生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年12月10日
 
 

ネットコミュニティとコラボレーション (ねっとこみゅにてぃ と こらぼれーしょん)

net community and collaboration
キーワード : インターネット、地域SNS、コミュニケーション
伊藤康志(いとうやすし)
2.ネットコミュニティの可能性と課題
  
 
 
 
  1)平成19(2007)年に実施された「地域SNSの活用状況等に関する調査」によれば、優れた点として「SNSで知り合った友人と容易に直接会うことができる」「顔が見える距離での密な情報交換ができる」が挙げられているが、早くも「参加者が限られ、盛り上がりに欠ける」「インターネット上でのコミュニティの意味を持たせる仕掛けが必要」ということも課題として指摘されている。ネットにしろリアルにしろ、ネットワークの中では自然と緊密な関係の固まり(クラスター)が出来るし、その相乗効果をねらったのが「地域SNS」の始まりではあったが、一方で極端なことを言えば、リアルな領域で関係が緊密化(仲良くなる)した結果、あえて特定のネットコミュニティにもどる必要性も弱くなるという皮肉な結果にもなる。これが「意味を持たせる仕掛けが必要」の背景だろう。
2)ネットコミュティは様々な人々によって構成されているが、ネットだけの交流を望む人(弱い紐帯(を求める)層)、特定のクラスターに加わり交流を深めたい人(強い紐帯(を求める)層)に大きく分けてみることができる。前者だけだとネットコミュニティは極めて不安定なものになるし、後者だけでは新たな参加希望者にとってハードルが高く仲間内だけで異質な情報や視点が入ってこなくなり、新しい取組がうまれにくい。両者がうまく刺激し合い、共存できる仕組みを見つける必要がある。
3)別な分析を試みると、日本社会の特性として、山岸は「一般的信頼」(特定の関係にはない一般的な他者をどこまで信用するか)が脆弱だとしている。換言すれば、仲間には容易に加われないが、一端加われば緊密化(強い紐帯)が進む一方、新たな者が加わるハードルがまた高くなるという構図である。「信頼」よりも仲間であることの「安心」を優先する社会である。ネットコミュニティの場合は弱い紐帯は比較的簡単に結びやすいが、そこから強い紐帯への途が難しい(ネットだけでは「安心」を得ることが難しい)。事実、ネットでは皮相的なコミュニケーションが行き交っている。これを補強するのがリアルなネットワークだった(がリアルな紐帯が強すぎると2)で指摘した問題にもつながる)。
4)一つの回答として。佐賀県でネットとリアルによる起業家育成スクール「鳳雛塾」を展開する飯盛は、創発の場面をこう解説する。「コアメンバーと弱い紐帯でつながれた、一般メンバーから情報がもたらされて、新しい事業が立ち上がっている」、コアメンバーで事業の方向性などが議論され、情報をもたらしたメンバーはその事業の推進役となり、コアメンバーと頻繁にコミュニケーションを行い、強い紐帯に転ずる、というメカニズムになっていると。また、多様なメンバー(将来、サポーターになる者も含めて)をこのネットコミュニティに引きつけるのは「資源のもやい」があるからだとしている。鳳雛塾が持っている組織・ネットワーク、ブランドを意図的にオープンにして共有・利用できるようにしているからだと。
5)「インターネット市民塾」もほぼ同様のメカニズムがあると飯盛は
指摘する。インターネット講座というコンテンツと仕組み(この仕組に価値があるからリアルからネットにもどってくる)、市民塾というブランド、事務局を中心にしたコアメンバー、学習者から講師に転ずるという仕掛け、など当てはめてみることが出来る。
 
 
 
  参考文献
・(財)地方自治情報センター「地域SNSの活用状況等に関する調査」2006年12月−2007年1月実施。
・増田直紀「私たちはどうつながっているのか」中公新書,2007年。
・山岸俊男「安心社会から信頼社会へ」中公新書,1999年。
・飯盛義徳「地域のつながりを取り戻す」国際大学グローバル・コミュニケーション・センター「智場」#111,2008,48−54P。
 
 
 
 
  



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