生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2021年8月3日
 
 

高校生による博物館図録の作成および付帯事業の実施(こうこうせいによるはくぶつかんずろくのさくせいおよびふたいじぎょうのじっし)

キーワード : 主体的・対話的で深い学び 、クラウドファンディング 、ウィキペディア
八田 友和(はった ともかず)
 
 
 
  1.思い出博物館と本実践の概要について
 本稿は、筆者の勤務校であるクラーク記念国際高等学校芦屋キャンパス(以下、芦屋校)で行った、高校生が中心となった博物館図録の実践記録である。芦屋校では、2018年度および2019年度に高校生を中心に博物館図録の作成を行った。2018年度の活動については、拙稿「高校生による博物館図録の作成(『日本生涯教育学会論集41』集録)」にて整理している。よって、本稿では、2019年度に行った博物館図録の作成および付帯事業について整理・提示を行う。
1)思い出博物館
 本実践では、兵庫県市川町に所在する「かさがた温泉思い出博物館(以下、思い出博物館)」を取り上げ、博物館図録の作成を行った。思い出博物館は、学芸員が常駐していない博物館類似施設である(担当者としてマネージャーが常駐している)。なお、館内は、「なつかしカメラ館」「ほのぼの夢蝶館」「昭和なつかし館」館の3つのコーナーで構成されている。そのうち、「なつかしカメラ館」「ほのぼの夢蝶館」については、展示資料を紹介する冊子・ワークシートが置かれているものの、「昭和なつかし館」は、展示を紹介する冊子やパンフレットが設置されておらず、博物館資料を保管することの障壁になっていることはもちろん、博物館の活動を外部に発信する観点からも不十分だといえる。以上を踏まえ、「博物館が所蔵する資料の保存・保管を円滑にすること」および「博物館の活動や資料を外部に発信すること」を目的に博物館図録の作成および付帯事業を行った。
2)実践の概要
 本実践の概要は次の通りである。
(1)名  称:博物館に図録を寄贈しよう!
(2)実施科目:実践現代社会(通信型コースの自由選択科目)
(3)実施機関:2019年6月〜2020年3月
(4)開催場所:クラーク記念国際高等学校 芦屋学習センター
(5)参加人数:3名〜10名
(6)実施方法:博物館図録を作成する意義について、筆者から説明を行い、図録作成における役割分担を行った。具体的には、昨年度作成した博物館図録をもとに、どのようなページが必要なのかについて話し合い、担当する生徒を割り振った。それ以降は、個人ないしグループになって生徒主体に授業を進行させた。筆者は、資料の準備や全体のコーディネートに徹した。デザイン・校正などについては、勤務校の教員にも協力いただいた。
(7)担当スタッフ:筆者、伊地知栄美(美術科教員)、石川眞椰(理科科教員)
(8)実践の詳細
 実践の内容は、2018年度の実践と大きくは変わっていない。そのため、博物館図録の作成については概要のみ整理を行い、ここでは、付帯事業として行った様々な活動について整理・提示を行う。
 
 
 
  2.実践の概要
1)役割分担
 博物館図録を作成する意義や目的について、筆者から生徒たちに伝えた後、昨年度作成した図録を参考に「具体的にどのようなページがあったら良いか、読んでもらえる図録にするためにはどうすれば良いか」などについて話し合った。その話し合いを踏まえて、誰がどのページを作成するか役割分担を行い、主担当と副担当を決めた。その後は、この2人を中心に各ページの執筆作業にあたった。実践現代社会の授業時間はもちろん、休み時間や放課後の時間も使って、図録の作成を行った。全員の執筆データ・資料などが出そろった段階で、生徒たち同士で校正を行った。校正後、illustratorを活用して、執筆データ・資料などのレイアウトを行った。本来であれば、すべての作業を生徒たちが行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴う、登校自粛や休校措置を受け、最終調整のみを教員が行い、図録の発刊を行った。
2)クラウドファンディングの実施について
 博物館図録の作成を行うにあたって、生徒主体の資金獲得を行った。具体的な手法として、CAMPFIRE(キャンプファイヤー)というサイトを利用して、クラウドファンディングを行った。こちらは、全日型コースの部活動(地域研究同好会)の生徒が中心となって、企画・運営を行った。目標金額には届かなかったものの、約15万円の支援を受けることができた。その費用をもとにして、図録の印刷・製本を行った。図録が完成した後、「生徒が書いたお礼状・キャンパス長からのお礼状・博物館図録(支援者の名前を末尾に記載)・地域研究同好会の報告書」の4点を返礼品として、支援者に郵送を行った。なお、新型コロナウイルス感染拡大に伴う、登校自粛や休校措置を受け、発送作業のみ教員が行った。
3)ウィキペディア記事の執筆について
 実践を行っている当時、「思い出博物館」に関するウィキペディア記事が作成されていなかった。それを受け、授業を受講していた生徒が中心となり、ウィキペディア記事の執筆を行った。現在のところ、施設の概要や博物館までのアクセスなどにとどまっている。しかし、多くの人がアクセスするフリー百科事典(ウィキペディア)の記事を執筆したことは、博物館の資料や活動を外部に発信する観点から有効な方策になったと考える。なお、作成したウィキペディア記事は以下のURLからアクセスできる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%80%9D%E3%81%84%E5%87%BA%E5%8D%9A%E7%89%A9%E9%A4%A8
 なお、ウィキペディアは、誰でも自由に編集できるフリー百科事典という性質があるため、上記のページに記載されている情報の全てが生徒が執筆したものであるとは限らない。
 
 
 
  3.本研究の成果と課題
 本研究の成果として、博物館図録の作成だけでなく、資金調達や博物館を紹介するウィキペディア記事作成までを全て生徒主体で行った点が挙げられる。そうすることで、ただ博物館図録を作成するだけでなく、自分たちの問題意識をクラウドファンディングという形で社会に発信しながら取り組むことができた点が挙げられる。また、クラウドファンディングのページを立ち上げ、支援者へのお礼の品を準備するまでの過程を経験することで、資金を調達することの難しさや、お世話になった人に成果を還元することの大切さを学んだと考えている。
 一方で課題として、博物館図録がどれだけの人に読まれ、どのような感想があったのかなど、追跡調査を行う点が挙げられる。今後の課題としていきたい。また、博物館図録を作るだけでなく、博物館の展示や資料保存の在り方についても併せて考えていきたい。
 本稿では、芦屋校で行った博物館図録の作成および付帯事業について、具体的事例を提示しながら整理・提示を行った。先述したように、本稿で取り上げた思い出博物館は、博物館類似施設である。このような、学芸員が配置されていない、博物館類似施設は全国に数千か所存在する。そのような博物館の図録を作成することは、資料を保存し、外部に公開する点において有効な方策になると考えている。本実践が博物館類似施設における資料の保存と活用を考える際の一助になれば望外の喜びである。
【謝辞】
 本研究を行うにあたりまして、伊地知栄美氏、石川眞椰氏、星野太一郎氏、井上翔太氏にお世話になりました。記して御礼申し上げます。また、本実践における活動資金は、クラウドファンディングを通して支援をいただきました。ご支援いただいた皆さま、ありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。なお、2018年・2019年度に作成した博物館図録は、「ISSN 2434-7736」の発番を受け、国立国会図書館に納本しています。
 
  (参考文献)
・八田友和「高校生による博物館図録の作成−主体的・対話的で深い学びの実現に向けた実践的研究」『日本生涯教育学会論集41』pp.103-110、2020年
・八田友和「高校生による博物館図録の作成および付帯事業の実施について」『日本生涯教育学会第41回大会発表要旨集録』2020年
・思い出博物館図録作成プロジェクトほか『思い出博物館常設展示図録−昭和なつかし館』2019年
・クラーク記念国際高等学校芦屋キャンパス通信型コース「実践現代社会」受講者『思い出博物館常設展示図録』クラーク記念国際高等学校芦屋キャンパス、2020年
・CAMPFIREサイト「昭和の生活を支えた様々な家庭用品を紹介する博物館図録などを高校生が作ります!」(最終確認2021年7月25日)https://camp-fire.jp/projects/view/216282
 
 
 
 
   



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