登録/更新年月日:2022年11月28日
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1.はじめに 1)研究の背景と目的 本研究は、国立歴史民俗博物館(以下、歴民博)がホームページ上に公開している博学連携の先行授業実践のうち、非来館型活用を行っている実践を分析し、コロナ禍における非来館型の博学連携の在り方について、具体的な授業モデルの開発を通じて提案するものである。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、来館型の博物館活用が困難になっている。そのため、「資料の貸し出し」や「博物館のホームページ上に公開されているコンテンツ」を活用した非来館型の博物館活用が求められている。 以上を受け本研究では、非来館型の先行授業実践の分析を行い、その課題と問題点を明らかにしたうえで、その克服を目指した博学連携授業モデルの開発と実践を行う。なお、本実践は、兵庫県芦屋市に所在するクラーク記念国際高等学校芦屋キャンパスにて行った。 2)先行授業実践の分析 本研究では、高等学校における博物館の非来館型活用の授業実践を取り上げ、先行授業実践の分析を行う。具体的には、歴民博のホームページ上に掲載されている高等学校における非来館型活用の実践を18例取り上げ、分析を行った。なお、非来館型の実践のみを対象としているため、来館型と非来館型を併用している実践は対象外として取り上げていない。 |
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2.先行授業実践の課題と克服を目指した授業モデルの開発 1)非来館型活用を行う際の課題 先行授業実践の分析を行った結果、次の2点が課題として浮き彫りになった。 ・博物館から貸し出された資料の活用を図る際、専門家の知見が組み込まれていないと読み取れる実践が散見される点である。分析対象とした指導案のうち、歴民博が所蔵している資料を活用しているものの、歴民博に所属している研究者のアドバイスを受けていないものが散見された(もちろん、指導案から読み取った情報にすぎないため、実際は、教材研究等の段階で研究者をはじめとした専門家の助言を受けていることも想定される)。 博物館を最大限活用するためには、資料の貸し出しを受けるだけでは不十分で、資料がもつ価値や文化財・文化遺産としての扱い方などについて専門家との連携や協議を重ね、授業開発を行うことが重要である。 ・「授業目的の達成」よりも「資料の活用」に重きを置いてしまっている実践が散見される点である。もちろん、はじめて触れる資料であれば、その資料の読み解き方や扱い方を学習する時間を十分にとることは必要である。また、資料を活用することは、授業に深みを持たせることに繋がり、生徒に興味関心をもたせることにも繋がる。しかし、ともすれば資料中心の授業進行になってしまい、その資料から情報を読み取ることに終始してしまう事例も少なくない。あくまでも、「単元目標や授業目標を達成するために、どのように資料が活用できるのか」という視点で、博物館資料の教材研究等を行う必要があると考えている。 2)課題の克服を目指した授業モデルの開発 先行授業実践がもつ課題を克服するために、「単元計画や授業計画の内容を踏まえた、ふさわしい資料の選定と活用」、「博物館のHPやサイトで公開されている資料の積極的活用」を組み込んだ授業モデルの開発を行った。本授業モデルでは、1855年の安政地震を契機に江戸市中に出回った「鯰絵」を中心に学習過程を構成した。実際の指導案は「鯰絵から時代の転換を理解する日本史探究授業開発−小単元「鯰絵から新しい時代の到来を読み解け」を事例に−」(『学校と歴博をつなぐ―令和元・2年度博学連携研究員会議実践報告書−』収録)にて紹介している。報告書に収録されている実践は、筆者が歴民博の博学連携研究員として、博物館スタッフや他の博学連携研究員の助言を受けながら、歴民博が所蔵する資料の活用を行ったものである。 |
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3.考察と今後の展望 1)本研究の成果 本研究の成果として、二点挙げることができる。 第一に、コロナ禍における博学連携が模索できた点である。本実践は、歴民博のホームページ上に公開されている「鯰絵」を活用しているため、学習者や教員は歴民博を訪れずに、教室において博物館資料を使った学習を行っている。「鯰絵」を読み解く学習では、生徒がもっているタブレットを活用することで、細部まで観察することが可能となった。 もちろん、博学連携研究員として、博物館で実施される会議や打ち合わせに参加することもあった。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大している時期は、オンラインでの会議や講義が実施されたため、事前打ち合わせから授業実践までの大部分をオンラインや博物館外で行ったことになる。博学連携は資料活用・学芸員の専門的知識の活用・非日常性など、様々な視点から「来館型活用>非来館型活用」と捉えられることが多い。一方で、「コロナ禍」「教員の多忙化」「教材研究の時間不足」を念頭において考えるときは、この“当たり前”にも疑問を投げかける必要があると感じている。 第二に、諸資料から情報を読み取り、多角的に考察し、社会情勢の理解を目指す学習を行うことができた点である。『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説−地理歴史編−』の日本史探 究の目標(1)においても、「諸資料から我が国の歴史に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする」ことが求められている。本実践でも、これを踏まえ、複数の鯰絵や諸資料から情報を読み取り、そこから、当時の民衆が政治をどのように見ていたのかを考察する学習過程 を組み込んだ。質問紙調査を実施していないため、資料活用の技能がどこまで向上したかは不透明 であるが、実践が進むにつれ、資料からより多くの情報を読み取る生徒を見て、ある程度の技能向上は図れたのではないかと考えている。単元目標や授業目標達成のために、資料活用を図ることで「資料を学ぶ授業」から脱却し、「資料から学ぶ授業」を目指すことができた。加えて、今回の実践において、資料の多角的な読み取りが可能となった背景には、博物館という信頼できる施設が良質な資料を、ホームページで公開しているという条件が整 ったことにも留意したい。 2)本研究の課題 課題として、時代の転換に関する学習が不十分であった点が挙げられる。本実践では、「鯰絵」 に着目し為政者・民衆の気持ちなどを読み取らせ、時代の転換までを理解することを目指した。しかし、 幕末の社会情勢や民衆の気持ちなどは、鯰絵や関連資料から生徒が主体となってある程度類推できたも のの、それ以降の歴史についての学習がおろそかになってしまった。また、事後学習に関しては、教員の講義型授業が中心になったこともあり、生徒が主体的に探究する場を設けることができなかったことも 課題として残った。 3)今後の展望 本研究では、歴民博がホームページ上に公開している博学連携の先行授業実践のうち、非来館型活用を行っている実践を分析し、コロナ禍における非来館型の博学連携の在り方について、具体的な授業モデルの開発を通じて提案してきた。 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各地の博物館ではホームページ上に資料紹介のYOUTUBE動画を公開するなど、非来館型の博物館活用を支援するツールやコンテンツが多数公開されている。今後は、このようなコンテンツの活用を図りつつ、非来館型の博物館活用モデルの開発や実践を行い、成果の蓄積を図っていくことが重要だと考えている。 |
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(参考文献) ・八田友和「鯰絵から時代の転換を理解する日本史探究授業開発−小単元「鯰絵から新しい時代の到来を読み解け」を事例に−」『学校と歴博をつなぐ―令和元・2年度博学連携研究員会議実践報告書−』 2021年、pp.33-43 ・八田友和「探究的な問い(Why)を組み込んだ博学連携授業モデルの開発―「問の性質」と「学芸員の専門性」に着目して」『博物館教育学研究』第2巻、2021年、pp.1-8 ほか |
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