登録/更新年月日:2020年1月26日
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1.宗像市「元気な島づくり事業(大島プロジェクト)」概要 1. 「元気な島づくり事業」の採択 福岡県宗像市にある筑前大島は、世界遺産に登録され有名となった。島の課題は、人口減少(40年間で半減)、高齢化(43.9%)、医療機関の不備による健康不安、青少年育成、世代間交流の不足等である。これらの地域課題を克服しながら島の活性化をサポートする施策が宗像市の「元気な島づくり事業補助金制度」である。5年間継続の長期プロジェクトが可能となる制度でもある。本プロジェクトは、九州共立大学に在籍するスポーツ学部生が島民に対して専門分野の健康スポーツ支援を学生ボランティアとして実施する趣旨で採択されたサービス・ラーニング(社会貢献学習)である。 2.事業目的 大島の高齢化に関する課題に対し、離島の自立的発展と島民の健康づくりの促進を図るため、スポーツを通した健康及びコミュニティづくりに関する活動を行う。世代間交流も視野に入れ、幼児が高齢者と関わる機会の設定、子育て中の保護者同士のコミュニティづくりにも取り組む。以上の目的に沿って、学生が大島のすべての世代を対象とした健康スポーツ支援を行うことで地域貢献をする。 3.事前調査 プロジェクトを企画するにあたり、事前準備として島民100名に健康スポーツアンケートを実施し、計画運営の参考にした。島民の94%が運動の必要性を感じており、67%が運動不足の現状を自覚している。プログラムとして参加したい運動として、球技(バレーは大島の地域スポーツ)、体操、ウォーキングなど手軽で継続できる種目を望んでいる。スポーツでの世代間交流が「ある」49%、「ない」51%との回答があり、不足している状況である。 4.事業内容 2018年度から2021年度までの4年間は対象を限定(2018年度保育園児及び高齢者、2019年度小学生、2020年度中学生、2021年度成人)し、1年間を通して健康づくりやコミュニティづくりが推進できるようなしかけを行う。各年度3回(午前中2時間)を目安に元気な島づくり事業として健康スポーツ支援を実施し、評価(体力・運動測定)も実施する。2022年度については、4年間の総括としてスポーツ健康大会を予定している。なお毎年10月に実施される全島運動会に企画段階から参加し運営に協力する。 |
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2.宗像市 元気な島づくり事業(大島プロジェクト)2018-2019評価 (学生の学びの効果と地域住民の満足度) 1.学生の学びの効果 (1)自己評価アンケートにみる効果 活動に参加した学生の意識がどのように変容したかを、自己評価アンケート(事前・事後)で検証した。事前アンケートは2018年4月、事後アンケートは2019年4月に実施した。質問項目は市民性(自己理解、他者理解、コミュニケーション能力、ボランティア精神等)に関するもので、同一の人物、同一の質問項目において意識の変容をみた。回答した学生は53名(2018年4月時は3年生、2019年4月時は4年生)である。多変量解析(対応のあるt検定)による学びの効果が顕著に見られた資質能力は、課題解決能力、計画実行能力、コミュニケーション能力であった。目標への工夫、見通しを持って活動する重要性、実行に移す心構え、他者の話を聴き自分の意見を伝え対話するという力が島民と共通の目標をもって協力しながら活動した学びの効果である。 (2)活動日誌にみる効果 上記(1)の自己評価アンケートとともに実施した活動日誌における自由記述にみられる学生の意識の変容について、以下のような内容が確認できた。 「地域社会を身近に感じるようになったか」 島民と会話ができたことにより地域への思いや考えを知ることができた。地域に密着した活動の経験を通して自分の育った地域のことと比較しながら考えることができ、地域の在り方を身近に感じた。離島という小さな地域の中で生活している島民の方と関わったことで、人の繋がりの重要性を身近に感じた。 「ボランティアを通して、どのような資質能力が身についたと思うか」 地域の課題を知ろうとする意識。保育園児や高齢者の方とのかかわり方を学んだ。困難な体験も経験した。スポーツ学部で学んでいる健康スポーツを実践したことにより授業の理解が深まった。地域の特色や魅力を感じる力、コミュニケーション、対話力。地域の良さや魅力を発見する力と地域の課題解決に活かそうとする企画やアイデアを考える力。 2.島民の満足度(アンケート) 大島島民110名を対象に2018年10月(全島運動会)に自由記述形式のアンケートを実施した。質問項目は、大島プロジェクトの意義や効果についての評価である。主な内容は、以下の通りである。 ボランティアに積極的に関わろうとしている姿が学生らしく印象的だった。保育園や行政ではできないことを、ボランティアの学生が協力してくれたことにより実施できて助かった。保育園児に教えてくれた跳び箱やマット運動など、技術的な助言により短時間で上達することができ園児も喜んでいた。次回はもっと難易度の高い技術を教えてほしい。高齢者向けのオリジナル体操は、これからも指導してほしい。高齢者に紹介してもらったスポーツ吹き矢は、健康のためにも継続していきたい。 |
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(参考文献) ・山田明『サービス・ラーニング研究』学術出版会、2008年。 ・山田明『教育の目的』櫂歌書房、2015年。 |
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3.宗像市 元気な島づくり事業(大島プロジェクト)の改善にむけて 小項目2で示したように、学生に関する評価(自己評価アンケート及び活動日誌における自由記述)、島民による評価(自由記述アンケート)によると一定の効果が確認できた。本来、地域活性化を目的としたボランティアに求められることは、持続可能なまちづくりにつながることである。学生の活動が地域の主体性にどう生かされていくかということが重要である。健康スポーツの内容を定着させ、さらに改善しながら新たな試みを企画運営していくことで健康スポーツによる地域活性化を普及していきたい。 |
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