生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2019年1月5日
 
 

放課後子供教室の展開と課題(ほうかごこどもきょうしつのてんかいとかだい)

キーワード : 放課後子どもプラン 、放課後児童クラブ 、一体型 、文部科学省 、地域学校協働活動
宮村裕子(みやむらゆうこ)
 
 
 
  1.放課後子供教室の展開
 放課後子供教室は、文部科学省が所管する補助事業として2007(平成19)年度から実施された。放課後等に学校の余裕教室等を活用して、様々な地域住民の参画を得て、学習活動やスポーツ、文化活動、交流活動等を行うものである。
 従来、放課後を過ごすための公共の場としては、児童館や児童遊園のほか、共働き家庭の小学生向けのいわゆる学童保育(放課後児童クラブ)の存在が知られてきた。学童保育は、「適切な遊び及び生活の場」を与えて子どもの健全育成を図るもので、「放課後児童健全育成事業」として厚生労働省が所管している。
 他方で、学校・家庭・地域社会の相互の連携が重要な課題となり、文部科学省は、1999(平成11)年度から3年間で「全国子どもプラン」、2002(平成14)年度からは「新子どもプラン」を実施して、子どもたちの体験活動の充実を図ってきた。完全学校週5日制が導入されて学習指導要領で「生きる力」の育成が求められると、2004(平成16)年度から3年間で「地域子ども教室推進事業」を実施して、地域の教育力を活用した学校外での教育機能の充実を推進した。学校の余裕教室等を活用して子どもの居場所(活動拠点)を設け、地域住民の協力を得て様々な体験活動や遊び、スポーツ等を実施するものである。
 2007(平成19)年度には、文部科学省と厚生労働省の合意に基づいて「放課後子どもプラン」が創設された。子どもが巻き込まれる事件や治安の悪化に対する不安を背景として、全児童を対象とした地域社会における安全な居場所づくりの推進が目指された。「放課後子どもプラン」は、「地域子ども教室推進事業」を前身とする「放課後子ども教室推進事業」と「放課後児童健全育成事業」を「一体的あるいは連携して実施する総合的な放課後対策」であり、「放課後子ども教室」と「放課後児童クラブ」(学童保育)で構成される。
 この「放課後子ども教室」では、市町村教育委員会が主導して福祉部局と連携を図りつつ、運営委員会(行政・学校・放課後児童クラブ・社会教育・児童福祉・PTA等関係者、地域住民等で構成)において活動内容や運営方針を検討する。すべての小学校区に「コーディネーター」や「安全管理員」、「学習アドバイザー」等を配置して、地域の実情に応じた様々な活動機会が提供される。また、都道府県教育委員会に推進委員会(行政・学校・社会教育・児童福祉等関係者、学識経験者等で構成)を設置して、放課後対策の総合的なあり方の検討や研修等を実施するものである。
 こうして全児童を対象とする総合的な放課後対策が行われてきたが、2014(平成26)年度には文部科学省と厚生労働省の合意に基づく「放課後子ども総合プラン」が策定された。待機児童の解消に加えて就学後の児童が安全・安心な放課後を過ごせるよう、「小1の壁」打破のための環境整備が目指され、放課後児童クラブの受皿の拡大や、一体型の放課後児童クラブ及び放課後子供教室を1万か所以上で実施するという数値目票が盛り込まれた。
 他方で、2015(平成27)年12月の中央教育審議会答申で「地域学校協働活動」の推進が提言され、放課後子供教室等の従来の活動がその基盤となることが示された。こうした教育施策の動向や女性就業率の上昇を踏まえつつ、放課後児童対策をさらに推進させるため、文部科学省と厚生労働省は2018(平成30)年度に「新・放課後子ども総合プラン」を策定し、2023年度までの数値目標を示している。
 
  (参考文献)
・「放課後子供教室」、学校と地域でつくる学びの未来、http://manabi-mirai.mext.go.jp/、2018(平成30)年12月28日閲覧。
・中央教育審議会「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(答申)」、2015(平成27)年12月21日。
 
 
 
  2.放課後子供教室の課題
 放課後子供教室は、文部科学省と厚生労働省が進めるプランの下で実施されており、2017(平成29)年度は全国で1万7,615教室が開設されている(文部科学白書2017)。次世代の育成に向けて安全・安心で豊かな放課後の居場所を提供するねらいがあるが、様々な課題もある。
 例えば、実施主体は市町村であるため、各地域の実情や人的・物的・財政的資源によって活動内容や実施体制が左右される。地域によってはNPOや企業等の民間事業者が放課後事業に参入しているところもあるが、多くの場合は地域住民等のボランティア活動に支えられており、多様な活動プログラムを継続的に実施するための人材確保は大きな課題である。年間開設日数や指導者資格等の基準はないため、地域人材の実情が活動内容に影響を与え、実施日程やプログラムが左右されることもある。縦割りが指摘される行政内での連携や、行政と学校との連携、地域学校協働活動を担う地域人材と学校や保護者との連携上の課題もある。継続的な活動の実現に向けて、地域の当事者がいかにして互いの知恵や経験をもとに連携・協力し、役割を分担していくのかが大切である。
 また、放課後子供教室は全児童を対象としているが、保護者の就労事情や塾・けいこごと、特別な支援を要する等の子どもの状況によって、参加のしやすさに差異が生じてくる。放課後子供教室は放課後児童クラブと「一体的あるいは連携して」行うことが当初から求められ、特に「放課後子ども総合プラン」以降は、「一体型」(同一小学校内で両事業を実施し、全児童が参加できる共通プログラムを実施)の取り組みが推進されているが、その難しさは依然として指摘されている。
 文部科学省と厚生労働省の調査によれば、2016(平成28)年時点の全市町村数に占める実施率は、放課後児童クラブが91.1%(1,586市町村)であるのに対して、放課後子供教室は61.8%(1,076市町村)である。同一小学校内で両事業を実施しているのは20.4%(356市町村)、うち共通プログラムを実施しているのは12.0%(209市町村)に留まる。一体化に向けた課題として、「人材の確保が困難」を筆頭に、「余裕教室等がない」「施設・設備等が十分でない」「調整に時間を要する」等が挙げられている。多様な共通プログラムを実現するためにも、まずは子どもたちが安心して過ごせる場所の確保が必要である。「一体型」においても、学校の余裕教室等に放課後児童クラブの専用スペースを確保したうえで、別に放課後子供教室のスペースを設けて、活動目的に応じて子どもが行き来するような形がモデルケースとして紹介されている。
 放課後子供教室には、子どもの最善の利益の保障をめざす「放課後児童対策」としての側面と、地域の教育力の向上や地域の創生をめざす「地域学校協働活動」としての側面がある。とりわけ放課後児童クラブの着実な整備の必要性との関係で、一体化をめぐって議論が生じることが多い。受け皿としての「量」の拡大だけでなく、放課後子供教室の活動の「質」を確保することも求められる。また、学校施設を活用して行われることで、本来多様であるべき放課後の過ごし方が「放課後の学校化」につながると捉える向きもある。児童館や社会教育施設、社会福祉施設、民間事業所等、地域における様々な取り組みとも有機的に関連付けるとともに、市町村の地域の実情に応じた官民連携のもとで、望ましい放課後のあり方を検討することが求められる。
 
  (参考文献)
・文部科学省『平成29年度 文部科学白書』、p.134。
・厚生労働省「社会保障審議会児童部会放課後児童対策に関する専門委員会報告書」、2018(平成30)年7月27日公表、https://www.mhlw.go.jp、2018(平成30)年12月28日閲覧。
・厚生労働省「『放課後子ども総合プラン』に関する全国地方自治体担当者会議資料」、2014(平成26)年8月11日開催、https://www.mhlw.go.jp、2018(平成30)年12月28日閲覧。
・「第3期教育振興基本計画」、2018(平成30)年6月15日閣議決定。
 
 
 
 
   



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