生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2021年1月28日
 
 

青少年教育施設における職員の専門性と力量形成(せいしょうねんきょういくしせつにおけるしょくいんのせんもんせいとりきりょうけいせい)

the staff’s expertise and the process of their skill formation in youth education facilities
キーワード : 青少年教育施設職員 、専門性 、力量形成 、実践コミュニティ 、トラジェクトリ―
庄子佳吾(しょうじけいご)
 
 
 
  1.青少年教育施設をめぐる動向
 日本の青少年人口(30歳未満人口)は総人口の26.7%を占めている。自立した社会人となるための素養を養う時期である青少年期にあって、地域社会などでボランティア活動等に参加する青少年が増加している。一方で、近年、コミュニケーション能力の不足や雇用環境の変化等により、ひきこもりやニート・フリーターの数は減少傾向にあるものの依然高い水準になっている等、青少年をめぐる状況には様々な課題がある。こうした課題に関連して、「体験活動」が青少年に対して自己肯定感の向上、人間関係能力の構築、基本的生活習慣の形成、などに代表されるように一定の効果がある点については、既に多くの支持がなされている。したがって、これからの社会を担う青少年を健全に育成し、自立を促すためには、自然体験をはじめとした様々な体験活動の機会や場を提供することが必要不可欠であるといえよう。
 しかしながら、日本において、青少年をはじめとした学習者の体験活動を専門的に支援する青少年教育施設及びその専任職員数は文部科学省の「社会教育調査」によると減少の一路を辿っていることがわかる。具体的には、青少年教育施設の総数は891施設であり、調査以来過去最高の平成17年度と比較すると429施設減少、また、専任職員は1,781人であり、調査以来過去最高の昭和56年度と比較すると2,473人、直近の平成27年度と比較しても206人減少している(「資料1」表1参照)。その内、国立青少年教育施設の総数は28施設、専任職員は497人(2020年4月1日現在)である。青山(2008)は「こうした状況においては、施設の物的側面・人的側面・運営形態等のさまざまな側面で、従来の『施設』概念の修正が迫られるであろう」と課題を提起しており、青少年教育施設職員の専門性も改めて捉え返していく必要があると考えられる。
 
 


添付資料:資料1

 
 
 
  2.青少年教育施設職員研究の視座
 これまでの青少年教育施設職員の専門性に関する先行研究はその研究の枠組みから、(1) 青少年教育施設指導系職員の職務及び専門性(資質・能力)に関する研究、(2) 青少年教育施設職員の資質・能力向上のための研修に関する研究の二点に分類することができる。
 第一に、青少年教育施設指導系職員の職務及び専門性(資質・能力)に関する研究としては、日常どのような問題意識をもって事業の企画・運営及びその指導に携わっているか、また、どのような知識・技能を背景に青少年への専門的指導・施設運営に取り組んでいるのかについての基礎的な調査がなされてきた。
 第二に、青少年教育施設職員の資質・能力向上のための研修に関する研究では、青少年教育施設の現場において実践されている職員研修プログラムのデザインから効果の実証を試みた例があるものの、現実に青少年教育施設職員の資質や能力の向上につながっているかは課題として残されている。
 こうした一方で、松橋(2007)は「青少年教育施設職員の問題を検討する場合には、施設内外のスタッフとの関係を検討することが施設職員をめぐる問題の根本的な解決のために不可欠である」と指摘しており、従来の職員研究に対して再検討の視点を与えている。これを踏まえれば、特定の職員個人並びに職員集団だけが実践しているわけではなく、それらを支える施設内外における協同関係によって職員の力量形成は成立していることを考えていかなければならない。その際の要点となるのが、実践コミュニティにおける職員の専門性と力量形成過程の明確化といった課題である。このことの意味を確認しながら、体験活動を推進するための専門職の位置と役割を明確にし、青少年教育施設の現状と課題に迫っていくことが求められる。
 
  (参考文献)
・澁谷健治・谷井淳一「青少年教育施設指導系職員の指導態様と意識」『野外教育研究』2巻1号、1998、pp.1-11
・松橋義樹「青少年教育施設職員研究の視点」『国立青少年教育振興機構研究紀要』第7号、2007、pp.77-87
・レイヴ,J.,ウェンガー,E.著/佐伯胖訳『状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加』産業図書、1993
 
 
 
  3.青少年教育施設職員の専門性と力量形成
 日本の青少年教育施設の専任職員1,781人の内、497人(約28%)が所属する国立青少年教育施設を所管する独立行政法人国立青少年教育振興機構(以下、「機構」という。)では、独自の職員採用を行っており、所謂、プロパー職員が登用されている。
 筆者は機構に勤務する、およそ5〜10年程度の経験をもつプロパー職員7名(「資料2」表2参照)に対象に青少年教育施設の実践コミュニティにおける職員の力量形成とそれを支える条件を明らかにすることを目的とし、半構造化面接法によるインタビュー調査を行った。質問項目としては、以下の大まかな項目だてに沿ってインタビューしている。
 (1) 職業選択の理由と職員になってからのリアリティ・ショック
 (2) 青少年教育施設職員としてのやりがい
 (3) 自らの専門性についての理解
 (4) 青少年教育施設職員に求められる専門性について
 (5) 青少年教育施設職員として力量を高める上で重要だと思われること
 得られたデータから職員の力量形成とそれを支える条件や関係性の解明を試みた結果、青少年教育施設職員の専門性は、人、自然をはじめとした場所、資源など限られている中で、知識・技術を結びつけ、最大限利用することで、教育効果をその場で作り出していく (1) コーディネート能力=「コンセプチュアルスキル」を核として、利用者・職員と良好な信頼関係を築き、学習者の力を引き出すコミュケーション・ファシリテーション能力である (2) 対人関係能力=「ヒューマンスキル」、青少年教育・野外活動に関わる教育職・行政職としての専門的能力に対応し、一定以上の知識・技術を獲得することで、実践と管理を行う (3)マネジメント能力=「テクニカルスキル」の三つに類型化できることが明らかになった(「資料2」図2、3参照)。
 また、青少年教育施設職員の職業的アイデンティティと力量形成の過程は連動しており、学習の変化の軌跡であるトラジェクトリーに着目すると、実践の場において、学習者が自己実現に向けた学びのプロセスである「個人的なトラジェクトリー」と制度や指定規則、カリキュラムから学習者を変化させる「制度的なトラジェクトリー」に不均衡が生じていることを指摘することができた(「資料2」図1、4参照)。これは今後の研修等を構想する際にも援用できる知見となっていると考えられる。
 ただし、青少年教育施設職員の力量形成の問題を取り扱う上で、本事例において検証された事例は限定的であり、かつライフステージにおける発達段階を描ききることができなかったため、これらが今後に克服されるべき課題として挙げられる。
 
 


添付資料:資料2

 
  (参考文献)
・田中俊也「第7章『状況に埋め込まれた学習』」赤尾勝己編『生涯学習理論を学ぶ人のために』世界思想社、2004、pp.171-193
・楠見孝「暗黙知:経験による知恵とは何か」小口孝司・楠見孝・今井芳昭編『仕事のスキル:自分を活かし、職場を変える』北大路書房、2009
 
 
 
 
   



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