生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

生涯学習eソサエティ (しょうがいがくしゅういーそさえてぃ)

lifelong learning e society
キーワード : ネット・コミュニティ、ユビキタス社会、リアルな学習、バーチャルな学習、ラーナーデザイン
伊藤康志(いとうやすし)
2.生涯学習eソサエティと行政による支援
  
 
 
 
  1)文部科学省IT戦略本部は平成17(2005)年10月に『ポスト2005における文部科学省のIT戦略の基本的な考え方』をまとめた。その中で生涯学習の領域で目指すべき方向として「人と人との交流を通じた生涯学習の増進に向けた基盤の形成」に向け、「ITを活用した学習コミュニティが構成されることによって、人との交流や、知識の蓄積・活用が進」むような仕組みづくりが示された。
2)今後は、大学等を中心に専門的な知識・技術を提供するeラーニング(個人学習支援)と、地域を基盤に学習者がネット上で集い、相互交流を行い学習を深める「学習コミュニティ」(集団学習支援)の二つを中心にそれぞれ円が描かれ拡大するだろう。勿論単純な二分論ではない、言わば全国規模と地域基盤、個人学習と集団学習、リアルな学習とバーチャルな学習がどのような接点と交わりを持つか、融合するのかという視点を持って取組が進められる必要がある。
 またこれらについては、より実践的な研究とノウハウの蓄積が求められる。何故なら従来のような「技術決定論」ではない、ICTがどう社会に受け入れられ再構成されるかを重視する「社会構成論」的な視点こそ、「生涯学習」という人々の意識・態度に関わる領域において重要だからである。
3)同時に学習者自身がICTを使い学習コンテンツの「送り手」にもなる、またそれが様々な学習者にネットによって共有され交換される、自在に「受け手」にも「送り手」にもなるインタラクティブな学習、行政が想定する支援の枠組みを越えて学習者自身がより主体的に自らの学習をデザインするラーナー・デザインの時代が来ることを強く意識する必要がある。そのような中では、行政が提供する学習コンテンツは自ずと相対化され、選択肢の一つ以上のものではなくなるだろう(同時に行政が支援の「青写真」を描くことが困難化)。
 このような学習者像の変化や「学習コミュニティ」は実は新たなICT活用の視点であると同時に従来の「地域」を拠点に公民館等(行政)が提供する学習機会の「受け手」であった学習者像や生涯学習支援全体の捉え直しに直結する。
4)例えば、人々がつくる「学習コミュニティ」に行政が何をどこまで支援するのか、これまでの公民館等を中心とした地域の「生涯学習」との関係をどう捉え直すかなどである。前者は中央教育審議会生涯学習分科会『審議経過の報告』(平成16(2004)年)で示された「社会の要請」(による学習)がどう担保されるのか、後者は地域の「リアルな学習」の場である公民館等の存在と「学習コミュニティ」との関係や連携をどう考えればよいかという問題提起である。eラーニングによって公民館の講座は代替されるとした公民館無用論はあったが、現在の「学習コミュニティ」は公民館を迂回した学習者発・地域発の取組が実は多い。であるなら別の意味で公民館は必要なくなるのではないかという論も成り立つ。
5)一見すると、IT戦略本部のとりまとめは、人々の草の根的な取組を一層活発化させるために必要なハード等の環境整備を謳っているのであって、そのことによって従来の行政による生涯学習支援の枠組みがどう変わるのか、支援行政の存在意義をどこに求めればよいかについてはあまり斟酌していない。生涯学習におけるICT活用を単なる「方法」の問題から生涯学習支援全体の検討に繋げる必要がある。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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