登録/更新年月日:2019年1月5日
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1.「民主主義の学校」 デンマークでは、子どもや若者はスポーツクラブやスカウトなど様々なアソシエーションに所属し活発に活動し、放課後や週末、長期休みに地域、階層、年齢、社会的立場など多様な他者と出会う機会が多い。北欧のアソシエーションは、異質な他者と協議し意思決定し、社会において影響力を行使する「民主主義の学校」とされ、公教育以上に市民形成を担ってきた。デンマークの教育大臣のベーテル・ホーダーは、2008年の若者政策文書において、若者アソシエーションはデンマークの民主主義の過程や政治への知識や理解を若者に与える、と述べている。その理由は、若者アソシエーションは、リーダーは選挙で選ばれ、大人の支援者が、若者が意思決定に参加する民主的な過程をアソシエーションにおいてどう組織するか、情報を提供しカウンセリングを行う民主的な構造をもつ、と捉えられているからである。 アソシエーションが「民主主義の学校」であるという理念は、牧師・詩人・教育者・政治家であったN.F.S.グルントヴィ(1783‐1873)の民衆教育を起源とする。グルントヴィは支配階級も被支配階級も立場の違いを超え、また教師と生徒の間にもヒエラルキーのない民衆教育の学校を構想した。その構想は農村の青年のための学校「フォルケホイスコーレ」として実現し、19世紀後半に農村地域で組織された農民協会、協同組合協会といった民衆組織を形成した。これらの組織はデンマークの民衆の政治的主体形成に大きな貢献を果たした。 グルントヴィの民衆教育の思想を独自に継承した20世紀の神学者ハル・コックは、ナチス占領下のデンマークで組織され、現在も存続する若者アソシエーションのアンブレラ団体であるデンマーク若者連盟(Dansk Ungdoms Fallesrad:以下DUF)の初代代表を務めた。コックはデンマーク人の団結はナショナリズムでなく民主主義的な価値観によるべきであるとし、DUFの目的を若者の政治教育と政治参加とした。 デンマークのアソシエーションは、参加を確実にするための地方支部をもつ全国組織があり、個人、地方支部、政府がネットワークを形成し、学び合うと同時に政策へ影響を及ぼすという仕組みをもつ。例えば、全国生徒会は各学校、地域、全国と組織化され、縦横のつながりにより情報提供や意見交換を行い、他のアソシエーションとも協働して学校政策や子ども・若者政策へ提言する。 20世紀末から21世紀は「民主主義の危機」の時代と言われ、「民主主義の学校」としてのアソシエーションへの参加の変容が指摘される。アソシエーションが組織され始めた19世紀後半に比べ、現代の社会では余暇の選択肢が消費や個人の習い事、ゲームなど大幅に増加した。家族形態も共働きが増え余暇活動よりも家族の時間を優先する場合もある。150年前の組織構造と後期近代社会の個人のニーズとのミスマッチが起こっているともいえる。また、若者のボランティア活動の動機が、何か新しく、人とは違うことをやりたい、という動機へと変化しつつある。 DUFは、こうした参加の変容を踏まえながら、コックの理念である政治教育や政治参加の実現を重視し、その目的を最も直接的に実現するアソシエーションとして、地方自治体の若者の政策提言組織であるユースカウンシルの設置や普及に力を入れている。 |
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(参考文献) ・Bertel Haarder (2008). Danish youth policy: Minister of Education and Youth Copenhagen, Forum21, Policy (http://www.youthpolicy.org/national/Denmark_2008_Youth_Policy_Article.pdf).2018年8月20日閲覧 ・原田亜紀子「デンマークの若者の「民主主義の学校」での主体形成に関する考察 : デンマーク若者連盟におけるハル・コックの思想に着目して」社会教育学研究 、53(1), 1-12, 2017。 ・原田亜紀子「デンマークのユースカウンシルにおける政治参加の複層性 : 新しい政治的アイデンティティの概念に着目して 」日本生涯教育学会論集 38, 103-112, 2017 。 |
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