登録/更新年月日:2024年1月27日
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1.社会教育専門職コンピテンシーの成人教育学的特質 【定義】 1. 社会教育専門職 本項目における社会教育専門職とは、社会教育主事有資格者を中心とする、主に公的社会教育施設・公的セクションの専門職員(社会教育関係職員)を指す。なお、別に固有の資格がある図書館司書、博物館学芸員は含めないこととする。 2. コンピテンシー(competency) 「コンピテンシー」については様々な定義があるが、本項目では、専門職としての能力・資質・知識のありようを表現する概念として「コンピテンシー」を用いる。 3. 成人教育学 米国のM.ノールズは、成人教育の理論や実践(成人教育学)をアンドラゴジー(Andragogy)という概念によって体系化した。今日の国際社会では、ユネスコを中心として、“ALE:Adult Learning and Education(成人学習・教育)”が生涯学習の中核に位置付けられている。 【説明・動向】 社会教育専門職コンピテンシーの特質として、「支援的態度、相互尊重」といった関係性を基盤とした非認知的能力に強みが見られる。これは、専門職同士の「強い紐帯」によって培われる「経験知/暗黙知」の優位を示すと考えられる。米国の社会学者グラノヴェターの理論を踏まえると、「強い紐帯」とは、接触する頻度が高く、共有する部分が多い関係性である。 一方、「技術、方法」に関わる認知的能力は相対的に低い傾向が見られた。これは、社会教育専門職の課題が認知的能力である「形式知/明示知」の側面にあることを示すと考えられる。 【課題】 今後の課題として、社会教育専門職が持つ経験知/暗黙知を形式知/明示知化する方策に関する検討が挙げられる。この作業が、ユネスコがいう「ALEコンピテンシー・フレームワーク」の日本版モデルを検討するために必要である。 【事例】 本項目の基礎データとなった「社会教育関係職員に対するアンケート調査」では、ノールズが開発した尺度「成人教育・訓練担当者の役割のための能力:コア・コンピテンシーの診断・計画ガイド」を採用した。調査対象は、社会教育主事任用資格を有する社会教育関係職員である。 調査結果では、尺度の重視度・充足度の両方において、「あらゆるタイプの学習者と、温かく、共感的で、支援的な関係を築く能力」、「物理的にも心理的にも、相互尊重や信頼があり、オープンかつ支援的で、安心できる雰囲気を創出する能力」、「学習者一人ひとりのちがいを考慮しながら、多様な目的を達成するために学習経験をデザインする力」、「学習者にとって意義のある目標の策定に、学習者を巻き込む能力」の4項目が比較的高く表れた。 一方で、「自己決定学習の技能を伸長させるために、1時間あるいは3時間、1日、3日の学習経験をデザインし実施する能力」、「コンピテンシー・モデルの構築のための手続きを開発し援用する能力」、「能力開発へのニーズを診断するためのツールと手続きを構築して活用する能力」、「学習経験の組織化のための方法や形態の範囲を説明する能力」の4項目は相対的に低く表れた。(山本2023) |
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(参考文献) ・グラノヴェター,M『転職―ネットワークとキャリアの研究―』(渡辺深訳)ミネルヴァ書房、1998年 ・グラノヴェター,M「弱い紐帯の強さ」(大岡栄美訳)『リーディングス ネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本―』(野沢慎司編・監訳)勁草書房、2006年 ・ノールズ,マルカム『成人教育の現代的実践―ペタゴジーからアンドラゴジーへ―』(堀薫夫/三輪建二監訳)鳳書房、2002年 ・ノールズ,マルカム『成人学習者とは何か―見過ごされてきた人たち』(堀薫夫/三輪建二監訳)鳳書房、2013年 ・山本竜司「社会教育関係職員のコンピテンシーに関する成人教育学的検討」日本生涯教育学会論集、第47号、2023年 |
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