生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018年11月25日
 
 

マルチステークホルダーの連携・協働 ―新潟市アグリパークにおける実践―(まるちすてーくほるだーのれんけい・きょうどう ―にいがたしあぐりぱーくにおけるじっせん―)

キーワード : マルチステークホルダー・プロセス 、アグリ・スタディ・プログラム 、定例会 、目的の共有 、役割の明確化
真柄正幸(まがらまさゆき)
 
 
 
  1.新潟市アグリパークにおけるマルチステークホルダー
 平成20(2008)年6月の内閣府国民生活局企画課「マルチステークホルダー・プロセスの定義と類型」において、マルチステークホルダー・プロセスは、「平等代表性を有する3主体以上のステークホルダー間における意思決定、合意形成、もしくはそれに準ずる意思疎通のプロセス」と定義されている。その中で、ステークホルダーの平等代表性については、「マルチステークホルダー・プロセスにおけるあらゆるコミュニケーションにおいて、各ステークホルダーが平等に参加し、自らの意見を平等に表明できるということであり、また、相互に平等に説明責任を負うということ」、意思決定、合意形成、もしくはそれに準ずる意思疎通については、「政策決定から共通認識の形成、実践的な取り組み実施に向けての合意、ステークホルダー間のパートナーシップやネットワーク形成に至るまでを幅広く含むもの」とそれぞれ示されている。ステークホルダーは、日本語では一般的に「利害関係者」と訳されている。
 ここでは、新潟市アグリパーク(以下、「アグリパーク」という。)における新潟市農林水産部・新潟市教育委員会・指定管理者の三者による連携・協働を取り上げる。
 アグリパークは、平成26(2014)年6月に新潟市が設置し、指定管理者が運営している施設である。設置目的は、「農業体験学習(以下、「体験学習」という。)を通して、農業に対する理解を深め、郷土愛を育む」・「生産者等に技術的支援を行い、農業の振興を図る」である。アグリパークでは、設置目的を達成するために「教育ファーム」・「6次産業化支援」・「就農支援」の三つの事業を展開している。
 三つの事業の一つである教育ファーム事業は、「日本初の公立教育ファーム」・「学習指導要領に基づいて作成した体験学習プログラム」などの特徴がある。アグリパークの体験学習は、全て学校の授業として行われている。そのため、新潟市では体験学習プログラムである「アグリ・スタディ・プログラム(以下、「ASP」という。)」を作成している。ASPは、「幼稚園・保育園編」・「小学校編」・「中学校・中等教育学校編」・「特別支援学校編」・「適応指導教室編」で構成されている。70の主要プログラムがあり、プログラムごとに「活動の流れ」・「学習指導要領の内容」・「次学年以降の関連学習」・「単元計画例」・「本時のねらいと展開例」・「体験学習の評価例」が示されている。ASPの実践では、「五感で学ぶ」・「アグリ魂で学ぶ」・「働くことで学ぶ」・「専門家に学ぶ」を大切にしている。
 三者による連携・協働は、開園前のASP作成段階から始まった。ASPの試行を指定管理者がパイロット校で行い、三者で協議して修正を加えた。また、学校の申込み・受付や体験料、施設・設備などについて、定例会を設けて協議を行った。
 開園して4年を経過し、連携・協働を通じた成果と課題が明らかになるとともに、今後の社会教育行政の方向性についてもヒントを得ることができた。
 
  (参考文献)
・内閣府国民生活局企画課「マルチステークホルダー・プロセスの定義と類型」平成20(2008)年、www5.cao.go.jp/npc/sustainability/research/files/2008msp.pdf
 
 
 
  2.農林水産部・教育委員会・指定管理者による連携・協働
 農林水産部・教育委員会・指定管理者の三者による連携・協働を推進するためには、それぞれが平等に意見を表明でき、意思決定や合意形成ができるための場が必要である。新潟市においては、「定例会」がその役割を果たした。
1)定例会
 ASP作成段階及び開園準備期には月2回程度の定例会を開催し、三者で「ASPの内容検討」・「学校への周知及び申込み受付期間・受付方法」・「体験料の検討」・「学校受入のための施設・設備」等について協議を行った。
 開園後は月1回程度開催し、ASP運用上の課題について協議を行った。
 開園した次年度からは、アグリパークに現職の管理職がアグリ・スタディ指導主事として配置されたため、指導主事が定例会に出席している。アグリパークにおける指定管理者としての課題は、指導主事を通じて協議をしてもらっている。なお、緊急課題や重要事項がある場合は、随時、指定管理者が出向いて三者で協議を行うことにしている。
2)三者の役割
【農林水産部】
 農林水産部は、アグリパークの設置及び施設整備を担当し、管理運営を行う指定管理者の窓口となっている。また、利用する学校に対する財政的支援を行っている。
 支援の内容は、学校がASPでアグリパークを利用する際、「引率者を含めた宿泊費の全額負担」、「学校からアグリパークまでの交通費として、各学年1学級当たり1回3万円を上限として年3回まで助成」、「専門家及び補助者に対する謝金」、「アグリ・スタディ指導主事の配置予算」である。
【教育委員会】
 教育委員会は、配置されている指導主事とともに、ASPの作成・改善及び学校への周知・指導を行っている。
 支援の内容は、教育委員会主催でアグリパークを会場にして、全小・中・特別支援学校から必ず1名が出席する「教員体験学習研修」、宿泊予定校の教員及び希望する教員を対象とした「教員体験学習宿泊研修」、小・中学校に分かれて全学校から必ず1名が出席する「成果発表会・次年度利用説明会」、新潟市の新採用教員を対象とした「初任者研修」を実施している。
【指定管理者】
 指定管理者は、アグリパークで行うASPを担当し、授業のねらいが達成できるように支援を行っている。そのために、「来園前に学校と事前打合せを行い、授業のねらいの共有」、「安心して体験学習ができるように、アレルギーのある子どもに関する情報の共有」等に努めている。
 
 
 
  3.連携・協働の成果と課題
 アグリパークでの三者による連携・協働の成果と課題をまとめてみる。
【成果】
 第1は、「目的の共有」である。指定管理者は、「アグリパーク設置条例」や「アグリパークの管理・運営に係る基本協定書」・「指定管理業務特記仕様書」に基づいて運営している。三者間で協議を行うことにより、条例や基本協定書の設置目的や管理・運営の基本方針についての情報共有が図られている。また、ASPの作成趣旨についても共通理解が図られている。連携・協働により三者間で目的の共有が図られ、アグリパークにおいて効果的な運営ができている。
 第2は、「役割の明確化」である。三者間で協議を行うことにより、それぞれの役割が明確になっている。また、それぞれのノウハウを活かした取組が行われている。具体的には、農林水産部は設置者として指定管理者との調整を行うとともに、財政的支援を担っている。教育委員会は、ASPの作成・管理を行うとともに、学校への周知及びASP理解の役割を担っている。指定管理者は、設置目的を具現化するために、民間的な発想を活かしてASPを実践している。
 第3は、「課題の早期解決」である。連携・協働により、課題が共有でき、課題の早期解決が図られている。また、ASP運用上の課題を三者間で協議を行うことにより、課題の解決をどの部署が担当するかが明らかになる。課題によっては、三者が互いに役割を分担し、協力して解決する場合もある。連携・協働が深まることにより、課題の早期解決が図られるようになっている。
【課題】
 第1は、「継続性」である。担当者が交替した場合、それまで積み上げてきた事項を一から確認し合う必要がある。連携・協働には、定例会などの体制作りとともに、協議した内容をまとめた資料を三者で共有することが重要である。そのためには、協議内容資料を整理・保管しておく必要がある。また、三者がそれぞれに引継ぎを確実に行い、これまでの協議内容をきちんと理解しておく必要がある。これにより継続的な連携・協働が推進できると考える。
 第2は、「創造性」である。三者が設置目的を具現化するために、常に創造性を持ち、前向きな取り組み姿勢を失わないことが大切である。指定管理者として2期目がスタートした今こそ、運用がマンネリ化にならないように三者が創造性を持ち続ける必要があると考える。
【社会教育行政における新たな視点】
 三者での目的の共有を基にして、農林水産部の予算と指定管理者の民間的発想で、学校教育の充実が図られている。このことは、予算が削減されている社会教育行政において大いに参考となる。今後の社会教育行政は、目的が共有できる首長部局や民間企業等に対して積極的に事業提案を行って予算を確保し、社会教育事業の充実を図ってほしい。
 
 
 
 
   



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