生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2026年2月16日
 
 

移民・難民の子ども・若者の包摂と余暇活動ーデンマークの事例から(いみん・なんみんのこども・わかもののほうせつとよかかつどうーデンマークのじれいから)

キーワード : 余暇活動 、居場所 、子ども・若者 、社会的包摂
原田亜紀子(はらだあきこ)
 
 
 
  1.デンマークの子ども・若者の余暇活動
 余暇活動は、子ども・若者にとって心理的な安全性が確保された環境で、個人の興味関心を育て、社会的な関係性を構築する可能性がある場である。日本では2020年代には、「国及び地方公共団体による「子どもの居場所づくり」を支援する施策調べについて」(こども家庭庁2023)、「子どもの居場所づくりに関する調査研究報告書」(内閣官房2023)といった「子どもの居場所」に係る複数の文書が発表され、地域のつながりの希薄化、少子化によるこども・若者同士の交流の減少といった社会的な課題から、多様な居場所づくりの必要性が認識されている。本項では、デンマークの子ども・若者の余暇活動を事例として取り上げる。
 デンマークにおける子ども・若者の余暇活動は、「民衆教育法(folkeoplysningsloven)」を法的根拠とする。この活動は、放課後の居場所であるだけでなく、対話と主体的な活動を通じて民主主義を実践的に学び、社会の一員としてのアイデンティティを形成するノンフォーマル教育の場である。学校教育がカリキュラムに基づく知識習得を目的とするのに対し、余暇活動は「子ども・若者の関心」を出発点とする点に、最大の特徴がある(Horgan et al. 2017)。デンマークの余暇活動の公的な枠組みは、1920年代に地方自治体が設置を始めたことに遡る。現在は主に次の2形態で運営されている。一つ目は、余暇クラブ(10歳〜14歳対象)であり、 基礎学校の中高学年を対象とし、放課後の安全な居場所を提供する。利用率は高く、4年生から5年生の約75%が参加している。二つ目はユースクラブ(14歳〜18歳対象)で、思春期から成人への移行期にある若者を対象とする。
 余暇クラブやユースクラブは、子ども・若者への社会サービスを供給する、という福祉の領域と、民衆教育としての領域の双方に位置付けられてきた。子ども・若者は、福祉サービスの受け手であるだけではなく、市民としてコミュニティに属し、他者と協働し意思決定を行う主体であり、その参加の方法を学び、民主主義社会の担い手となるという理念が、活動の根底に存在するのである。余暇クラブやユースクラブは地方自治体により設置・運営され、安価あるいは無償でアクセスできる公的な社会サービスとして確立されている。活動内容は多岐にわたり、ダンス、演劇、陶芸、スポーツなどの、毎週同じ曜日二講師が来てプログラムを行う、といった構造化された活動と、バンド練習、ゲーム、手芸、友人との歓談といった、個人のニーズに合わせた非構造化された自由な活動が並存する。また、宿題のサポートや悩み相談(人間関係などの悩みに加え、キャリアガイダンスへの接続を含む)も行われ、子どもたちの全人的な成長を支える場となっている。Elvstrand & Lago(2019)が指摘するように、これらのクラブは、学校文化とは異なる原理で動く「居場所」としての機能を果たしている。しかし、対象年齢の子ども・若者全体の利用率は高いものの、社会経済的、あるいは文化的にリスクの高い年齢層や背景を持つ若者ほど、クラブの利用度が低くなる傾向にある(原田 2024)。家庭にも学校にも居場所を見出しにくい子どもたちのための「サードプレイス」であるはずの場所が、最も支援を必要とする層に届いていないことが課題となっている。
 
  (参考文献)
・Elvstrand, H., & Lago, L.( 2019). ‘You know that we are not able to go to McDonald’s’:
processes of doing participation in Swedish leisure time centres. Early Child
Development and Care, 189(13), 2156?2166.
・原田 亜紀子(2024)デンマークの」子ども・若者の居場所―余暇活動とウェルビーイングに着目して―日本生涯教育学会年報 45,181−196頁
 
 
 
  2.移民・難民の子ども・若者の包摂と学校・地域の連携
 リスクの高い層のうち、特に移民・難民ルーツの子ども・若者の包摂は、重要課題となっている。デンマークにおける移民・難民の割合は約16%(デンマーク統計局2024)で、社会的包摂は大きな課題である。2014年の教育改革で導入された「オープンスクール(Aaben Skole)」は、学校と余暇活動の相互作用により社会の連帯を強化し、脆弱なグループを地域コミュニティへ包摂することが謳われている(OEget samspil mellem skole og fritidsliv?Anbefalinger fra udvalget om oeget samspil mellem skole og fritidsliv: 政策文書『学校と余暇生活の相互作用の推進に関する勧告』)。具体的には、学校を取りまくコミュニティと地域コミュニティの連携を、スポーツクラブや文化活動のクラブなどの団体(アソシエーション)の活動を通して強めるというものである。特に移民ルーツの生徒にとって、余暇活動はデンマーク語の習得や、教室以外の文脈で友人関係を築く「橋渡し」の可能性を秘めている。
 しかし、実際には包摂を阻む複数の障壁が存在する。移民ルーツの家庭では、放課後や週末に家事や兄弟姉妹の世話を担う役割を求められることが多く、活動に参加する時間的余裕がない場合がある。また、保護者のデンマーク語運用能力の不足による、情報アクセスの困難さや、余暇活動が「単なる遊び」と捉えられ、その教育的意義が共有されにくいといった文化的背景の違いも参加の壁となっている。文化の違いは、子どもの理解にも影響を及ぼす。世俗化されたルター派キリスト教を基盤とするデンマークの文化において、イスラム教などの異なる宗教的背景を持つ子どもたちの行動は問題化されやすい傾向がある。今後の課題として、教員や余暇活動の教育者が、移民家庭や社会経済的に脆弱な環境にある子ども・若者が直面する課題、たとえば不十分な学習環境や中産階級とは異なる価値観を理解することが、学校と地域の連携には必要不可欠であろう。
 
  (参考文献)
・デンマーク統計局Immigrants and their descendants(https://www.dst.dk/en/Statistik/emner/borgere/befolkning/indvandrere-og-efterkommere)2024年10月15日閲覧
・Horgan, D., Forde, C., Martin, S., & Parkes, A. (2017). Children?s participation: Moving from the performative to the social. Children?s Geographies, 15(3), 274?288.
 
 
 
 
   



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