生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018年10月20日
 
 

博物館の教育(はくぶつかんのきょういく)

キーワード : 社会教育法 、博物館法 、オリエンテーション 、ワークショップ 、博物館実習
八田友和(はったともかず)
 
 
 
  1.定義と関連法令
 本稿では、博物館の教育を「博物館(学芸員含)が行う教育普及活動であり、実施場所は博物館内外を問わない」と定義する。
 社会教育法第9条(図書館および博物館)に「図書館及び博物館は、社会教育のための機関とする」とあり、博物館は教育を行う機関であるといえる。また、博物館法第3条(博物館の事業)には、「十一 学校、図書館、研究所、公民館等の教育、学術又は文化に関する諸施設と協力し、その活動を援助すること。」「2博物館は、その事業を行うに当つては、土地の事情を考慮し、国民の実生活の向上に資し、更に学校教育を援助し得るようにも留意しなければならない。」ともあり、博物館が学校をはじめとした各種施設を支援する教育施設であることがわかる。
 
 
 
  2.現状・説明
 ここでは、多くの博物館で実施されている教育普及活動として、8つの活動を取り上げておきたい。
(1)オリエンテーション・展示解説
博物館を見学する前に、まず施設や展示について全体的な紹介を行うことを「オリエンテーション」という。オリエンテーションを行うことにより、博物館見学の意味や意義を確認できるとともに、博物館見学におけるマナーや注意事項を伝達することができる。
 また、展示解説とは、学芸員による大人数・少人数を対象とした展示物の解説を指す。展示物について、学芸員の専門知識を踏まえながら見学することができる。加えて、その博物館や学芸員が何を意図してその展示をおこなったのかについても見えてくる。
(2)ギャラリートーク、ガイドツアー
 ギャラリートークとは、広義では「展示室における会話」を指す。具体的には、グループを引率して展示を解説するガイドツアーや注目してほしい展示だけを紹介するハイライトツアーなど様々である。また、多くの博物館では、学芸員が来館者全員に対して応対することは、物理的に不可能であり、ボランティアの解説員が活躍しているケースも見受けられる。
(3)ナイトツアー(ナイトミュージアム)
 ナイトツアー(ナイトミュージアム)とは、「夜間に博物館で行われる見学ツアー」を指す。昼間に博物館見学を行い、夜間に昼間との違いを発見することもある。博物館の閉館後ないし休館日に実施されることが多い。
(4)ハンズオン
 ハンズオンとは、「実際に資料に触る・触れられる展示」を指す。博物館の展示物は、資料保存の観点からガラスケースなどに入れられ、視覚のみの鑑賞というケースが基本となっている。これに対して、ハンズオン展示とは、実際に資料を触ったり、場合によっては、持ち上げたり、匂いをかいだりして鑑賞することを指す。また近年では、「マインズ・オン」として、「心」がモノに触れることも意識する必要性が指摘されつつある。
(5)ワークショップ
 ワークショップとは、「講義など一方的な知識や技術の伝達ではなく、参加者が自ら参加・体験し、グループの相互作用の中で何かを学びあったり、創り出したりする双方向的な学びのスタイル」を指す。本来は、作る過程そのものが重視された手法を「ワークショップ」と表現するが、近年では、体験活動全体を総称して「ワークショップ」と呼ばれていることも多い。
(6)体験・実験
 近年の博物館では、来館者向けに体験・実験プログラムを用意しているケースが多い。例えば、歴史系博物館においては、火起こし体験や勾玉作り体験、科学系の博物館であれば、ロボット工作や各種の実験などが挙げられよう。
(7)講演会・シンポジウム
 博物館における講演会とは、「展示物に関連する、展示を見るための事前・事後学習」ということができる。多くの博物館で行われている代表的な教育普及活動のひとつといえる。また、講演だけでなく、シンポジウムやパネルディスカッションなどの協議型の催しをセットで行うことも多い。
(8)博物館実習
 博物館実習とは、「学芸員養成教育において学んだ知識・技術や理論を生かして、学内及び館園での実体験や実技を通して、学芸員に必要とされる知識・技術等の基礎・基本を修得する実習」である。学芸員資格課程の総まとめ的な位置づけの授業である。具体的には、学内実習・見学実習・実務実習・館園実習・事前事後指導などによって構成される。
 
 
 
  3.課題
 博物館が行う教育普及活動について、課題は二点指摘できよう。
 第一に、標準の来館者や教育活動の参加者として、日本人のみを想定している場合が多いという点である。近年、日本語に加えて、英語表記は多くなってはきたが、多言語に対応しているとは言い難い状況である。また、教育普及活動に関しては、英語対応ができていないことが一般的ではないだろうか。グローバル化が進展している今日、博物館も文化の発信拠点として、また、多くの方の憩いの場としてグローバル化に対応していく必要がある。
 第二に、標準の来館者や教育活動の参加者として健常者のみを想定している点である。例えば、本稿では8つの教育普及活動について述べてきたが、視覚障碍者の方に対応しているものはほとんどない。和歌山県立博物館など一部の博物館において、先進的な取り組みは存在するが、多くの博物館では、視覚障害をはじめとする多くの障害に対応した環境は充分には整えられていない。
 博物館は、「調査研究、展示、教育普及、保存」の機能をもつ社会教育施設である。確かな調査研究がよりよい展示をつくり、教育普及活動につながる。つまり、博物館活動が有機的に機能することが、よりよい教育普及活動につながるのである。教育普及活動だけに焦点をあてて考えるのではなく、まずは、博物館活動全体のなかでの教育普及活動の位置づけをしっかり行うことが肝要であろう。
 
  (参考文献)
・黒沢浩(編)『博物館教育論』講談社2015年
・倉科勇三『ワークショップのためのワークショップ』芦屋市立美術博物館2005年
・駒見和夫『だれもが学べる博物館へ−公教育の博物館学−』学文社2008年
・浜田弘明(編)『博物館の理論と教育』朝倉書店2014年
・広瀬浩二郎(編)『さわって楽しむ博物館―ユニバーサル・ミュージアムの可能性』青弓社2012年
・広瀬浩二郎(編)『ひとが優しい博物館: ユニバーサル・ミュージアムの新展開』青弓社2016年
・全国大学博物館学講座協議会西日本部会(編)2012『新時代の博物館学』芙蓉書房出版
・日本博物館協会(編)2013『子どもとミュージアム』日本博物館協会
・文部科学省「博物館実習ガイドライン」(最終確認2018年8月8日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/toushin/__icsFiles/afieldfile/2009/06/15/1270180_01_1.pdf
 
 
 
 
   



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