生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2022年12月5日
 
 

ボランティアチームTASKI(たすき)―次世代生涯学習社会構築における学生団体の可能性(ぼらんてぃあちーむTASKI(たすき)ーじせだいしょうがいがくしゅうしゃかいこうちくにおけるがくせいだんたいのかのうせい)

volunteer team TASKI − a possibility of students’association in the next lifelong learning society
キーワード : 学生団体 、ボランティア 、生涯学習社会 、次世代生涯学習社会 、災害復興
合田隆史(ごうだたかふみ)
 
 
 
  1.ボランティアチームTASKI(たすき)とこれまでの活動
1. ボランティアチームTASKIとは
 ボランティアチームTASKI(たすき)は、尚絅(しょうけい)学院大学(学校法人尚絅学院、宮城県名取市)の学生のボランティアグループである。東日本大震災をきっかけに、2012年に結成された。チーム名の「TASKI」は、「共に(T)歩む(A)尚(S)絅(K)愛(I)」というフレーズから採ったもので、駅伝などで使われる「たすき」との掛詞にしたものである(「たすき」のようにボランティア活動を続けていくという意味を込めたという。ちなみに、尚絅学院の建学の精神は、「キリスト教の精神を土台として、自己を深め、他者と共に生きる」というものである)。
 TASKIの支援活動は、学都仙台コンソーシアムの「復興大学事業」の一環として、当初5年間は国の「大学等における地域復興のためのセンター的機能整備事業」の一つに採択され、その後4年間は宮城県の「復興大学支援事業補助金」による支援を受けている。また、一部は住友商事東日本再生フォローアップ・プログラムの助成を受けて実施された。
2. 発足から新型コロナ感染症感染拡大までのTASKIのあゆみ
 TASKIの学生たちは、自分たちの経験をもとに、今後災害ボランティアに関わりたいと考えている学生や団体のために、「災害復興支援 はじめの一歩 Vol. 1 復興活動概論 編」という資料を作成、公開している。その中で、復興支援活動を4つのフェーズに分けて整理している。それに沿って、TASKIの歩みをたどってみよう。
(1)支援活動期
 2011年3月、震災直後から有志学生が名取市ボランティアセンターを中心に被災地支援を開始、翌2012年、学内団体TASKIが結成された。発災当初の生活支援、資金や物資の確保・配布支援、音楽や読み聞かせなど慰問活動によるストレスケア、連携団体への呼びかけ等を行った。
(2)支援初動期
 仮設住宅での生活支援、学生主催のイベントや畑作業、花壇づくりなどを中心に活動。
(3)復興活動期
 少しずつ減少していく仮設住宅住民に対する支援を継続しつつ、学生主体の活動から住民主体の活動を「支える」活動へ、さらに仮設間交流や復興公営住宅でのコミュニティ形成支援に徐々にシフト。
(4)新コミュニティ活性期
 支援者・被支援者の関係ではなく連携パートナーとしての関係性の構築、地域住民による主体的なコミュニティ形成のための補佐役・相談役を担当。また、他大学と合同での被災地訪問、学習活動、経験を次世代や他の地域につなぐ活動などに重点を移している。
 初動期から復興活動期に移行する頃には、指導者の交代等もあり活動がやや下火となった時期もあるが、最近は、震災を経験していない県外の学生や震災当時まだ小学生だったという学生が中心となって、新たな在り方を模索している。
 
  (参考文献)
・尚絅学院大学交流推進部『つなげる つたえる つづける 尚絅学院大学ボランティアチームTASKI〜東日本大震災からのあゆみを未来につなげる〜』尚絅学院大学、2020年1月、https://www.shokei.jp/campuslife/volunteer/taski/pdf/taski.pdf (最終閲覧2022年11月30日)
・尚絅学院大学×ボランティアチームTASKI 復興支援PROJECTアーカイブ『災害復興支援 はじめの一歩 Vol. 1 復興活動概論 編』尚絅学院大学、2021年3月、https://www.shokei.jp/mod/dl.php?d=ab62849d397944f83fdbe9523bdc43037844b847&i=pdf1 (最終閲覧2022年11月30日)
 
 
 
  2.新型コロナ感染症感染拡大後のTASKIの取組み
1. 新型コロナ感染症感染拡大後のTASKIの取組み
 このような従来からのTASKIの活動は、2020年に入って新型コロナ感染症の感染拡大により継続が困難となった。このため、これまでのTASKIの活動を見つめ直し、活動記録の作成等を行うとともに、「バーチャル閖上バスツアー(オンライン動画)」の作成・公開、大学間連携合同ボランティア活動・学習会(オンライン)の実施、大学ホームページ上に【つなげる・つたえる・つづける311プロジェクト】展示公開、さらに2021年3月には、震災から10年を迎えるタイミングに合わせ「10年のTASKIリレー展〜私たちがつなげる・つたえる・つづける〜」特設WEBサイトを設け、 TASKIの卒業生3名と現役生がそれぞれの経験やTASKIで学んだことなどをリレートーク形式で発表するイベントを実施した。このイベントには、これまで交流してきた千葉県や兵庫県の学生など約30名も参加した。先に紹介した「災害復興支援 はじめの一歩」の作成、公開もこのような活動の一環である。
 また、2021年度から、山形の高校生向けのプログラム「ジモト大学」に参加(オンライン)、高校生のうちに知っておいて欲しい震災の教訓や、防災・減災の知識などを講座として開講している。
 2022年度には3年ぶりにオンサイトの「閖上バスツアー」を開催、近隣の大学や海外の大学との連携による「地域防災人材育成プログラム」への参加、企業との連携プロジェクトの企画などにも関わっている。
2. 学生による総括とそこから見えること
(1)3つの「つ」を大切にする
 TASKIは、2021年3月のリレートーク後も、2021年11月には日本生涯教育学会第42回大会で展示発表を行ったほか、SNS等でも積極的に発信を行っている。それらを通じて、学生たちは、先輩が大切にしてきたTASKIの精神である「つなげる・つたえる・つづける」という「3つの“つ”」を大切に受け継いでいきたいと繰り返し語っている。
(2)今後の活動の方向性
 その一方で、現役学生たちは、感染症の拡大による行動制限のために、先輩たちが続けてきた活動を同じ形では継続できないという事態に直面した。この結果、一時は活動が停滞し、メンバーも減少したが、前述のようにこれまでになかった多様な活動を志向するようになっている。
 先の学会展示発表から、学生たちがこれからどういう活動を行っていきたいかを拾ってみると、その方向性は、およそ次のように整理できる。
1) 専門性を生かす:いろいろな専門性を学ぶ学生が共に活動することの良さを活かしたい。たとえば、災害食について学び、実際に提案してみたい、など。
2) 内容の広がり:震災の教訓、復興のプロセスなどにとどまらず、災害ボランティア以外の活動もしてみたい、他地域の経験からの学びにも取り組みたい、など。
3) 対象の広がり:被災当事者への支援や当事者からの学び、現地訪問者のための学びの支援だけでなく、地元の小、中、高校生や他大学の学生、他地域の人々のための学びの機会の提供、たとえば、前述の山形県最上地区の「ジモト大学」同様の企画を宮城県内の中学生、高校生向けに実施してみたい、など。
4) メディアの広がり:ポスターやカードからホームページ、SNSや動画など多様なメディアの活用により、他地域にも発信していきたい(ただし、新聞等のいわゆる「マスコミ」を通じての発信という意見は明示的にはほとんど聞かれなかった)。
 
  (参考文献)
・「ボランティアチームTASKI(たすき)」、尚絅学院大学ホームページ、https://www.shokei.jp/campuslife/volunteer/taski/ (最終閲覧2022年11月30日)
・復興大学災害ボランティアステーション事業『2020年度活動報告書』尚絅学院大学、2021年4月。
https://www.shokei.jp/mod/dl.php?d=7689533395af00dbbb69ac16184afcbf381f203c&i=pdf1 (最終閲覧2022年11月30日)
・「ボランティアチームTASKI 新庄・最上ジモト大学2022に参加しました!」、尚絅学院大学ホームページ、https://www.shokei.jp/information/detail.php?p=1133 (最終閲覧2022年11月30日)
・TASKI×仙台大学×カンタベリー大学 「地域防災人材育成プログラム」、尚絅学院大学ホームページ、https://shokei.jp/event/detail.php?p=1168 (最終閲覧2022年11月30日)
 
 
 
  3.次世代生涯学習社会構築の担い手としての学生団体
1. 次世代生涯学習社会開拓の担い手としての学生団体の可能性
 TASKIの活動から、大学の学生団体は以下のようないくつかの強みを持っていることを指摘することができる。
(1)多様性
 学生は、様々な地域から集まり、様々な専攻分野を学んでいる。したがって、一般の地縁集団に比べて多様な気付きや発想を生み出すことが期待される。しかも、毎年卒業生が去り、新入生が加わって、世代交代が確実に進む。今後社会人学生や留学生が増えてくれば、さらに豊かな多様性を持つことになるだろう。
(2)持続性
 通常インフォーマルなグループは、その中心的なメンバーの交代により活動が大きく左右されることが多い。この点、学生のグループは、構成員自体は毎年部分的に入れ替わるが、先輩から後輩に伝統やノウハウが継承される。このような学生間での継承のプロセスが確立するまでは、顧問の教員や担当職員などによる指導が必要であるが、いったんパターンが出来上がれば、学生たちが自ら後輩を育成するようになり、活動が持続することが期待される。
(3)拡張性
 各大学の学生グループの場合、上位の包括的な団体に所属していないことも多いが、地縁、血縁、社縁といったグループに比べ、近年のSNSなどの普及により、学生集団間、あるいは学生集団以外の様々な団体や個人との大学の枠を超えた交流が比較的容易に行われるようになってきている。
 また、地元志向の強い学生が増える一方、大学の地域貢献、地域連携活動が盛んとなり、授業等の正課、課外活動を問わず、大学として学生の地域での学びを積極的に後押しするようになっている。これらの活動がきっかけとなって、学生と地域の様々な団体や個人とのつながりが広がっている。
2. 次世代生涯学習社会の担い手に必要な資質
 このほかにも、コロナ禍前後を通じたTASKIの活動から、次世代の生涯学習社会の構築を考えるに当たっていくつかのヒントを得ることができるが、その中でも最も基本的なことは、原点はやはり「課題発見」と課題解決の主体としての「強い意志」だということである。
 この点では、近年初等中等教育においては、「総合的な学習の時間」や「探究活動」を経験し、「アクティブ・ラーニング」を通じてコンピテンシーを身につけることが志向されている。一方、このような学生が進学する大学においては、前述のように地域連携活動に極めて積極的になっている。さらに、「想定外」の大災害や感染症禍を乗り越えるプロセスで、これまでの手法が使えないなら別の方法を見つければいい、そしてそれは自分たちにとって決して不可能ではない、ということを学生たちは経験的に学んでいる。
 コロナ禍後の世代の学生たちにとっては、課題解決の発想の中にICTは当然の前提として織り込み済みである。この点では、同じデジタル・ネイティブであっても、コロナ禍前の学生とは決定的に発想が違うように思われる。DX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれ、データ・サイエンスやプログラミング教育が強調されるが、DXに必要なものは技術よりマインドだと言えるのではないか。
 課題を見つけ、それを克服する意思と成功体験を持ち、バーチャルなコミュニケーション能力をごく当たり前のものとして身につけた彼らには、次世代の高度生涯学習社会構築の中心的な担い手としての活躍が期待される。
 
  (参考文献)
・尚絅学院大学ボランティアチームTASKI Linktree、https://linktr.ee/volunteerteamTASKI (最終閲覧2022年11月30日)
 
 
 
 
   



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