生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018年10月20日
 
 

博学連携が子どもに与える影響(はくがくれんけいがこどもにあたえるえいきょう)

キーワード : 中央教育審議会 、総合的な学習の時間 、博学連携
八田友和(はったともかず)
 
 
 
  1.研究背景・研究方法
平成10(1998)年の中央教育審議会(以下、中教審)の答申により、全校種における教育課程基準の改善が行われた。この改善により“総合的な学習の時間”の創設、中学校・高等学校ともに生徒の学習における選択の幅が広がるなど、一人一人の個性を伸ばすことにつながった。特に、横断的・総合的な学習を推進する“総合的な学習の時間”の創設は、「変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること」をねらいとしており、生徒による多様な学びを推進するきっかけとなった。この答申を受け、学校教育を支援する施設としての博物館の存在意義が大きくなった。
それに伴い、博物館による展示解説や出張授業などが積極的に行われるようになった。そして、それら一連の活動は博学連携や博学融合として認識されるようになり、研究や実践が蓄積されつつある。博学連携が積極的に推進されるきっかけになった、平成10年の中教審答申から来年で20年になる。ここで一度、学校教育における博物館活用が、子どもたちのキャリア形成にどのような影響を与えたのか検証すべきではないだろうか。これらの観点から、筆者は2000年当時小学生であった、1990年代中ごろに生まれた歴史系学科・コースに進学した者(奈良大学文化財学科の学生)を対象に、アンケートを実施したので、その結果を整理・提示する。
 
 
 
  2.研究成果
 アンケートの集計結果を概括する。
博物館(学芸員)が関係した授業を受講した学生のうち、受講時期は小学校(初等教育)が最も多く27人、次いで、中学校(前期中等教育)が15人、高等学校(後期中等教育)が9人であった。ここから、学校種があがるにつれ、学校と博物館の連携が減少傾向にあることがわかる。小学校で連携が多いのは、教科担任制でない授業において博学連携が実施しやすいこと、6年生から始まる歴史学習の一環として、連携しているケースが多いためだと思われる。
 博物館や学芸員が関わった授業はとしては、「展示解説」が34人で最も多く、次いで「体験活動(実験など)」が13人、「職場体験・ゲストティーチャー」が6人であった。一方で、「学校にあるものを活用」したと回答した人は2人と少なく、現在行われている博学連携は「展示解説」に偏っていることがわかる。また、展示解説や体験活動が多いことから、学校が想定している博物館活用は、博物館が持つ、人・モノ・情報を、博物館“で”活用することが前提の取り組みと認識していることも読み取れる。
 加えて、実物資料に触れたことがある89人のうち、「いつ触ったか」については、大学と回答した学生が最も多く53人であった。これは、アンケートを実施した授業(考古学概論)において、実物資料に触る機会を設けているからである。よって、大学を除いた校種でみると、高等学校が最も多く38人、次いで小学校が23人、中学校が21人であった。ここから、学校種があがるにつれ、緩やかではあるが資料に触れる機会が多くなっていることがわかる。また、自身の進路選択に大きな影響を与える高等学校において資料に触れていることが、その後のキャリア形成に大きな影響をおよぼすことも判明した。
 “歴史に興味を持った理由”については、父母や祖父母など「周囲の人々の影響」と答えた学生が最も多く31人であった。中には、「母が歴史のまんがを買ってきてくれてそれにハマったことから」といった回答もあった。この場合、興味をもった直接の原因は“まんが”であるが、そのきっかけを作ったのは周囲の人であったといえよう。次いで多かった理由は、「文化財の影響」が27人であり、「環境(生活環境)の影響」が19人、「学校(授業)の影響」と「博物館の影響」がそれぞれ16人であった。また、記述式の設問であったため、「幼い頃によく親に歴史博物館に連れて行ってもらったから」「小学校中学年の時に図書館で歴史人物の伝記を読んで興味を持った」といったように、歴史に興味をもった時期についても言及している回答が複数あり、その多くが未就学児から小学校低学年・中学年の時期に歴史に興味をもったとのことであった。
 “実物資料や博学連携の学びが今の自分にどのような影響を与えたか”の質問では、「社会科への興味関心」が最も多く58人、次いで、「大学選択のきっかけ」「将来の夢に影響した」がそれぞれ32人であった。ここから単に、子どもたちが社会科への興味関心を持っただけでなく、キャリア形成にも一定程度影響していることが読み取れる。
 
 
 
  3.考察・課題
 以上のように、今回のアンケート調査では、概論受講者137人の学生の回答から、博学連携や実物資料に触れることの実態や有効性が浮き彫りになった。これらの実態調査の成果から、博学連携や実物資料を触った経験が子どもたちのキャリア形成に果たした役割をみておきたい。
 第一に、高等学校在学時に実物資料に触れている割合が高かった点だ。自身の進路選択に大きな影響を与える高等学校で実物資料に触れたことの有効性が明らかになった。触れた場所は、博物館や埋蔵文化財センターという回答が多く、博物館や資料館が一定の役割を果たしているといえよう。
第二に、問10の回答からわかるように、実物資料や博物館での学びが“社会科への興味関心”にとどまるだけでなく、“大学選択のきっかけになった”、“将来の夢に影響を与えた”と回答している割合が高い点である。今後は、義務教育や高等学校における博学連携だけでなく、大学生や社会人の博物館活用についても併せて調査していく必要がある。
 一方で、課題は三点指摘できる。
 第一の課題は、博学連携を実施する時期と対象についてである。博学連携は校種があがるにつれ減少傾向にあるが、実物資料に触れる機会は学校種があがるにつれ増加傾向にあることが読み取れる。
また、歴史に興味を抱いたきっかけの多くは、“周囲の人々からの影響”や“文化財の影響”が大きい。特に、周囲の人々の影響では、「両親や祖父母からの影響」と回答した学生が多く、未就学児から小学校低学年・中学年になるまでに受けた影響が大きいようである。加えて、子どもたちを取り巻く環境の中でも、ごく身近な人々が与える影響が大きいことがわかった。しかし、歴史系博物館で行われている連携の多くは、小学校6年生の歴史学習のスタートにあわせたものとなっている。よって、博物館には歴史学習が始まる小学校高学年からではなく、未就学児や小学生など対象者の実態にあわせた連携やワークショップの実施が求められる。
 第二の課題は、学校教育と博物館の連携内容が展示解説に偏っている点である。キャリア教育や教育の情報化など、目まぐるしく変化する学校教育環境のなかで、展示解説中心の連携は実態にそぐわないのではないだろうか。これからは、博物館の持つ多様性を活かした連携のさらなる充実が求められる。と同時に、学校関係者と博物館関係者が連携について、模索・検討していく機会を設けることも肝要といえよう。
 第三の課題は、学校教育における博物館活用の校種が偏っている点である。アンケートから明らかになったように、連携の大部分が初等教育で行われている。しかし、キャリア形成に大きな影響を与える後期中等教育において資料に触れあう機会や博学連携を充実させることも今後は必要であろう。
 
  (参考文献)
・八田友和「博学連携が子どもたちのキャリア形成に果たす役割と課題−1990年代に生まれた学生へのアンケートを踏まえて−」『日本生涯教育学会論集39』日本生涯教育学会2018年
・浅野晋司「「もう一つの特別教室」を目指して “博学連携”において学習支援課が大切にしていること」『兵庫県立考古博物館研究紀要第8号』兵庫県立考古博物館2015年
・小笠原喜康ほか(編)『博物館教育論』ぎょうせい、2012年
・駒見和夫『だれもが学べる博物館へ−公教育の博物館学−』学文社、2008年
・古市秀治「歴史教育と考古学-学習指導要領からみた考古学-」『文化の多様性と比較考古学』考古学研究会、2004年
・村野正景「学校考古を支援する博物館のとりくみ」『朱雀 第27集』京都文化博物館2015年
・全国大学博物館学講座協議会西日本部会(編)『新時代の博物館学』芙蓉書房、2012年
・文部科学省『中学校学習指導要領解説 社会編』日本文教出版、2008年
・文部科学省ホームページ「学習指導要領「生きる力」」(最終確認2018年9月30日) 
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
 
 
 
 
   



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