生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018年12月24日
 
 

総合的な学習の時間における防災教育(そうごうてきながくしゅうのじかんにおけるぼうさいきょういく)

キーワード : 総合的な学習の時間 、総合的な探究の時間 、防災教育 、学校安全
藤原靖浩(ふじわらやすひろ)
 
 
 
  1.防災教育について
  学校における防災教育は、学校安全の一部に位置付けられており、学校保健、学校給食と並ぶ学校健康教育の一領域である。「安全教育」と「安全管理」という2つの側面からなる。安全教育は、安全に関する基礎的・基本的事項を系統的に理解し、思考力、判断力を高めることによって安全について適切な意志決定ができるようにすることを目指す教育活動であり、保健体育科、特別の教科道徳、総合的な学習の時間、特別活動などさまざまな領域や教科などにおいて学校種の枠を超えて行われるものに位置づけられている。また、防災教育のねらいは、安全教育の目標に準じて、次の3つにまとめられている。
(1)自然災害等の現状、原因及び減災等について理解を深め、現在及び将来に直面する災害に対して、的確な思考・判断に基づく適切な意志決定や行動選択ができるようにする。
(2)地震、台風の発生等に伴う危険を理解・予測し、自らの安全を確保するための行動ができるようにするとともに、日常的な備えができるようにする。
(3)自他の生命を尊重し、安全で安心な社会づくりの重要性を認識して、学校、家庭及び地域社会の安全活動に進んで参加・協力し、貢献できるようにする。
 2011(平成23)年の東日本大震災以降も、日本は多くの自然災害に襲われた。特に、2018(平成30)年は大阪北部地震、北海道胆振東部地震という2つの地震に加えて、台風20号、21号、24号という大型の台風が日本列島に上陸し、大きな被害をもたらした。阪神・淡路大震災の年を「ボランティア元年」とすれば、2018(平成30)年はまさに「災害元年」とも呼ぶことのできる年である。これまでにも学校では防災マニュアルの作成や実践的な訓練を目指した防災教育に取り組んできた。しかしながら、想定を上回る自然災害、火事、交通事故、不審者の侵入等、これまでの防災教育では対処しきれない多様な事例に対処することが期待されている。未曾有の災害が生じる可能性がある現在だからこそ自然災害という基礎的な防災教育を徹底し、生徒をどのように守るかについて考えなければならないのである。 
 
  (参考文献)
・文部科学省『学校安全参考資料「生きる力」をはぐくむ学校での安全教育』、2010年
 
 
 
  2.総合的な学習の時間における防災教育
 教科外活動に位置づけられている総合的な学習の時間では、固有の見方・考え方を働かせて、横断的・総合的な「探究」の学習を行うことを通して、生徒たちが自ら設定した課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目指している。
 総合的な学習の時間では、各学校で目標を定め、その実現を目指さなければならない。目標を実現するためにふさわしい探究の課題は、学校の実態に応じて、国際理解、情報、環境、福祉・健康等の現代的な諸課題に対応したものを地域や学校の特徴、生徒の興味・関心、職業や自己の将来、育てたい資質・能力等に応じて設定しなければならない。
 現在も各学校では、さまざまな防災教育が実践されている。文部科学省『学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開』では、幼稚園から高等学校まで多様な防災教育の展開例が示されており、「オリジナル防災マップをつくろう」「わたしたちのくらしと火山」「わたしたちの地域の自然災害」などが挙げられ、自然災害に対する防災対策を理解し、自分ができる防災対策を考えることを目指している。これらの展開例からも分かるように、防災教育は、理科や社会科など特定の教科だけで取り扱うものではなく、防災という大きな課題に対して、各教科で身に付けた知識や技術を関連させ、生活の中で生かしていくことが重要である。だからこそ、教科横断的な学習活動を行う「総合的な学習の時間」で防災教育を軸にした活動を行うことには大きな意義がある。
 現在のところ総合的な学習の時間で防災教育を行うための課題は山積している。生徒だけでなく多くの人は、防災教育の必要性に気付いていない、もしくは必要性に対する意識がそれほど高くない状態になっており、実際に防災教育に積極的に取り組んでいる人は一部に限られている。学校でも業務の多忙化等から教師に高い防災への意識を期待することは難しくなっている。継続的に防災教育の仕組みを構築する体制も今後充実させてゆく必要があるだろう。さらに、これまでの防災教育の事例は特定の学校や地域で実施されるに留まっており、普遍的な活動の体系化が難しくなっている。これを改善するためには、学校において防災教育に熱心に取り組む教師を育成し、学校と地域のネットワークの構築や、小学校と中学校、高等学校等の学校間の連携等も必要になる。
 
  (参考文献)
・文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編』、2018年
・文部科学省『学校防災のための参考資料 「生きる力」を育む防災教育の展開』、2013年
 
 
 
 
   



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