生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2019年2月2日
 
 

教育行政と大学の連携・協働(きょういくぎょうせいとだいがくのれんけい・きょうどう)

coordination and cooperation between educational administration and university
キーワード : 社会貢献 、CОC(Center of Community) 、コンソーシアム
岡田 純一(おかだ じゅんいち)
 
 
 
  1.教育行政と大学の連携・協働に関する変遷
 連携・協働に関しては教育界において強く求められているにも関わらず、教育行政と大学の連携・協働はこれまであまり進んでこなかった。連携に関しては、古くは例えば、昭和46(1971)年、中教審「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」(答申)の中で、大学が必要な連携に消極的であり、今後は開かれた大学の工夫が必要である点が述べられた。まさに現在においても求められているような大学の方向性が、この時期から示されていた。
 昭和61(1986)年、臨教審「教育改革に関する第二次答申」では、社会教育行政が大学等の学校教育との効果的な連携を図りつつ、職業能力開発を推進すること、平成2(1990)年度の文部省『我が国の文教施策』では、大学が地方公共団体との積極的な連携を図ることにより地域貢献をすべき点が述べられた。
 平成17(2005)年、中教審「我が国の高等教育の将来像」(答申)では、大学が社会貢献(地域社会・経済社会・国際社会等、広い意味での社会全体の発展への寄与)を果たす重要性に触れ、教育、研究と並び第三の使命として捉える時代となったことが述べられ、この流れは、後のCОC(Center of Community)事業等にも受け継がれることとなる。
 平成19(2007)年「教育再生会議第2次報告」や「経済財政改革の基本方針2007」において、大学間等における連携に関しての促進が求められ、文部科学省の事業においても、平成20(2008)年度には「戦略的大学連携支援事業」、翌平成21(2009)年度に「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」が取り組まれた。
 全国大学コンソーシアム協議会事業に加盟している団体数は、平成29(2017)年時点で48にのぼる。近年では毎年のようにコンソーシアムが締結され、同協議会に加盟する団体が増加している。このような流れは、これまでみてきたように、文部科学省を中心とした連携を推奨する取組が多数行われてきた影響等によるものであると受け取れる。
 平成20(2008)年中教審「学士課程教育の構築に向けて」(答申)では、国の支援・取組の中に、「産学間の相互理解を深め、連携を強化するため、関係者の対話の機会を設ける」必要性が指摘されている。
 平成24(2012)年に中教審「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて 〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜」(答申)が示され、それとともに同年出された文部科学省「大学改革実行プラン」においては、2つの大きな柱と8つの基本的方向性が表され、この基本的方向性の中のひとつに、「地域再生の核となる大学づくり(COC)構想の推進」が掲げられた。また、同年文部科学省では、国公私立の設置形態を超え、地域や分野に応じて大学間が相互に連携し、社会の要請に応える共同の教育・質保証システムの構築を行うことで、教育の質の保証と向上、強みを活かした機能別分化を推進することを目的とした「大学間連携協働教育推進事業」が取り組まれた。
 このような流れから平成25(2013)年には、文部科学省が「地(知)の拠点整備事業」いわゆるCОC事業を翌年にかけて実施した。そして、平成27(2015)年にさらにこれを発展させた形として、「地(知)の拠点創生推進事業」(CОC+事業)が実施された。
 
  (参考文献)
・岡田 純一「教育行政と大学の連携・協働に関する動向の整理及び今後に向けた一考察」『日本生涯教育学会論集39』 平成30(2018)年
 
 
 
  2.教育行政と大学の連携・協働に関する実際
 教育行政と大学の連携・協働を探る上で、平成25(2013)年度から翌年にかけて文部科学省が実施した、「地(知)の拠点整備事業」いわゆるCОC事業を見逃すことはできない。同事業は、大学が自治体等との連携を必須とし、地域と大学が相談し、解決が必要と考える課題に対し、カリキュラム改革等を通じて全学的に取り組む事業を支援するというものである。同事業の目的は、地域のニーズと大学のシーズ(教育・研究・社会貢献)のマッチングによる地域課題の解決を図ることにあり、最大で5年間の支援を行う同事業の最終目標は、地域再生・活性化の核となる大学の形成に置かれた。
 同事業に対しての大学の関心は高く、初年度に当たる平成25(2013)年度には、289大学(37.0%)からの応募がみられた。この中で大学は51件が採択され、次年度の24件と併せ75件が採択されている。しかしながら、この数は全体の大学数からみれば9.6%と1割にも満たない。
 大学の連携する自治体数については、単独の自治体のみは21件(28.0%)と最も多く、続いて2自治体との連携が11件(14.7%)、3自治体との連携が8件(10.7%)となり、小規模の連携が中心となっているものの、10自治体以上との連携についても合計で8件あり、最大で13自治体との連携を図った大学もみられた。ただし、同事業では大学と自治体の連携が求められているだけで、教育行政であることは問われていない点に留意する必要がある。前項臨教審によって示されたように、教育行政とりわけ社会教育行政が中心的な役割を果たすことが望まれる。
 また、平成27(2015)年文部科学省委託調査を参照し、大学における地域連携に対処するための専門機関・組織の有無についてみると、73.2%が「専門機関・組織がある」と回答した。学外から見た場合、専門機関や組織を設けることで、連携等を仕掛けるきっかけとして有効に働くと考えられる。しかしながら、同調査において、「専門機関・組織がある」と回答している中で、その機関や組織が「公開講座と同じ機関・組織である」と回答した割合は44.4%と半数近くにのぼり、職員の多忙性や、専門性の弱まりにもつながる可能性が残る状態であることも確認された。
 さらに、同調査における大学における地域連携の際の課題として、「大学側の人手・人材が不足している」が圧倒的に多く80.6%と、極めて高い数値を取っている。専門組織を持っていても、専属的に関われない場合もあることなど、今後大学側が取り組まなければならない点が浮かび上がってきている。これに次いで、「連携のための予算が確保できない」(41.0%)、「地域との連携の意義が学内に浸透していない」(40.0%)、「多忙等を理由に教員の協力が得られない」(28.8%)が3〜4割近い割合を占め多くなっている。機関や組織等形式は整えても、実働できない、ということでは実質的な協働に転換し得ないので、これからどのように改善を図るか、良い方策を練る必要がある。
 教育行政においては、首長部局等、関連当局との連携といった自治体内における連携はもちろん、自治体内で連携の意義の浸透を含めた理解・協力を求めながら、地域を中心とした幅広い連携を模索しつつ構築し、全体のコンセンサスを得ながら地域の情報を集約し、持続可能な体制づくりを目指す必要がある。
 
  (参考文献)
・岡田 純一「教育行政と大学の連携・協働に関する動向の整理及び今後に向けた一考察」『日本生涯教育学会論集39』 平成30(2018)年
・文部科学省委託調査「平成27年度開かれた大学づくりに関する調査研究・調査報告書」平成28(2016)年
 
 
 
 
   



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