生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2021年2月3日
 
 

山口消防団大学の成果と課題(やまぐちしょうぼうだんだいがくのせいかとかだい)

キーワード : 消防団大学 、消防団の教育システム 、課題研究
中嶋克成(なかしまかつしげ)
 
 
 
  1.定義及び説明・動向
・定義
 山口市では、若手消防団員が1年間にわたり、消防・防災に関する高度な専門知識や技術を学ぶとともに、消防団組織の現状を踏まえた課題研究を行う消防団員研修「消防団大学」を開催した。「消防団大学」は消防団員の減少や高齢化といった課題がある中で、団員の確保策をはじめ、女性団員や若手団員の活躍促進などの活性化対策を進めるとともに、地域防災の指導的役割を担える知識や技術を有した消防団員の育成が必要と考え、将来の消防団を牽引できる若手団員を育成することを目的としたものである。
 「消防団大学」第1期(2018)では、上記の目的から概ね50歳以下の山口市内消防団員を対象として分団ごとに希望者を募り、応募した団員と各方面隊人数の偏りのないように推薦された団員とを合算した30名が受講した(途中退学者を除く)。受講者は、5グループ(各グループ4名〜8名)に分かれて、専門知識や技術を学ぶ人材育成課程、そして、消防団の現状課題を整理し、ワークショップ形式により活性化に向けた研究を行う研究課程に取り組み、最終的に研究成果報告会において、団幹部や消防本部管理職、近隣市町村などに対して消防団の未来に繋がる意見や新たな提案の発表を行っている。
 「消防団大学」のカリキュラムのうち、受講者全員が集合して実施されるのは人材育成課程2日間、研究課程2日間、成果報告会1日間の5日間である。この5日間に加えて、3日目と4日目の間に1日各グループが自由設定できる研究日が1回、4日目の後に2日間以上研究日が設定できるように構成されていた。したがって、グループごとに日程は若干異なるが、1年間でおおむね8日間〜10日間の受講日となる。
・説明・動向
 消防団は、消防組織法(9条および18条)に基づき、市町村が設置する地域住民らによる地域防災機関である。消防本部や消防署と連携して消火活動や災害時の避難誘導、防災啓発などに携わっている。
 近年、消防団員の高齢化や消防団員数の減少が大きな問題となっている。総務省消防庁(2019)によると1955年に200万人を割り込んだ消防団員数は、1999年には100万人を割り込み、2019年時点で83万人にまで減少している。併せて、消防団員の高齢化も顕著であり、その対策が急務である。
 山口市でも早期に退団する消防団員は多く、消防団員の高齢化の一因と推測される。では、早期退団はなぜ発生するのであろうか。その一因は入団後の教育システムにあるのではないだろうか。これまでも特定の団員がポンプ操法の大会に出場する際に指導を受けることや特定の熟練団員が消防学校に入校することはあったが、一般的な若手消防団員を教育するシステムはなく、先輩団員を見て真似るのみであった。このような背景の中、山口消防団大学は開講されるに至ったのである。
 
  (参考文献)
・総務省消防庁『消防団の組織概要等に関する調査(令和元年度)の結果』
(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01shoubo01_02000244.html、2020年4月30日参照)
・「『消防団大学』の開講式を開催します」、山口市ホームページ
(https://www.city.yamaguchi.lg.jp/soshiki/100/43898.html、2020年4月30日参照)
 
 
 
  2.成果と課題
 山口消防団大学第1期(2018)の成果と課題については以下の通りである。山口県消防団大学第1期では受講生がA班、B班、C班、女性班、学生班の5グループに分かれて課題研究が行われ、以下のような成果が発表された(グループワークまでの過程は小項目3に詳しい)。
 A班の「消防団における教育システムの構築への萌芽的研究」が提案された。A班は、「全団員が災害時等に十分に対応できる知識・技術の習得をしているか」等の知識・技術の伝承に関して問うアンケートを消防団員246名に実施し、ニーズを調査している。アンケートの結果、多くの 消防団員が教育システムを求めていることが明らかになった。同アンケート自由記述欄にはその理由として「団員としてのスキルがアップしない」、等があげられた。これを受けA班からは看護師で採用されているクリニカルラダー型教育システム等が提案された。
 B班は「郷土愛の好循環」という提案が行われた。研究の結果、消防団員が減少傾向で確保が難しくなっている理由として、地域住民の郷土愛の希薄化に一因があると推定された。直接的に郷土愛を高めることは難しいため、(1)地域との共有機会の確保のため月例会議、(2)地域行事へSHOW防団が出張(防災講座、救命方法指導など)し、地域交流することで郷土愛を間接的に醸成する方法を考案した。
 C班「地域における消防団の認知度アップ」は、グループワークで抽出された消防団の課題をKJ法により分類し、消防団の課題は(1)人的課題、(2)教育課題、(3)地域課題の3カテゴリーに分類された。C班では、3カテゴリーのうち(3)地域課題が他の2カテゴリーの解決の基盤となる重要課題と位置づけ、(3)地域課題を解決する方法の研究を実施した。その結果、まずは地域における消防団活動の認知度向上がカギであるとしてその方法として、i.自治体広報誌でのPR活動、ii.消防団サーズ(ダンサーズ)を結成し地域イベントへ参加、iii.団員ごとの名刺作成など複数の提案を行っている。
 女性班「女性消防団の良さを活かすために」は、山口市女性消防団員の現状を調査し、「女性団員を活用できていない」、「女性団員の横の繋がりがない」などの課題が抽出され、その課題解決のため、(1)女性団員ネットワークの構築、(2)「山口市女性消防団員活性化大会」の開催、(3)女性団員のPRを行うことを提案した。
 学生班「学生消防団員の確保と活動参加率の向上について」は、学生消防団の現状把握のため、学生消防団員全員に対しアンケート調査を実施した。アンケートの結果、「日程の調整がうまくいっていないため参加率が低い」など学生消防団員の現状が明らかになった。アンケートの結果から、参加率の向上を目指し、(1)学生消防団員用のイベントスケジュール表の作成、(2)出欠の早期確認の徹底、(3)参加可能なイベント企画及び参画を提案している。
 これらの案は山口市消防本部で検討の上、実施可能と判断されたものは次年度以降に実施されることとなった。一方で課題もあった。課題研究を行うグループの編成は大別して「一般団員(A〜C)班」、「女性団員班」、「学生団員班」であり、各属性に応じて班分けしてある。同じ属性同士であるため消防団の課題を共有しやすい反面、意見の多様性・多面性が十分に担保されたかどうかは検討が必要である。多様性が確保されているかどうか、されていない場合はどのように改善していくかは課題である。
 
 
 
  3.事例
 山口消防団大学第1期(2018)の内容は以下の通りである。
人材育成課程は2日間にわたって行われ、受講者は講師(消防本部職員、外部講師)のもと、消防・防災に関する高度な専門知識や技術を学習した。
 1日目(2018年6月24日)に行われた開講式では、「消防団大学」の学長である消防長から、「それぞれの受講者の専門性と多様な視点を活かして、消防団活動活性化に向けた新たなアイデアを創出する」、という本大学の趣旨説明があった。その後、座学で人材育成課程(1) 「地域防災って?」、「消防団充実強化法」について実施された。ここでは、大規模災害が頻発する昨今の消防団の役割の変化について説明がなされ、団員数の低下や高齢化といった消防団の抱える課題についての説明があった。人材育成課程(2) では「自分と仲間を守る!」をテーマに、安全管理についての教育が実施された。すべての消防団員がまず自己の安全確保を図ることで、現有する消防力を最大限に発揮させることを目的としたものである。人材育成課程(3) では実技教育としてAEDや警報装置の応用的な使い方などを中心とした「応急手当」・「人命救助技術」が実施された。
 2日目にあたる8月5日の講義では、(1)「知ってほしい消防用設備&防火管理」、(2)「火災原因を知ろう&防火指導はどうやる?」をテーマに人材育成課程2コマが実施された。「消防団大学」では「将来の消防団を牽引」する若手団員を育成することを目的としているため、受講者が各分団に戻った後に団員に技術を指導する方法も伝達している。実技として(3)「プロの消火戦術を学ぶ」が行われ、(4)「消防団の現状と課題を語ろう」ではグループワーク形式で研究課程の導入が展開された。以降の研究課程では、消防団の有する課題について各班所属の消防団員と消防署員(ファシリテーター)が協議を重ね、解決案を考案していくこととなった。
 3日目は10月27日に開催された。この演習から5つのグループ(A班、B班、C班、女性班、学生班)に分かれ、「消防団を活性化させるためには」というテーマでグループ討議を行った。また、それぞれのグループごとに抽出された消防団の課題をもとに研究テーマを設定し、演習の中間発表を行った。
 4日目は、3日目に決めたテーマについて各グループでの研究を進めた。以降は、グループごとで3月の成果報告会に向け、自主的な研究も進められており、そこでの議論を基に各グループでは積極的な意見交換が行われていた。4日目の後に2日間以上の研究日が自由に設定できるように構成されており、各グループの実情に応じ、自主的な研究がすすめられることとなった。
 5日目の3月17日成果報告会では、講師・受講者のみならず山口県央連携都市県域「山口ゆめ回廊」(山口市・宇部市・萩市・防府市・美祢市・山陽小野田市・島根県津和野町)に所属する行政及び消防関係者を招待し、第1期「消防団大学」の研究成果報告が行われた。5グループから消防団の課題を解決する案として、A班から「消防団における教育システムの構築への萌芽的研究−消防団の活性化を図るための団員への教育制度の構築に向けて−」、B班「郷土愛の好循環」、C班は「地域における消防団の認知度アップ」、女性班「女性消防団の良さを活かすために」、学生班「学生消防団員の確保と活動参加率の向上について」をテーマに提案が行われた(小項目2に詳しい)。
 
 
 
 
   



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