登録/更新年月日:2007(平成19)年3月1日 |
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【定義】 健康教育と「健康学習」は対比して述べられることが多い。健康教育が、健康に関する態度や行動に影響する個人・集団・地域住民のすべての経験及びそうした影響を与えるための努力や過程であるならば、健康学習は、健康に関する態度や行動に影響する経験あるいは知識を、主体的に学ぶことである。 現在、医療社会は大きく変化しており、例えば医者・患者関係においても、これまでは医師の判断による医療サービスが絶対的で、患者は医師の決定に「お任せ」せざるをえないという「医療者中心の医療」であったものが、国民の権利意識の変化から「患者中心の医療」が強く求められるようになっている。健康教育も、この流れを受け、「医療者主導の指導型」から、患者自身が自分の医療を選択・決定できるための知識や情報を習得するための「対象者主導の学習援助型」へと大きく考え方が変わってきている。 健康学習を、自己管理能力の形成の営みと捉えている学者もいる。自己管理能力とは、「自己の健康を、自己の責任において管理する能力」のことである。専門医の力を借りて痛みや苦しみを解消させるというような、より直接的な場合と、その痛みや苦しみが起きないように、自らの健康の問題を早期に発見して、健康保持、回復のために日常生活の中で自己管理をする場合とが考えられるが、「健康学習」は、主に後者において行われるものである。 【説明・動向】 我が国で「健康学習」という言葉が使われ始めたのは、昭和62(1987)年頃からである。石川雄一が、季刊誌「家庭医」の特集号で、健康教育から健康学習へという副題をつけ、健康学習の考え方を紹介したのが始めといわれている。その後、松下拡のほか、宮原伸二、久常節子、島内憲夫らが、健康学習の重要性を指摘し、健康問題は社会をあげて取り組むべき今日的課題とされるようになった。平成9(1997)年には、保健体育審議会が「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」の答申を出し、技術の高度化や情報化等の進展が、心身両面にわたり健康上の問題を生み出しているとの指摘をした。具体的には、児童・生徒の体位は向上しているものの、体力・運動能力は逆に低下している傾向や、薬物乱用、援助交際、生活習慣病の兆候、感染症、いじめ、登校拒否など、子どもたちの心身の健康問題が深刻化している状況にあることを示し、健康学習の重要性を明確に提言している。 【課題】 では、国民の一人一人が生涯にわたる健康を保持・増進するためには、どのような内容の学習を行い、どのような能力を身につける必要があるのだろうか。以下に示したい。 1)運動、栄養及び休養を柱とする調和のとれた生活習慣の確立 2)ストレスが生じた場合の対処法などの生活技術の習得 3)健康問題を意識し知識を生かして健康問題に対処できる能力や態度 4)健康の保持増進のための行動変容を実践できる能力 現在、これらの能力を身につけるために、各年齢段階にあわせた健康学習プログラムが数多く実践されている。その方法として「ヘルスプロモーション(=人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス)」や、「エンパワーメント」などの考え方が取り入れられ推進されている。しかし、「健康学習」という概念そのものが、まだ歴史の浅い概念であり、今後、さらに検討が重ねられる必要があるといえる。 br> |
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参考文献 ・松下拡『健康学習とその展開―保健婦活動における住民の学習への援助』勁草書房、1990 |
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