登録/更新年月日:2018年10月3日
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1.大学と行政の地域連携 地域連携とは、一体感のある住民の生活圏における地域や自治体と他の組織、例えば大学や事業者が同じ目的で協働しお互いの目的を達成しようとする試みである。大学と自治体の地域連携事業は、学生と教員が地域の現場に入り、住民とともに課題解決や地域づくりに継続的に取り組む社会貢献の活動である。事例には、地域振興プランの立案、広報企画、各種実態調査、環境保全活動等多様なプロジェクトがある。大学は地(知)の拠点として存在を示し、学生は充実した学びによる市民性を体得し、自治体(地域)には町の活性化につながるきっかけづくりが望まれる。地域連携が要請される教育的要請は以下の通りである。 (1)地域連携の教育的要請 a. 中央教育審議会答申「わが国の高等教育の将来像」(平成17(2005)年) 大学の社会貢献について、答申では「大学は、教育と研究を本来的な使命としているが、現在においては、大学の社会貢献の重要度が強調されるようになってきている。(中略)こうした社会貢献の役割を、言わば大学の第三の使命としてとらえていく時代になってきているものと考えられる。」と指摘した。 b. 教育基本法第7条(平成18(2006)年改正) 改正教育基本法により「大学は学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創作し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」とされ、大学の使命が従来の教育・研究から教育・研究・社会貢献へと地域への貢献の重要性が示された。 c. 学校教育法「大学の目的」(平成19(2007)年改正) 教育基本法の改正に連動し、学校教育法の関係部分も改正された。「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」という従来の条文に、「大学は、その目的を実現するために教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」を新たに付け加えた。これにより大学は教育・研究の成果をより地域に向けて発信し寄与することが要請されるようになった。 d. 地(知)の拠点整備事業(大学COC事業) 大学は、第三の使命と言われるようになった地域貢献から地域志向の大学へという要請もなされるようになってきた。少子高齢化、地域コミュニティの衰退、経済の閉塞感、情報化、グローバル化と国際競争の激化等の社会の変化が大学と地域を連携させるチャンスを産み、地(知)の拠点整備事業として結実した。 (2)九州共立大学と福岡県岡垣町の包括的地域連携協定 本協定は、大学及び地方自治体間での包括的な協定である。岡垣町と九州共立大学(教員及び学生)が相互の資源・知識・経験等を生かして地域課題の解決や活性化に取り組み成果をあげることが期待されている。地域のニーズを基に地域活性化、人材育成、福祉向上、スポーツ振興、生涯学習等のテーマが策定された。 |
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(参考文献) ・地域・大学協働研究会編『地域・大学協働実践法〜地域と大学の新しい関係構築に向けて〜』悠光堂、2014 ・山田明『福岡県岡垣町における大学と行政の地域連携プロジェクト2016〜2017』日本生涯教育学会論集 第38号、2017、p185〜193 |
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2.地域連携プロジェクトと学生の学び 本プロジェクトには、「生涯学習と社会教育」の受講生約60名が、岡垣歴史新聞(地域活性化新聞)、広報おかがき(町の機関紙)特集記事の企画、岡垣学の構築、人権意識調査に参加したサービス・ラーニングである。活動期間は、平成28(2016)年4月〜平成29(2017)年3月である。学生の学びの効果について、活動日誌、自己評価(事前事後アンケート)、ルーブリック評価、インタビュー調査、自治体(地域)の評価等を実施した。 (1)市民性の涵養に関するアンケートにみる学びの効果 a. 情報リテラシー(情報収集力・情報活用力) 学生が主体的に取材やフィールドワークを経験したことによる情報収集力(コミュニケーション能力を含む)の向上に学習効果がみられた。収集した情報をもとに紙面構成を企画し、記事を書くことを通して情報を活用する力など情報リテラシーのスキルアップに自信を持った様子がうかがわれた。 b. 課題解決力 社会で活動することは、設定した目標に向かって取り組みの成果を出すということである。社会を生き抜くうえで必要な資質能力である工夫する力や分析力の涵養がみられた。成果を出すための試行錯誤の取り組みを通して体感できたようである。 c. 計画実行力 学生に広い視野をもって活動できる余裕が生まれている。各プロジェクトに関する分析を通して立案した計画に工夫を凝らしながら実行に移していく活動に自信を得たようだ。この資質能力は社会で活動するためのキャリア教育にもなった。 (2)活動日誌における指導者・活動参加者によるルーブリック評価 本活動は、常時、活動日誌を活用した振り返りをさせ学びの内容を確認しながら進めた。学んでもらいたい観点をルーブリックで設定し評価として実施した。成果が認められた項目は「今日の新たな経験」、「主体的社会参画」、学習効果を体感できにくかった項目は「地域のニーズの把握」、「活動と学び(教科)の関連」、「明日への改善点」であった。 (3)学生へのインタビュー 大学で学んでいる「生涯学習と社会教育」の授業で得た知識と社会における現実の関係性に触れ、新たな認識を持つという貴重な体験になったようである。インタビューを通じてルーブリック評価では評価が低かった学生についても、うまくいかなかった困難体験が逆に自己肯定感や良い経験につながっている様子が伺われた。 (4)地域の評価 自治体や地域の住民による学生の評価について自由記述で実施した。「学生の活動が地域活性化のきっかけづくりや雰囲気づくりに貢献した」、「郷土の町にうずもれた歴史があることを知った」、「町の活性化には若い世代の意見とシニア世代の知識や経験がともに必要であることを感じた」といった意見があった。活動がインターネットや自治体のフェイスブックで配信され、多くの町民の知るところとなり学生は活動に自信を深めた。 |
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(参考文献) ・ダネル=スティーブンス、アントニア=ルビ著、佐藤浩章監訳、井上敏憲、俣野秀典訳『大学教員のためのルーブリック評価入門』玉川大学出版部、2014 ・山田明『大学と自治体の地域連携における学生の学び』日本生活体験学習学会誌第17号、2017、p23〜31 |
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3.地域連携における成果と課題 (1)プロジェクトの成果 地域連携プロジェクトで以下の成果を得た。大学は、学生と教員を地域活性化に向けて自治体(地域)へ人材を送り出し、地(知)の拠点としての役割を果たした。自治体(地域)は、若い世代の活動に町づくりのきっかけを得たようである。学生は1年間にわたって地域に入り、現実の社会事情を体感しながら社会貢献を実践した。大学と地域(自治体)の連携事業という機会を得た学生は効果的な学びを体得した。アンケート、ルーブリック(活動日誌)、インタビュー、地域の評価等から自己肯定感の獲得はもとより取材やフィールドワークを通して主体的な社会参画の資質能力の向上もみられた。また真の地域貢献とは住民の持続的活動への支援であるという点に気づき、今回の取り組みが地域住民の主体性にどう生かされていくかとの考えに至ったことも学生の貴重な成果となった。 (2)今後のプロジェクトに向けての課題と取り組み 教員においては、プロジェクトマネジメントに関して地域の人をより一層巻き込み学生と一体感をもった活動にしていくこと、学生においては、社会の現実や課題の困難さの認識、解決への地道なプロセスの必要性を体得するため周到な事前準備と積極的活動、大学においては、授業とプロジェクトに関するカリキュラムマネジメントの改善(授業と活動の学問的関連性を明確にするシラバスの作成と周知)、自治体(地域)においては、地域の情報公開や活動支援の充実、活動前にアセスメントを実施しプロジェクトの効果に関する見通しを大学・教員・学生とともに共有することである。特に、学生に対する時代的要請である市民性の涵養と活動対象である地域の持続的活性化への貢献の観点から改善されたプロジェクトを継続していくことが重要であり、そこに大学と行政の地域連携の意義もより深くなっていくことになる。 |
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