生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018年12月9日
 
 

学校と博物館の連携−博物館の設置者の観点から−(がっこうとはくぶつかんのれんけい−はくぶつかんのせっちしゃのかんてんから−)

キーワード : 学習指導要領 、法人博物館 、自治体博物館 、アウトリーチ・プログラム 、高校生
林幸克(はやしゆきよし)
 
 
 
  1.教育法令等における位置づけ
 中央教育審議会答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(2015(平成27)年)において、「チームとしての学校」が関係機関・団体と連携・協働して教育の充実化を図ることが示された。また、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」(2016(平成28)年)や中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(2016(平成28)年)でも社会教育施設との連携が示された。また、生徒指導提要(2010(平成22)年)にも、学校における社会教育施設・機関の積極的な活用・連携の重要性が明文化されている。
 学校と社会教育施設の連携に関しては、最近の中央教育審議会答申等も含めて、従前からその必要性が示されてきた。その一端として、学習指導要領を確認すると、1947(昭和22)年版学習指導要領(試案)から、小学校・中学校での活用が示されていた。高等学校では、1999(平成11)年版学習指導要領から言及されるようになった。内容としては、総則(部活動との関連)、各教科(社会・地理歴史、理科、図画工作・芸術・音楽・美術)、総合的な学習の時間、特別活動における活用が主たるものとなっている。さらに、2017(平成29)年版小学校学習指導要領、2017(平成29)年版中学校学習指導要領、2018(平成30)年版高等学校学習指導要領においても、総則、社会、理科、総合的な学習の時間、特別活動の中で社会教育施設への言及があり、連携を重視する姿勢は今日まで一貫しているといえる。
 一括りに社会教育施設といっても、様々な施設がある。教育基本法第12条には、「国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない」とあり、社会教育法第9条では、「図書館及び博物館は、社会教育のための機関とする」と記述されている。1947(昭和22)年版学習指導要領(試案)の中の「植物園」「動物園」、1989(平成元)年版学習指導要領における「郷土資料館」は、博物館に該当するものであり、学校との連携に関して、他の社会教育施設(公民館や図書館など)より先んじている。そのためか、学校との連携に関して、博物館に関してのみ博学連携という概念がある。公民館や図書館には、これに相当する概念はない。
 学校との連携に関して、博物館法第3条に、「学校、図書館、研究所、公民館等の教育、学術又は文化に関する諸施設と協力し、その活動を援助すること」とされている。また、文部科学省「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」(2011(平成23)年)第11条では、「博物館は、事業を実施するに当たっては、学校、当該博物館と異なる種類の博物館資料を所蔵する博物館等の他の博物館、公民館、図書館等の社会教育施設その他これらに類する施設、社会教育関係団体、関係行政機関、社会教育に関する事業を行う法人、民間事業者等との緊密な連携、協力に努めるものとする」とされており、学校との連携が謳われている。
 
  (参考文献)
・林幸克「高校教育における社会教育施設の活用に関する実証的研究−博学連携に着目した考察−」明治大学人文科学研究所紀要第82冊、2018年
 
 
 
  2.アウトリーチ・プログラムと主催事業
1)調査方法・内容
 2015(平成27)年6月から9月にかけて郵送法による質問紙調査を実施した。調査対象は、『全国博物館総覧』に掲載されている登録博物館・博物館相当施設1194施設で、725施設から回答があった。その内、設置者に関して、法人博物館241施設、自治体博物館453施設の回答を分析対象とした。主な調査内容は、アウトリーチ・プログラムについて連携した学校とその内容、主催事業について参加した学校とその内容及び広報等の現状、高等学校の利用状況などについて、2014(平成26)年度実績で回答を求めた。
2)アウトリーチ・プログラムについて
  「出前授業・出張講座」(9.0ポイント差)、「実物資料・史料の貸出」(6.0ポイント差)、「複製資料・史料の貸出」(3.0ポイント差)、「学習キットの貸出」(2.8ポイント差)で、「自治体博物館」の回答が「法人博物館」よりも多く、有意差が認められた。「出前授業・出張講座」という博物館の人的資源の活用で最も大きな開きがあったが、それ以外の博物館の物的資源の活用について、「自治体博物館」の方が連携している割合が多いことが特徴的であった。なお、小学校ではすべての活動内容で「自治体博物館」の方が多く、中学校では「ワークショップ」を除く5つで「自治体博物館」の方が多く、有意差があり、高等学校のような傾向はなかった。
3)主催事業について
 「学級・講座」(5.6ポイント差)、「映写会」(2.2ポイント差)で、「自治体博物館」の回答が「法人博物館」よりも多く、有意差が認められた。小学校と中学校も同様で、「学級・講座」と「映写会」で「自治体博物館」の方が有意に高かった。総じて、「学級・講座」を中心に参加があり、「自治体博物館」の主催事業の方が、参加が多いことが示された。その一方で、「自治体博物館」として、諸資源が潤沢ではない点で苦慮している側面もみえてきた。
 高校生対象の主催事業に関して、「自治体博物館」の方が12.8ポイント高く、有意差があった。小学生・中学生対象の主催事業でも同様の結果であったが、「自治体博物館」と「法人博物館」の差が、小学生対象32.7ポイント、中学生対象22.8ポイントで比較的大きかった。高等学校への主催事業の広報に関して、「自治体博物館」の方が22.2ポイント高く、有意差が認められた。小学校・中学校への主催事業の広報でも同様の結果であったが、「自治体博物館」と「法人博物館」の差が、小学校39.6ポイント、中学校26.3ポイントで比較的開きが大きかった。
 
 
 
  3.高等学校と博物館の連携
1)高等学校の利用状況
 高等学校の利用状況について、学校から博物館への事前相談の有無、学校の利用実績の有無、学校に対する博物館からの支援実績の有無、学校から博物館に対する成果報告の有無、この4つの観点から聞いた。
  「修学旅行(本番)」「地理・歴史に関する学習」「芸術に関する学習」の3項目に関しては、事前相談、利用実績、支援実績、成果報告とも、「法人博物館」と「自治体博物館」で有意差は認められなかった。これらの活動は、比較的利用実績が高いものの、連携状況について設置者による差異はなかった。その一方で、「インターンシップ」「野外活動(観察会等も含む)」「郷土に関する学習」の3項目については、4段階すべてで、「自治体博物館」の方が多く、有意な差があった。また、成果報告で有意差があったのは、この3項目だけであった。これらの活動は、単発のイベント的な活動ではなく、継続的な支援が必要な活動であり、事前の相談段階から事後の成果報告の段階まで、一貫して「自治体博物館」による連携が進んでいた。「活動の発表会」「遠足・社会見学」「理科に関する学習」は事前相談で「自治体博物館」の方が多く、有意差がある点が共通していた。いずれも、活動当日にその場で対応できる性質の活動ではなく、事前相談が重要になるが、「自治体博物館」はその面での連携が特に進んでいた。「部活動の発表会」と類似した活動に「部活動の練習・日常活動」があるが、これは日常性のある活動であり、事前相談よりも支援実績でより連携していた。「遠足・社会見学」と「修学旅行(本番)」は旅行・集団宿泊的行事という点で共通しているが、「遠足・社会見学」は比較的近隣の学校の利用が多く、「修学旅行(本番)」は遠方の学校の利用が多いため、「自治体博物館」の方が「遠足・社会見学」で連携しやすく、遠方の学校対応については設置者による差異はなかった。「理科に関する学習」と「地理・歴史に関する学習」も類似しているが、「自治体博物館」に総合博物館・科学博物館が比較的多かったため、それが連携状況に反映された。
2)高校生のボランティア活動
 博物館において高校生が取り組んだボランティア活動について聞いたところ、「各種講座等教育普及事業の補助・企画」(11.4ポイント差)、「入場者整理・案内」(3.9ポイント差)で「自治体博物館」の方が多く、有意差が認められた。「法人博物館」よりも「自治体博物館」の方が、全般的に開きが大きくなっており、「展示ガイド」や「各種講座等教育普及事業の補助・企画」は、「法人博物館」が10ポイント前後の差であるのに対して、「自治体博物館」は25ポイント以上の開きがあった。高校生が「自治体博物館」で専門性の求められるボランティア活動に取り組むことは、成人一般の場合と比べて容易ではない。学術的なことではなく、高校生という発達段階で無理なくできる活動に取り組むことが第一歩であると推察された。
 
 
 
 
   



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