生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2012(平成24)年1月3日
 
 

生涯にわたる読書教育 (しょうがいにわたるどくしょきょういく)

reading education covering the whole life
キーワード : 言語力の向上、読書体験、読書習慣、読書環境、ブックスタート
今西幸蔵(いまにしこうぞう)
1.生涯にわたる読書教育の意義と読書体験
   
 
 
 
  (1)読書教育の意義
 近年,国民の活字文字に対する理解が弱くなり,読書量も減少していることが教育課題とされている。学習指導要領においても,主な改善事項に「言語活動の充実」が取り上げられ,知的な活動やコミュニケーション、感性・情緒の基盤である言語能力を育成することが求められている。生涯にわたる読書活動の充実や環境整備,読書教育の普及が重要であり,そのための方策が提示されねばならない。
(2)読書体験の獲得
 人はどのような動機で読書に向かうのであろうか。そこで何を手に入れたいと考えているのであろうか。また,どのような形で読書をするのだろうか。生涯にわたる読書活動の進め方を考える時,乳幼児期の読書体験が重要である。最近,各地でブックスタート活動などの読書体験学習ともいうべき実践があることは,子どもの学習要求がそこに存在するからであり,親や周囲の人々が支援する態度があるからだと考える。
 ブックスタート活動は,1992年にイギリスのバーミンガムにおいて始められ,21世紀に入って,我が国でも急速に進展した運動である。ゼロ歳児検診時に図書館職員,保健師,一般行政職員及び図書活動に関わる住民らが,ブックスタート・パックを手渡すことにより,乳幼児に読書体験をさせる取組である。これによって乳幼児は絵本を開く体験をし,保護者は絵本の読み聞かせをとおして子どもとの心の交流を持つ機会が発生する。子どもは,親や周囲の大人から絵本を聞き,絵本を眺め,やがて絵本を読み,絵本をもとに絵や文字を書くようになる。コメニウスの絵入り言語教科書を持ち出すまでもなく,子どもと絵本の対話は子どもの情緒を著しく高め,豊かなものに変化させるであろう。絵本を広げてもらった子どもは,その絵本の内容を語りかける大人の言葉や態度から,自分自身へのエールを感得し,それを楽しいと感じるに違いなく,極めて体験的な学習機会となる。体験的に学ぶということは,人間の持つ重要な器官の活用,特に五感を使った認識が基盤となり,乳幼児期から豊かな言葉を聴くことによってより良く育ち、豊かな言葉の体験が読書の基礎をつくるということになる。読書活動について言えば,少なくとも「見る」「読む」「聴く」ということ,それに加えて関連教材を「触る」ということがあれば,子どもの持つ潜在的な力が大きくなるに違いないであろう。
 読書体験の集積が,その後の成長に大きな影響を与えているのではないかと考えられ,特に絵本の果たす役割が重要だと思われる。絵が子どもの目にどのように写っているのかは定かではないが,感動体験や知的好奇心を引き起こす読書体験につながっていると予測される。「知る喜び」や「絵や言語が発する経験」が,子どもに少なからず学びの機会を与えているに違いない。そうした視点で読書体験について考えるならば,乳幼児だけでなく,もう少し成長した児童・生徒も同様のことが言えるであろう。つまり青少年の発達に不可欠な学習体験であり,その集積が子どもの発達形成につながる。読書活動の出発点ともいうべき乳幼児期の読書体験は,その質と量によって,人の人生にも大きな影響を与えるという仮説が発生する。少なくとも読書活動には一定の効果が生まれると考える。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
   



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