生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2026年2月14日
 
 

留学成果の評価と教育の質向上に向けたデジタルバッジ導入の可能性(りゅうがくせいかのひょうかときょういくのしつこうじょうにむけたでじたるばっじどうにゅうのかのうせい)

exploring digital badges as a tool to evaluate study abroad outcomes and enhanve quality of education
キーワード : 学習成果の評価 、留学成果 、マイクロクレデンシャル 、デジタルバッジ 、プロセス評価
地引優香(じびきゆか)
 
 
 
  1.マイクロクレデンシャルとデジタルバッジの定義
 学校教育と労働市場のギャップを縮めると注目されるマイクロクレデンシャルは、学位より小さい学修単位で、大学などの機関が個別に認証するものである。固有の目的をもつマイクロクレデンシャルもあれば複数の目的をもつものもある。対面、オンライン、または双方を通じて国内外の複数の大学で得た多様な学びを、デジタルバッジの形で証明する。デジタルバッジは、成果、興味・関心または所属を、視覚的にオンライン上で表すもので、バッジ取得の背景や意味、課程や活動の結果を説明するのに役立つリンクなどのメタデータを含み、ブロックチェーン技術など、改ざん防止技術が施されたオープンバッジが用いられることが多い。
 マイクロクレデンシャルは特定のスキルや知識などを、小さな学修単位で学修した証明である一方、デジタルバッジは教育の成果を表現する情報ツールであり、学習者中心で、学修履歴や成果をオンライン上で証明できる。このことから、Gibsonらはデジタルバッジは効果的で透明性の高いツールだと説明する。
 デジタルバッジには、動機づけ、学修状況の提示、成果の証拠、の3つの教育的価値があるとされる。第一に、デジタルバッジを取得することがモチベーションとなり、新たな知識やスキルの習得を後押しする。第二に、学修状況の提示として、個人のウェブページや電子ポートフォリオ、ウェブサイトにデジタルバッジを表示することで、学習者が何を知っていて何ができるのかについて評価を得ることが可能となる。第三に、特定の知識やスキル等を認証した証拠となるメタデータが紐づくことで、学修成果の客観的証明となる。また、バッジが道しるべの役割を果たし、さらなる学習機会に関する情報や達成の可能性を学習者に提供することもできる。さらに、デジタルバッジを共有することで、共通の興味・関心やスキルを持つ者同士が交流するきっかけづくりとしても期待される。
 またデジタルバッジは、学修支援・評価システムとしても働く。デジタルバッジを取得するプロセスは、ゲーミフィケーションの手法によって動機づけに働きかけ、学修継続を促す。ゲーミフィケーションとは、ゲーム以外の文脈でゲームデザインの要素を使用することと定義される。例えば、レベルやポイントによって学習者が学び続けることを促す仕組みを作ることが挙げられる。また、学修行動を評価し、学習理解への一連の道しるべとして機能するようにデザインすることもできる。つまり、バッジを獲得するプロセスが、学習者へのフィードバックとなる。
 さらに、デジタルバッジは、学位取得よりも短期間で、特定の領域を学んだことを証明する手段としても注目される。学修歴の蓄積が学位につながることもあり、伝統的な学位取得の流れを変える教育のデジタルトランスフォーメーションとされる。さらには優秀な学生を世界各国から早期に獲得する手段でもあり、社会人のリカレント教育の新事業の機会としても期待される。
 
  (参考文献)
・Fraser Thompson, S., “Microcredentials and digital badges to augment community college internationalization.” International Studies Research Lab. Illinois Library. pp.1-11, 2022
・Gibson, D., Ostashewski, N., Flintoff, K., Grant, S., & Knight, E., “Digital badges in education.” Education and Information Technologies. 20(2), pp.403-410, 2015
・井上雅裕、角田和巳、長原礼宗、八重樫理人、石崎浩之、丸山智子「大学教育のデジタルトランスフォーメーション」(『工学教育』3,70、pp.3-8、2022)
・Oliver, B., Making micro-credentials work for learners, employers and providers . DTeach- Deakin University. Australia, 2019, pp.1-48 https://dteach.deakin.edu.au/wp-content/uploads/sites/103/2019/08/Making-micro-credentials-work-Oliver-Deakin-2019-full-report.pdf、2025年5月5日参照
 
 
 
  2.留学成果の評価としてのデジタルバッジの活用
 留学プログラムの効果検証のためのツール開発は世界各国で進んでいるものの、その多くが、留学経験者本人の自己評価に依存していることが指摘される。留学経験者による満足度調査や、自己評価のデータに基づいて留学の効果測定が行われている現状から、客観的データに基づいた留学効果測定とそれをエビデンスとして用いた留学プログラムの質保証が課題に挙げられる。留学による学習成果の客観的評価の方法として、高い透明性を持ち学習履歴や成果を証明できるデジタルバッジを留学プログラムに応用することは、Fraser Thompsonによって提案されている。
 アメリカの留学プロバイダー、Academic Program International(以下、API)は2016年より国際経験とキャリアの接続を図る取り組みのひとつとして、デジタルバッジを導入している。APIは、アメリカ、テキサス州に拠点を置く企業であり、高校生から大学院生を対象に、多様な国際教育プログラムを提供している。意義ある学修経験としての留学カリキュラム設計を特徴とし、アメリカ各地の大学と提携した単位認定プログラムも展開する。このデジタル・バッジ・プログラムは、参加者が出発前から帰国後に至る学修活動に応じた修得スキルを、デジタルバッジの形で証明することができる。課題解決やリーダーシップなど、グローバル社会で必要とされるソフトスキルから成る全15種類のバッジは、デジタルバッジ情報提供サービスのCredlyを通じて発行される。Credly上では、各スキルの具体的な説明や、獲得に必要な基準、そのスキルと関連する職業などを確認することが可能である。
 東洋大学では東洋グローバルリーダー(TGL)プログラムにデジタルバッジを取り入れている。同プログラムは、国内外で活躍できるグローバル人材となるための3要素「異文化環境における英語運用表現能力」、「多文化共生社会における価値創造能力」、「異文化環境における課題解決能力」の強化を目指し、入学時から全員が参加する学部横断型のプログラムである。2025年時点でのプログラムでは、ゴールド、シルバー、ブロンズの3つのランクに認定要件が設定されている。留学経験など定められた7つの認定要件を達成すると、レベルに応じたランクが認定される。留学の種類は海外インターンシップなど多様な形態の国際教育経験が対象となっており、外国語科目の履修歴やTGLキャンプと呼ばれる対面またはオンラインで開催されるアクティブラーニング型イベントといった国内での学修活動も認定の対象とされている。各ランクの認定要件の詳細や達成状況は、授業支援システムを通じてオンライン上で確認することができ、認定証は、履歴書の資格欄でのアピールや就職活動における自己PRの材料にするなど、就職活動に役立てることができる。
 
  (参考文献)
・Fraser Thompson, S., “Microcredentials and digital badges to augment community college internationalization.” International Studies Research Lab. Illinois Library. pp.1-11, 2022
・西谷元「BEVI を用いた留学効果の客観的測定−客観的データに基づく留学プログラムの質保証−」(『高等教育研究叢書』155、pp.39?52、2020)
・大西好宣『海外留学支援論: グローバル人材育成のために』東信堂、2020
 
 
 
  3.課題
 デジタルバッジによる留学成果の可視化は、単に学修経験を記録するだけでなく、生涯学習において重要な学びの接続を実現する可能性をもつ。大学のディプロマ・ポリシーや社会人基礎力などに代表される雇用され得る力においてもコンピテンシーを挙げていることから、留学後の学びの接続や、キャリアと学びの接続、さらには社会人留学や、ワーキングホリデーなどの学修経験をマイクロクレデンシャルの考えを応用することで、生涯学習の促進が期待できる。
 デジタルバッジの導入には、いくつかの課題も存在する。技術的側面としては、プラットフォーム選択や導入費用及び維持費などがあげられる。また、日々技術は進歩し、新たなツールが開発される中で、デジタルバッジそのものの持続可能性も考慮する必要がある。教育的側面では、スキルベース、あるいはコンピテンシーに基づく評価を行うにあたっては、学修目的や到達目標、評価基準など、バッジを獲得するための基準と証拠が明らかになっている必要がある。バッジの信頼性を確保するためには、透明性のある評価システムの構築が不可欠である。こうした課題を克服するために、資格枠組みの整備が求められる。
 大学質保証ポータルは、資格枠組みを「学位・資格について学習成果、能力、学習量等を指標として学習の達成水準を段階的に分類する仕組み」と説明する。資格枠組みの策定を通じた、学修成果の可視化による教育の質保証はグローバル規模で進んでいる。2017年12月に締結された「高等教育の資格の承認に関するアジア太平洋地域規約(東京規約)」は、学生及び学者の移動を容易にすること、そしてアジア太平洋地域における高等教育の質の改善を目的とし、東京規約締結国を含め、世界42か国以上でデジタル化された学習歴証明書が実装化されている。資格枠組みと各国の教育段階とに互換性を持たせることができれば、国際移動のさらなる円滑化にもつながるであろう。
 さらには、日本の文脈におけるマイクロクレデンシャルとデジタルバッジの効果的な導入のため、より整合性のとれた評価能力基準の確立が不可欠である。現状、日本における質保証の取り組みとしては、ディプロマ・ポリシー策定の義務化など大学教育改革が挙げられるが、教育と労働市場の連携の点で課題が残る。労働サイドの評価能力基準としては、経済産業省の提唱する社会人基礎力と厚生労働省の提唱する職業能力評価基準があるが、教育サイドの基準としては文部科学省の学士力が独自に存在している。教育機関と労働市場が同じ評価能力基準を持つことで、在学中に身に着けるべき能力や学習成果指標の策定と可視化が可能となるとされる。今後の展望として、国際的な資格枠組みとの互換性を持った統合的な資格枠組みの構築が期待される。特に、留学成果の認証においては、国内外の教育経験を統合的に評価できる仕組みが不可欠である。
 
  (参考文献)
・Carey, K. L., & Stefaniak, J. E, “An exploration of the utility of digital badging in higher education settings.” Educational Technology Research and Development, 66 (5), 2018, pp.1211-1229
・大学質保証ポータル「高等教育に関する質保証関係用語集」独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構『大学質保証ポータル』、2021 https://niadqe.jp/glossary/5288/、2026年2月6日参照
・江藤智佐子「韓国NCSにおける職業能力と学習モジュール: ビジネス分野の基礎レベル能力に着目して」『久留米大学文学部紀要情報社会学科編』15、pp.19-32、2020
・国際教育研究コンソーシアム「国際教育のための学修歴証明書デジタル化」国際教育研究コンソーシアム『プロジェクト』 http://recsie.or.jp/project/digital-fce
・文部科学省「第5章高等教育の充実」文部科学省『令和4年度文部科学白書』、2021、https://www.mext.go.jp/content/20220719-mxt_soseisk02-000024040_205.pdf、2026年2月6日参照
・Oliver, B., Making micro-credentials work for learners, employers and providers . DTeach- Deakin University. Australia, 2019, pp.1-48 https://dteach.deakin.edu.au/wp-content/uploads/sites/103/2019/08/Making-micro-credentials-work-Oliver-Deakin-2019-full-report.pdf、2025年5月5日参照
 
 
 
 
   



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