の達成度について評価した。
 調査は、事前と事後の両方の調査に回答した児童生徒447名、保護者335名、管理職7名を対象とした。
(2)調査の結果
 教職員を対象にしたアンケート調査の結果からは、全ての学校の安全体制が強化された(表3)。
また、小学校低学年からは、「つなみがきたら、たかいところににげることがわかった」や「かぞくのみんなといっしょににげられないかもしれないから、一人でもにげるっていうことがわかった。あとは、じしんがおきたらどんどんたかいところに行くことがわかったので、わすれずに、ほんとにあったときでも、このことをもとにしていのちをまもりたい」などの感想が寄せられ、地域住民と一緒に実施した防災学習を通して、津波の脅威についての理解を深め、自らの命を守り抜くための「主体的に行動する態度」を身に付けることができたものと推察する。
 小学校高学年からは、「分かったことは、いつ地震が起きてもいいように事前に準備することや、地震になった時は『おいしくなくても食べられていることが幸せだ』ということ。 特に、毎日段ボールベットにねたらどう感じるのかということ。いつ地震が来るか分からないので、もし地震になったら今日のことを思い出したい」、「段ボールベットの組立てをしたり、実際に寝て見たりし、実際にひなん所に生活している人の大変さが少し分かった。次に災害食の試食をした。自分が思っていたのよりおいしかったし、本当に作ったご飯のようにあったかくておいしかった。いつどこで地震が起きるのか分からないけど、水や災害食を日ごろから準備した方がいいと思った」などの感想が見られ、災害時を想定した避難所生活体験を取り入れた訓練を通して、災害時の避難生活を想像する力や危険予測・回避の能力を身に付けようとする態度が醸成されるなど、防災学習の成果が見られた。
(3)考察
 本研究から明らかになった成果として次の3つが挙げられる。
 第1に、前年度の「1日防災地域学校」の取組の経験を生かし、各地域の自治会などより多くの関係機関と連携し、地域ぐるみの取組を展開することができた。特に、地域と学校が連携・協働する上で、学校運営協議会の委員によるコーディネートの働きが大きな役割を果たした。
 第2に、拠点校のみならず、町内全ての学校が防災教育に取り組み、児童生徒の発達段階に合わせた防災に係る学習を確立するとともに、若手教員の防災意識の向上を図ることができた。特に、CSの仕組みを活用して町教育委員会が設置した実践委員会に、全ての学校の中核教員が構成メンバーとして参加するとともに、各学校の実践・成果について、実践委員会や中核教員を通じて町内全ての学校に共有し、地域全体の連携体制の構築を図ることができたことは評価に値するであろう。
 第3に、児童が地域の実態を調査しながら防災マップを作成し、それを各家庭に配付するなど、子どもの学びを地域に還元し、地域住民の防災意識を高めることができた。特に、取組の過程において、学校運営協議会を通して、地域でどのような子どもを育てていくのか、何を実現していくのかという目標やビジョンを共有できたことは大きな成果である。
 
 


添付資料:各校の総体的評価(表3)

 
 
 
 
   



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