生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2021年10月20日
 
 

高度生涯学習社会(こうどしょうがいがくしゅうしゃかい)

advanced lifelong learning society
キーワード : 高度生涯学習社会 、生涯学習 、人工知能 、フィラメント状ネットワーク 、重ね合わせ学習
山本恒夫(やまもとつねお)
 
 
 
  1.高度生涯学習社会
【定義】ここでいう高度生涯学習社会とは、高度情報通信技術のみならず人工知能(AI)、ロボットを生涯学習に導入し、活用するようになった生涯学習社会のことである。
【説明】我が国でも高度情報化が進んでおり、人工知能(AI)も実用化の段階に入っているが、2021年段階では、生涯学習関連分野には人工知能(AI)がまだ導入されていない。しかし、人工知能(AI)は早晩導入され、活用されるとみられているので、研究面では、2010年代の後半から構造仮設、変動仮説の提出など、高度生涯学習社会の研究が始まっている。
 生涯学習社会については、高度生涯学習社会研究の場合でも、教育基本法第3条(生涯学習の理念)の「生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会」とする考え方を踏襲している。
 高度生涯学習社会の構成要素は、構造仮設によれば、教育・学習システム(教育制度・機関・施設等を含む)、高度生涯学習支援システム、高度生涯学習ネットワーク、学習する人(学習人)で、それらはそれぞれ人工知能(AI)と何らかのかかわりを持つ構造になっている。
 そのうちの高度生涯学習支援システムは、インターネット((IoT(モノのインターネット)を含む)に接続しており、システム内部には、従来からの生涯学習推進センター機構、学習成果の認定・認証及び活用支援機構のほか、新たな知識・技術活性化ツール開発センター(仮)を加える仕組みになっている。
 この開発センター(仮)は、人工知能(AI)を活用すれば豊富な知識・技術を利用でき、また生活の中での知識・技術の創出も容易になることから、生涯学習用のプログラムを開発したり、人工知能(AI)に搭載したりして、生涯学習関係機関・施設・団体や学習する人(学習人)にサービスをする支援センターである。人工知能(AI)に搭載が期待されるプログラムには、レジリエンス(回復力・成長力)育成プログラム(情報収集力、事象把握力、判断力、論理力、問題解決力、創造力等)、疑問についての調査法、課題解決プログラム、思考法(学問、芸術、スポーツ等における思考法)などがある。
 人工知能(AI)が学習で活用できるようになると、新たな重ね合わせ学習(小項目2)が盛んになり、生涯学習も新たな局面を迎えることになるであろう。人工知能(AI)が発達すれば、生涯学習推進センター機構、学習成果の認定・認証及び活用支援機構のかなりの機能を吸収してしまうから、新旧のセンター、機構が統合される可能性がある。
 生涯学習ネットワークは、学習する人(学習人)たちが学習情報・資源などをやり取りするつながりで、高度生涯学習ネットワークは、人工知能(AI)を具備した学習する人(学習人)をノード、学習資源交換径路をリンクとし、高度情報通信技術、人工知能(AI)を活用するネットワークである。人工知能(AI)の活用により、新たなフィラメント状ネットワーク(小項目3)が発達する可能性が大きい。
【課題】当面の課題としては、高度生涯学習支援システム、高度生涯学習ネットワークのモデルを使って、人工知能(AI)導入による問題を検討することや、人工知能(AI)に搭載が期待される生涯学習用プログラムの開発などがある。
 
  (参考文献)
・山本恒夫「高度生涯学習社会の生涯学習支援ネットワーク」日本生涯教育学会生涯学習実践研究所・プラチナe資料館・創造のアイディア箱レター(http://lifelong-center.jimdo.com/)、2015年5月
・山本恒夫「高度生涯学習社会の理論」日本生涯教育学会生涯学習実践研究所・プラチナ資料館「論文・報告」(http://lifelong-center.jimdo.com/)、2018年5月
・山本恒夫「高度生涯学習社会の変動」同上、2021年10月
 
 
 
  2.重ね合わせ学習
【定義】重ね合わせ学習とは、ある活動と学習を同時に重ね合わせて行うことである。
【説明】システム理論や物理学では、系が線形の場合、2つ以上の入力が同時に与えられた時の結果が、それぞれの入力が単独に加えられた場合の結果の総和になるということを重ね合わせの原理(superposition principle)といっている。これは、y1=f(x1)、y2=f(x2)、y1+2=f(x1+x2)が線形の場合、y1+2=y1+y2が成り立つことである。この重ね合わせは、電気回路でも使われている。
 それに対し、量子の重ね合わせ(quantum superposition)は、状態の重ね合わせである。量子は「物質」の性質と「状態」の性質を「重ね合わせ」の状態で持っている存在のことで、原子を構成している電子、中性子、陽子や光を粒子としてみたときの光子などがそうである。原子より大きい世界では、物質と状態は区別できる。
 状態の重ね合わせとは、ある状態を二つ以上の別の状態の重ね合わせとして表すことができることを指している。重ね合わせの仕方は複数可能であり、一義的ではない。量子コンピューターは、この重ね合わせを利用している。
 重ね合わせ学習(learning superposition)の重ね合わせは、状態の重ね合わせである。
 たとえば、次のような例がある。
 例1
 高齢になり、音楽会へ行くことが楽しみとしている人がいて、常にインターネットで音楽会の情報を見ている。(趣味活動)
 ある時、ヨーロッパから将来有望とされる若手指揮者が来日するとの情報が目についたので、それを見ながら、スマホでその指揮者のことを調べ、メモをとった。(情報収集と同時の知識獲得の学習)
 例2
 令和になり、銀行は人工知能(AI)導入で支店の窓口業務を人工知能(AI)に任せ、職員を資産運用などの相談業務に移す改革を進めている。職員は常にタブレットで調べながら、相談業務に当たっている。
 ある時、客から相談中に「自分のところの長男でも大学の授業料免除を申請できるか」と訊かれた。職員はすぐその場で文科省のサイトを調べて客に伝え、喜ばれた。(相談業務)。その職員は、これはこれからも使えると思い、客への対応をしながらノートにメモをとって覚えた。(知識獲得の学習)
 これらは、まだスマホ、タブレット、パソコンを活用しての重ね合わせ学習だが、人工知能(AI)を活用できるようになれば、情報、知識技術の収集から整理まですべて人工知能(AI)がやってくれるので、重ね合わせ学習が盛んになると考えられる。
 
 


添付資料:重ね合わせ学習について

 
  (参考文献)
・山本恒夫「継承と挑戦―本学会40年の時点で―」日本生涯教育学会年報第41号『生涯学習研究の継承と挑戦』、2021年3月
 
 
 
  3.フィラメント状ネットワーク
【定義】ここでいうフィラメント状ネットワークとは、人工知能(AI)・人間一体型で学習する人から、ある情報収集・交換等の指示を受けた人工知能(AI)が、情報収集・交換等の可能な人工知能(AI)と順次関係を作っていったときにできる細長い糸状のネットワークのことである。
【説明】フィラメント状ネットワーク(filamentous network)は、人工知能(AI)が生涯学習で広く活用されるようになって出現するネットワークである。定義の中にある人工知能(AI)・人間一体型の学習は、学習における情報、知識・技術の収集、整理、分析を人工知能(AI)に任せ、学習計画の立案、学習活動の展開、学習の評価、学習成果の活用にあっても、人工知能(AI)を活用するタイプの学習のことである。
 また、指示を受けた人工知能(AI)が他の人工知能(AI)と作る関係は、結合・組合せの非共立関係で、非共立関係とは、ある関係が成立しているときには他の関係が成立しないことである。
 フィラメント状ネットワークでの結合関係、組合せ関係についていうと、
・必要に応じて、ある人工知能(AI)が他の人工知能(AI)を次々と訪問し、情報収集・交換等を行っている時の関係は結合関係
・情報収集・交換等を行わない時は、それぞれの人工知能(AI)の間の結合関係はなく、それぞれのところに点在しているだけなので組合せ関係
となっている。したがって、ここでの非共立関係は、結合関係が成立しているときには組合せ関係が成立しないし、組合せ関係が成立しているときには結合関係は成立しない、という非共立関係である。
 フィラメント状ネットワークとよく似たタイプのネットワークにバス型ネットワークがあるが、要素間関係がフィラメント状ネットワークでは結合と組合せの非共立関係であるのに対して、バス型ネットワークでは結合と順序の共立関係となっているので、異なるネットワークである。
 このフィラメント状ネットワークでは、結合関係を利用して情報収集・交換等を行うことができる。結合関係を作る数に制限はないので、進化系ネットワークである。
 また、フィラメント状ネットワークはあるテーマや問題毎にできるので、人工知能(AI)・人間一体型で学習をする人(学習人)が増えてくると、その数は非常に多くなり、密集状態になると考えられる。逆に、人工知能(AI)・人間一体型の学習をする人(学習人)が少なかったり、いなかったりするところは、フィラメント状ネットワークの空洞(ボイド)となってしまう。
 なお、フィラメント状は不織物や手術用機器などの分野で活用されるキーワードである。フィラメントは宇宙の説明でも使われており、大部分の銀河は、銀河団及び銀河団をつなぐ銀河フィラメント(galaxy filaments)に属するとされている。(そのフィラメントに囲まれるようにして空洞(ボイド)が存在している。)
 
 


添付資料:フィラメント状ネットワークについて

 
  (参考文献)
・山本恒夫「高度生涯学習社会の変動」日本生涯教育学会生涯学習実践研究所・プラチナ資料館「論文・報告」(http://lifelong-center.jimdo.com/)、2021年10月
 
 
 
 
   



『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。
<トップページへ戻る
 
       
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved.