登録/更新年月日:2024年2月2日
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1.兼任職員研究の必要性と先行研究の状況 兼任職員とは、行政主体において任命権者から発令された職務に加え、兼ねるべき職務として発令された職務に従事する職員のことと説明することができる。兼任のほかにも、兼職、兼務なども一般に用いられる表現であるが、国家公務員については併任という言葉が用いられており、運用ルールが地方公務員と若干異なっている(人事院規則8-12第38条参照)。 社会教育調査における公民館調査票の記入事項等の説明においては、兼任を「当該施設以外の常勤の職員で、兼任発令されている者。」と規定している。同調査において現在と同じ分類基準で公民館職員数を集計するようになったのは、昭和62(1987)年度調査からであるが、当時から現在に至るまで、職員数全体に占める兼任職員の割合は専任職員とほぼ同程度の水準で推移してきている。それだけの数量的存在感にも関わらず、これまでの社会教育研究において公民館の兼任職員が検討対象として注目されることはほとんどなかった。これでは社会教育の実態に関する客観的な理解・把握は進まず、国や地方公共団体の社会教育条件整備に関する正確な展望を描くこともできないだろう。 兼任職員に関するこれまでの先行研究は、どの学問領域においても少ない状況であり、特定の行政分野の兼任職員の実態やその専門性について質問紙調査を実施した結果報告や事例紹介の類が存在するに過ぎない。そのような状況ではあるが、公民館の兼任職員の法的根拠である地方自治関連法規の解説内容を踏まえると、兼任職員の特徴は、任命権者による兼任発令が行われていること、同じ地方公共団体での職務を兼ねる場合において給与を重ねて受けられないこと(地方公務員法第24条第3項)、条例で定める職員定数に欠員がなければ用いることができない手法であること(行政実例 昭和31(1956)年7月18日 地方自治庁)の3点にまとめられる。最後の特徴について、管見の限り、職員定数が未充足の地方公共団体は少なくないものの、とりわけ財政力が弱い傾向にある小規模の地方公共団体での定員充足率は低く、兼任が用いられやすい状況になっていることが推察される。 以上に見た先行研究の乏しさを反省し、公民館職員体制の数量的な分析・把握を通した実状理解が進められることが、地域ごとの社会教育条件整備のあるべき姿を考える基礎的作業として必要になっていると考えられる。 |
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(参考文献) ・金子善次郎編『総論・人事機関・任用・海外派遣』地方公務員制度第1巻、ぎょうせい、1991年 ・ぎょうせい編『行政百科大辞典』5巻,ぎょうせい、1975年 |
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2.社会教育調査を基にした公民館兼任職員の配置に関する分析結果 公民館において兼任職員がどのような要因に影響されて配置されているのかを調べるため、社会教育調査(平成30(2018)年度)の都道府県別データを基に、公民館の勤務形態別(専任、兼任、非常勤)の職員数の比率について公民館全体・本館・分館ごとに算出したものと、公民館数、1館当たりの平均職員数、可住地人口密度、財政力指数、域内市町村の公民館設置率、域内公民館数における複合施設の割合との相関係数を職種別(職員全体・館長・主事・その他職員)に算出した。なお、公民館類似施設は分析対象から除き、指定管理者によって管理されている公民館についても職員の勤務形態を調査していないために除いている。 職種別に分析したものの、職員全体の分析結果との共通項が多い結果となったため、ここでは職員全体の分析結果について記す(より詳しい内容については、井上伸良「公民館における兼任職員の現状と態様―『社会教育統計』と事例の検討を通して―」『日本生涯教育学会論集44』2023年を参照)。職員全体の分析結果から、専任職員の比率と1館当たりの平均職員数は正の相関が高く(r=0.5)、一方で非常勤職員の比率と1館当たりの平均職員数は負の相関(r=-0.31)が見られ、職員体制における都鄙格差(職員体制が「質・量」ともに充実した都市圏と、そうではない地方圏の2極化傾向)を確認する結果となった。また、兼任職員の相関係数は、専任職員や非常勤職員と比べ、おしなべて小さい傾向が見られたものの、専任職員および非常勤職員の分析結果から、兼任職員は1館当たりの平均職員数が小さい、可住地人口密度が低い、財政力指数が低いといった特徴を持つ地域(つまりは地方圏)において用いられる傾向が推察された。 都道府県別データを用いることでも兼任職員配置に関する傾向は把握できたものの、市町村別データに基づく分析を行うことで、市街地と郊外による配置傾向の違いについてより詳細な傾向を把握することが期待される。その際、兼任職員の比率が高い市町村を抽出した分析を行うことも有益と考えられる。 |
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(参考文献) ・井上伸良「公民館における兼任職員の現状と態様―『社会教育統計』と事例の検討を通して―」『日本生涯教育学会論集』44巻、2023年 |
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3.公民館兼任職員の態様・パターン:神奈川県を対象とした分析から 兼任職員は具体的にどのような職務を兼ねているのであろうか。その態様・パターンを知るために、神奈川県を事例として神奈川県公民館連絡協議会『市町村立公民館及び類似施設の設置状況の調査結果』(平成30(2018)年度)を基に、兼任職員が配置されている市町における兼任の態様について調べた。 神奈川県は33の市町村で構成されるが、上記調査結果(平成30(2018)年4月1日時点)によると、社会教育法第21条に基づく公民館を設置するのは20市町であり、そのうち兼任職員を配置しているのは10市町(相模原市、三浦市、藤沢市、大和市、南足柄市、葉山町、寒川町、松田町、箱根町、真鶴町)であった。この10市町について調べた結果、兼任の態様を次の3つに類型化することができた。 まず、同一複合施設内における兼任(地方自治法第180条の7による補助執行を含む)である。これは複合施設内で複数の施設種の職務を兼ねる形態である。この類型に該当した市町はいずれも首長部局に属する出先機関(役場支所、市民センター等)との複合施設であったが、首長部局と独立した意思決定を行う教育委員会が所管する機関の役割も同一人物が兼任することで、教育の中立性が損なわれることにならないかについては注意が必要だろう。 次に、教育委員会事務局職員との兼任である。役場職員が近接する公民館を兼務する形態である。これは、さまざまな許認可権限を持つ教育委員会事務局と教育機関の職を同一人物が兼ねることを意味するが、教育機関の自律的判断を損ねる可能性について注意が必要であろう。 最後に、別個に存在する複数の施設の兼任である。つまり、別個の敷地に設置された複数の施設の職員を同一人物が兼ねる形態である。この類型に該当した5市町のうち4市町は複数の公民館における兼任であったが、他種施設と兼任させる市も存在した。 神奈川県の例では公民館職員の兼任を3つに類型化できたが、他の都道府県を調査するなかで新たな類型が見いだされる可能性がある。また、神奈川県では、同一の公民館でも職種によって兼任の類型が異なるケースも存在した。公民館職員体制の実態を「見える化」するためにも、兼任の態様やそれぞれの職務に従事するエフォートに関する調査の蓄積・進展が期待される。 |
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