生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2019年1月5日
 
 

社会教育施設への指定管理者制度の導入(しゃかいきょういくしせつへのしていかんりしゃせいどのどうにゅう)

キーワード : 指定管理 、可能性 、市民参画 、専門性 、ミッション
藤本隆(ふじもとたかし)
 
 
 
  1.指定管理者制度の持つ問題点と可能性
 指定管理者制度の導入が全国的に進んだ2006(平成18)年前後より、指定管理者制度の持つ問題点や可能性は、多面的な側面から議論されてきた。
 まず、制度導入について先行研究の多くは、公共施設の運営コストの圧縮や官製のサービス向上を図ることはできたものの、制度導入後は人件費も下がり、スタッフは契約職員など非正規雇用となり、専門性の担保に問題が生じているとの評価が多くを占めている。
 また、指定管理者の募集にあたっては、2003(平成15)年に総務省自治行政局長から出された通知文をそのままベースにしたような募集要項を作成し、指定管理者を募集している自治体が未だ少なくない。すなわち、通知文の「2 条例で規定すべき事項」の「(1)指定管理者の指定の手続」にある、「ア 住民の平等利用が確保されること。 イ 施設の効用を最大限に発揮するとともに管理経費の縮減が図られるものであること。 ウ 管理を安定して行う物的能力、人的能力を有していること。」というくだりに沿った募集要項が多く見受けられる。
 この状況は、裏を返せば、施設のミッション(設置目的)が明確になっていないということを示しており、結果的に、運営コストの多寡や自治体側が指定管理者として使いやすい団体か否かで、指定管理者が決められてしまいかねない状況につながっている。
 さらに、指定管理者へのヒアリング調査からは、「制度導入後、施設の管理運営業務が指定管理者に丸投げされ、将来、現場のことがわかる職員がいなくなってしまうのではないか」という懸念が指摘されている。自治体と指定管理者との役割分担も不明確なまま、施設運営のほぼ全てを指定管理者に委ね、合理化を図れる制度が指定管理者制度であるかのような誤った理解が、一部の自治体にないであろうか。このような自治体では、今後、適切な仕様書を作成したり、指定管理者の評価、妥当な指定管理料の積算もできなくなる恐れが存在する。
 一方、制度の持つ可能性については、例えば、新川達郎は、指定管理者制度のもう一つの側面として、「従来の公共部門のあり方をNPOあるいは地域住民団体や企業などの民間部門との協働によって組み替え、『新しい公共』あるいは『新たなる公』と呼ばれる地域社会の担い手の再構築を探る動き」、すなわち「新しい地域ガバナンスの模索」という可能性を示した。そして、「行政サービスが住民自治の領域や市場の領域を侵害」するのではなく、自治体、地域社会の構成員である住民や事業者それぞれの役割を問い直し、地域社会における公共サービスの提供について、地域住民の手によって再構築される可能性に言及している。
 この可能性は、どこまで追及されたであろうか。
 
  (参考文献)
・中川幾郎・松本茂章編『指定管理者は今どうなっているか』水曜社,2007
・新川達郎「地域ガバナンスから見た指定管理者制度へのアプローチ」『ガバナンス』2005年4月号、ぎょうせい、2005
 
 
 
  3.施設のミッション(設置目的)と今後の制度改善に向けて
(1) 施設のミッション(設置目的)について
 指定管理者制度導入の前提条件として、自治体において
・政策目標を達成するため、社会教育施設の配置や運営計画は存在しているか。
・政策目標間の優先順位、他の機関、部局、住民や企業やNPO等との役割分担は考えられているか。
・社会教育施設のミッションは、地域住民にどの程度理解されているのか?
・そもそも、現在の施設の設置・運営計画はどのように策定され、更新されてきたのか。
といった社会教育施設のミッション(設置目的)が明らかでなくてはならない。
 自治体として施設毎に求める目標が明らかでなければ、指定管理者の申請書の妥当性を判断し、指定管理者を選定することも、事業評価も困難である。
 施設のミッション(設置目的)の不在ともいえる状況の背景に、日本の多くの公共施設が建てられた時代は、公共施設の設置目的の検討や施設の設計への市民参画が一般的ではなく、有識者と行政の担当部局を中心として検討・設計作業が行われたり、隣接市町村の公共施設建設の動きに乗り遅れまいと、施設のミッションや設計など一切を外部に委ねた施設が多かったことも影響していよう。
 施設設置後、年月が経過し、その施設のミッションが時代や社会の変化に応じて見直されることもなければ、自治体内部や住民との間で、その施設の設置目的を十分に共有することはできないであろう。そんな中で指定管理者制度の導入を行えば、施設の運営コストや収益性に関心が集中する一方で、それぞれの施設が本来果たすべき設置目的の達成について明示された指定管理者募集要項に則って申請書が提出され、選定され、評価を受けることは期待できない。このような状況を改善するためには、どうすればいいであろうか。
 今後、多くの自治体では、建設後、年月を経た社会教育施設の建替え、人口減少等にともなう施設配置の見直しといった時期を迎える。そのタイミングこそ、施設のミッション(設置目的)の見直しの機会とできる可能性がある。
(2) 今後の制度改善に向けて
 指定管理者にNPOや企業を選定しても、予算負担以外の責務が自治体から消えるわけではない。指定管理者制度導入により、施設運営コストや人員の削減が進めることだけが、制度導入の目的ではなかろう。
 指定管理者制度の可能性に着目すれば、住民や事業者、行政の役割を問い直し、全てを自治体のみ、あるいは指定管理者となった企業やNPOのみでやりきるのではなく、それぞれが必要な役割を果たす水平的な分業の場こそが求められているはずである。
 地方分権が進んだ今、それぞれの自治体が、社会教育施設の設置目的・機能、事業内容、施設の管理運営団体が備えるべき能力・体制などの仕様などを検討する政策形成能力が問われる時代になった。一方で、担当部局の人員、経験、能力は、行政改革の結果、却って弱体化した現状がある。
 ここに、自治体間の水平的連携組織、例えば、都道府県内の中核的施設や地域の大学等が中心となり、都道府県等の単位で情報交換・相談・研究のためのしくみがあれば、かなり現状は改善されよう。
 
  (参考文献)
・中川幾郎『分権時代の自治体文化政策』勁草書房、2001
・小林真理編『指定管理者制度 文化的公共性を支えるのは誰か』時事通信社、2006
 
 
 
 
   



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