登録/更新年月日:2020年8月30日
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1.日本における農耕文化への新たな試み 私はこれまで長年にわたり騒然とした都会の中で暮らしてきたが、退職後の新たな人生は、私の生まれ故郷である山梨の豊かな自然の中で過ごそうと決め、大菩薩山麓の懐に抱かれた海抜六百メートルの高原にある荒地を耕し、桃や葡萄などの果物を育て、僅かな野菜を栽培して、かれこれ二十年になろうとしている。この高原で行う農作業は、適度に行えば健康にも良いと思うのだが、自然の摂理はそう甘くはない。特に、真夏の炎天下での「雑草の除去」作業は、相当の体力と忍耐を要し、口では言えぬほどの苦労をしないと、食卓に供するような作物は生まれてこないことを、身をもって体験するとともに、私たちが生きるために摂取する全ての食物は、多くの人々の尊い汗の結晶であることの有難さを痛感している。 そもそも雑草とは、「広辞苑」によると、自然に生えるいろいろな草。また農耕地で目的の栽培植物以外に生える草。たくましい生命力のたとえに使うことがあると表記されており、その用例としては、「雑草が生い茂る」、「雑草のように育つ」と記されている。 かつて、私が上野にある国立科学博物館に勤務していた頃、ある植物学者の先生から聴いた雑草に関するエピソードに、とても感銘したことを覚えている。それは皇居内の庭園での出来事である。侍従の方が「雑草が生えておりましたので、その一部を刈り取っておきました。」と昭和天皇に奏上されたところ、陛下は直ちに「雑草として決めつけてしまうのは、よくない。」と申されたそうである。「この大地に生える草には、それぞれ草の名があり、人間の都合で一方的に雑草と決めつけてしまうことは慎むべきである。」という心のこもった温かいお言葉であり、戒めでもある。このことは、私のように今、農業に携わっている者にとっては、雑草を刈り取る農作業を苦役とせず、平常心で農作業に当たるための人生訓だと思い、心から感謝し日々を過ごしている。 |
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(参考文献) 新村出編 「広辞苑第6版」 岩波書店、2008 入江相政編 「宮中侍従物語」 角川文庫、1985 |
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2.大自然の恩恵を享受し生きる これまで私が青少年教育に取り組んできた中で、若者たちとのふれあいから自然について共感したことを、私なりの自然観として著述してきたものがいくつかあり、その一部を紹介してみたい。 私たちが暮らしている日本、そこには適度の寒暖の変化があり、四季の彩りがある。まさに自然界が織りなす「春・夏・秋・冬」の四幕のドラマである。その中で私たちは人生の主役を演じていることを改めて認識したい。 春には野山に花が咲き、鳥がさえずり、生きていることへの喜びを感じる。夏には、灼熱の太陽の下で身も心も歓喜する。秋には、山々の木々は色づき、森の生き物は蓄えに奔走する。それもひととき、来るべき厳しい冬に備えて、じっと息をひそめる。その静けさにも風情を感じる。冬には、吹きつける寒風にひたすら耐え、うららかな春の到来を待つ・・・・・。 古来、日本人の自然観は「花鳥風月」、「山川草木」という言葉で表現されているように、人と自然が深くかかわり暮らしの中に素晴らしい生活の文化を築いてきた。私たちはこういう小さな島国でありながら、豊かな自然と文化の薫り高い日本に生まれてきたことを喜ぶべきだと思う。 日本人ほど自然の「うつろい」に敏感で鋭い感受性を持っている民族は他にはいないと言われている。先人は日常生活の中に、茶の道、花を愛でる心、障子から入る穏やかな陽光、藺(い)草(ぐさ)の香りがもたらす畳の感触にやすらぎを感じるという、日本人が長年にわたり培ってきた「わび、さび」の世界を残してくれている。換言すれば、変化に富んだ気候や風土が日本人のきめ細やかな心情を育んでくれたと言えよう。 このように「春・夏・秋・冬」という四季のドラマは、日本の自然が私たちに与えてくれた貴重な贈りものである。人は皆、樹木の四季、葉のそよぎ、風の音にも静かに耳目を傾ける心のゆとりを持ちたいものだと考えており、その心を若者たちに伝えながら、これからも悔いのない素敵な人生の道程を歩み続けたいと思っている。 近年、地方創生事業政策の影響か、地方へ移住して農業に取り組もうという若者が増えていると聴き、心強く感じるとともに、これからの日本の将来に大きな期待をしているところである。 |
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(参考文献) 国立赤城青年の家「BLUE PLANET」、1996 |
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