登録/更新年月日:2019年1月5日
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1.児童図書館について 日本における図書館は、1949(昭和24)年、社会教育法第9条において社会教育機関として規定された。1950(昭和25)年に制定された図書館法第2条では、「「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人の設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)」と規定されている。 一方、児童図書館は法令で定められたものはない。だが児童図書館は、その存在の重要性を説き、子どもの読書活動を支援する先行論者たちによって定義されてきた。 児童サービス論では、「児童図書館とは、乳幼児、児童など子どもをおもな利用者として、資料、情報を提供するサービスを行う図書館である。学校図書館に対比して用いられる概念で、公共図書館の中で児童サービスの場として設けられている児童部門をさす。児童室または児童コーナーとして設けられる場合が多い。児童サービスのみを専門特化して行う独立した児童図書館もある。」としている。児童図書館は、来館する子どもたちに本を提供し、子どもたちが有意義に読書するための環境づくりを展開する。 先行論者による児童図書館の定義から、児童図書館を再定義する。児童図書館は「子どもの成長過程に則した本を提供し、新たな本の出会いと読書の楽しみを自由に享受することができる教育機関」である。 また図書館は、生涯学習社会の実現に向けて重要な機関と注目されている。生涯を通して一人ひとりの潜在能力を伸ばす点から、学習活動の質の向上や、現代社会で抱える課題に対応した学習の推進を実現する拠点の1つとされている。これは、図書館が幼い子どもたちにとっても必要とされていることを示している。 1994年のユネスコ公共図書館宣言では、生涯学習で果たされる図書館の役割が規定された。公共図書館が教育、文化、情報の活力であり、男女の心の中に平和と精神的な幸福を育成するための必須の機関である、というユネスコの信念を表明するものである。同宣言では、公共図書館の使命について12項目挙げられており、1番目に「幼い時期から子供たちの読書習慣を育成し、それを強化する。」と規定されていることも注目すべきである。 |
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(参考文献) ・解説教育六法編修委員会(編)『解説 教育六法』、三省堂、2017 ・中多泰子(編)中多泰子、汐崎順子、宍戸寛(共著) 高山正也・植松貞夫(監修)『新・図書館シリーズ11 改訂児童サービス論』、樹村房、2004 ・ IFLA, Excerpt from ’IFLA/UNESCO Public Library Manifesto 1994’ IFLA, December, 2018, https://www.ifla.org/publications/iflaunesco-public-library-manifesto-1994 |
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2.児童図書館の課題 子どもの生活変化に伴う読書形態の変容が挙げられる。 今日の社会では、「子どもの多忙化」「メディアの多様化」によって不読者を生んでいる。 総務省の調査によると、スマートフォンの保有率は7割を超え、10代のネット利用時間は、平均1日あたりモバイルが108分、PCが15分である。情報を収集する手段として重宝される電子媒体を、日常で触れない日はないと言っても過言ではない。こうした変化は子どもたちの教育にも様々な影響を与えている。情報量の豊富さを良い方向へ生かせば、子どもたちの発想を膨らませ、日常生活の幅を広げ、豊かにする。しかし、情報が常に正確なものとは限らないし、意義あるものとも限らない。情報通信ネットワークを活用する世代である子どもたちは、適切な情報を取捨選択し、それを生かす能力が重要となっている。 子どもたちが電子媒体で情報を収集し、活用する社会は“当たり前”となり、興味関心があるものや調べものがある時は、そこから情報収集する時代が到来した。しかし、流れる情報から必要なものを得ることで簡単に答えを得られる反面、必要なことが抜け落ちてしまうこともある。例えば「考える」ことの欠如である。考えること、想像し創造することは、成長期の子どもにとって最も大切である。読書が家庭教育から始まるように、日常で触れるものによって子どもの生活環境は変化する。 児童図書館においては、読書の意義を伝えることが必要とされる。児童図書館は、子どもにとって読書が楽しく有益なものとなるよう、現在も読書活動を支援する場として重要な役割を果たしている。2000(平成12)年の子ども読書年から現在に至るまで、子どもの読書推進活動が行われている。子どもの読書推進活動の関係者は、「量」から「質」への移行が重要であるとした。 電子媒体が拡大する社会で児童図書館は、単なる情報収集の場ではなく、子どもの感性を育てる場としてその存在を示す必要がある。 |
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(参考文献) ・総務省「「2017年版情報通信白書」の概要 特集テーマ: データ主導経済と社会変革」(総務省http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/summary/summary01.pdf、2017年9月17日参照) |
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3.児童図書館の未来像―東京子ども図書館の事例より― 児童図書館は、単に正確な情報を提供しているのではない。子どもが手に取り読む本だからこそ、子どもが読みたいと思う本や、人生の糧になる本、そして大人が子どもに手渡したいと思う本を置いている。そのため、子どもの読書傾向を知り、「子どもが読みたい本」や「子どもに読み継いでほしい本」を提供することが重要視される。今、児童図書館に社会的な関心が高まっている。全ての子どもに楽しく豊かな読書経験をさせることは困難だが、一人ひとりを大切にする児童サービスを実現させる必要がある。そのためには、子どもが手に取る本、本を選書し子どもに提供する人、読書する空間は非常に重要な観点である。この三方向から子どもの読書を考える児童図書館が存在する。その1つが東京子ども図書館である。東京子ども図書館は、子どもの本と読書を専門とする私立の図書館である。同館は、石井桃子のかつら文庫(杉並区, 1958(昭和33)-現在)、土屋滋子の土屋児童文庫(世田谷区, 1955(昭和30)-1996(平成8))と入舟町土屋児童文庫(中央区, 1956(昭和31)-1986(昭和61))そして松岡享子の松の実文庫(中野区, 1967(昭和42)-1986(昭和61)) を母体として1974(昭和49)年、東京都の教育委員会から財団法人の認可を得て発足した。2010(平成22)年には、内閣総理大臣より公益財団法人として認定された。2017(平成29) 年3月の6日間に実習生として参与観察を行った際に以下の様な事例が見られたので一部を取り上げる。 1つ目はカーペットが敷かれた本を読むスペースで見た子どもの姿である。この場所では年少の子どもが中心に集まり、なぞなぞの本を楽しんでいた。すでに読み終えた子どもは、まだ読んでいない子に教える形で再度楽しんでいた。また、職員が本をきれいに読むことや靴を脱いでカーペットの上を歩くこと、皆で楽しく一冊の本を共有することを促していた。本は自分だけのものでないこと、本を大切にすることを伝え、児童室でのすごし方も教えていた。図書館では、本は皆のものであり、児童室は皆の場所でもある。自由に本を選び読書できたとしても自分勝手に過ごしてはならないということが自然に身につく場所でもある。 2つ目は図書館側が何を読むか迷っている子どもの提案者になった場面である。図書館側は決して子どもに読書を強制したりはしない。子どもが自由により良い読書活動を行えるように取組んでいる。時には子どもに合わせて季節の本やその子が好みそうな本を見せて提案者になる。子どもはその本に興味を示さないこともあるが、なかには自分がまだ読んだことがない本の中から気になる本を見つけることもある。 近年、読書形態に変化が見られ、紙媒体の本から電子媒体の本へ移行している。しかし、子どもは単に読書するのではなく、触る・広げる・めくることも同時に楽しんでいる。また、子どもは周囲が読んでいる本に興味を示したり、読み聞かせで聞いた本や職員が薦める本に関心を持つこともある。自分が読み終わった本や読み聞かせで聞いた本の内容を共有し、感想を言い合う姿もみられる。 本来図書館は本を借りて読書する場であり、子どもの読書活動が有意義なものとなるように、静かな空間の場を十分に確保している。何箇所か読書スペースを作り、好きな場所で思うままに読書ができることを大切にしている。それに加え、これからの児童図書館は子どもが読書を楽しみ、人と共有することや物語を聞いて物語世界に浸るだけではなく、子どもにとって成長を見守り支える居場所となる。 |
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(参考文献) ・東京子ども図書館 『東京子ども図書館のあゆみ 設立四十周年記念刊行』、私家版、2014 |
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