登録/更新年月日:2019年1月5日
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1.政治参加の多様性 ユースカウンシルは、1980年代以降グローバリゼーションの進展や新自由主義の影響により、若者をめぐる状況が大きく変化したため、若者政策への若者の意見聴取の必要性から、各国で設置されるようになった。また、18歳以下の「子ども」の意見表明権を保障する国連「子どもの権利条約」を各国が批准したことで、意見表明や意思決定が重視されるようになったことも背景として挙げられる。 ユースカウンシルの形態は各国により様々で、政党が支持するフランスの事例や、既存のNGOや若者団体を転用した英国の事例などがある。デンマークのユースカウンシルは、若者が若者政策に直接影響力を及ぼす政策提言組織として地方自治体が設置する点、民衆教育としてのアソシエーションの特性である、アンブレラ団体を形成し互いに学び合う仕組みを備える点、さらに政治的には中立である点が特徴である。 欧米では子ども議会、ユースカウンシル、そしてユースパーラメントといった参加型の実践を蓄積するが、繰り返し議会制民主主義の弊害が指摘される。その弊害は以下の点に集約される。まず、メンバーを選挙で選ぶ代表制が周辺化された若者を排除し、多様な若者を包摂しない。次に意見聴取は形式的で、大人は若者の課題や意見に関心をもたず状況をコントロールし、実際の意思決定は大人がする。最後に、形骸化した意見聴取の結果、若者はフィードバックを得ることがなく、政策や実践に影響を及ぼせない。 ユースカウンシルは、当該国の民主主義の特徴を反映しているともいわれる。デンマークの民主主義は、議会制のみならず、国家、労使そして様々な市民団体や公的組織が参加し、討議、学習、合意形成により政策決定を行うという、北欧諸国に共通する対話型の民主主義の仕組みを複層的に形成する。その仕組みは、エリート、サブエリート、「ふつう」の人々が含まれる民主的なガバナンスとされる。 デンマークのユースカウンシルも、他国と同様に政党青年部や生徒会に所属する「意識の高い」一部の若者に参加が限定され、地方自治体とのコミュニケーションや連携がうまくいかない、といった経験を重ねてきた。一方、これらの課題を乗り越える実践事例も現れている。バレロップ市のユースカウンシルは、若者の居場所であるあるユースハウスを拠点とし、多様な若者を包摂するためのインフォーマルで開かれた対話の場と地方議員や職員との協働により、若者の声を聴く仕組みを形成し30年以上継続する。またグロストロップ市のユースカウンシルは、ユースカウンシルのメンバー層である16歳‐19歳の若者の88%、20−24歳の81%がフェイスブックを活用していることから、フェイスブックの公式ページと非公式ページのメッセンジャー機能を効果的に使う。フェイスブックは活用方法次第でアドホックな参加を好む層の参加を可能にし、またユースカウンシルに所属しない若者とも「友達」としてつながり、「政治参加」に抵抗がある若者にも親しみやすい。 バレロップ市、グロストロップ市のユースカウンシルの形態は直接的な対話型と、SNSによる対話型、という違いがあるものの、どちらもアドホックで身近なテーマに積極的に関与する「新しい政治参加」を受け入れながら、地方議会の政治という制度的な政治への道筋も開く点で共通し、エリート、サブエリート、「ふつう」の若者を包摂するガバナンスが見出せる。 |
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(参考文献) ・原田亜紀子「デンマーク・グロストロップ市における若者の政治参加―ソーシャルメディアによるコミュニケーションの役割」日本生涯教育学会年報、第39号、251-267、2018年 |
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