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登録/更新年月日:2018年4月28日
 
 

公立図書館評価に関する実態調査の動向(こうりつとしょかんひょうかにかんするじったいちょうさのどうこう)

overview of surveys on public library evaluation
キーワード : 図書館評価 、公立図書館 、公共図書館
下山佳那子(しもやまかなこ)
 
 
 
  1.定義と背景
 本稿における公立図書館評価とは、日本の公立図書館が自主的に実施する評価を指す。また、実態調査とは、調査手法として質問紙調査や事例調査などを採用し、図書館評価の実態把握を試みたものとする。
 図書館サービスの自己評価は、「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成13年文部科学省告示第132号)によって努力義務として規定された。また、平成20(2008)年に改正された図書館法によって、図書館の運営状況に関する評価を行うこと、評価の結果に基づいて図書館の運営の改善を図ること、および運営状況に関する情報を提供することが努力義務として規定された。
 これらの規定の影響もあり、2000年代以降、図書館評価を実施する公立図書館は徐々に増加し、公立図書館評価に関する実態調査も実施されてきた。
 本稿では、公立図書館評価に関する実態調査の報告書のうち、平成13(2001)年から平成22(2010)年のうちに発表されたものを対象とし、次に動向を記す。
 
 
 
  2.説明・動向
 調査対象とする報告書について、1) 調査・研究の目的、2) 評価の定義・説明、3) 調査方法・対象の三つの観点から分析し、添付資料「表1. 実態調査報告書ごとの項目の整理」にまとめた。主要な動向を以下に記す。
1) 調査・研究の目的
 調査・研究の目的について、実態調査の初期段階である日本図書館協会(2013)では「今後の図書館振興のための参考資料とすること」とあいまいな示され方をしていたが、その後の報告書では、アウトカム指標の提案、図書館評価の問題点の析出などおおむね具体的に示されている。
 なお、日本図書館協会(2003, 2004)では、専門家の意見をもとに作成された調査票を用いて、住民および来館者を対象とする質問紙調査の手本が示されている。また、三菱UFJリサーチ・コンサルティング(2010)でも、評価に携わる職員が手軽に参照できる質問紙調査の手法の検討を目指した調査が実施されている。以上から、住民や利用者の意向を質問紙を用いて調査することが、様々ある評価手法のうちで重視されてきたと言える。
2) 評価の定義・説明
 日本図書館協会(2003)では、評価の定義は「目的や目標の達成状況を表現するもの」と記されている。次に、日本図書館協会(2004)では、アウトカム指標への言及がなされており、実態調査の初期段階からアウトカム指標が意識されていたことがわかる。桑原芳哉(2008)や三菱UFJリサーチ・コンサルティング(2010)でも評価の定義は他に示されているものの、アウトカム指標も重要視されている。なお、アウトカム指標については、実態調査に限らず様々な論考の中で重要性が指摘されているものの、設定の困難さから図書館評価研究において重要な課題として捉えられている。
 次に、みずほ情報総研(2009)では、例えば評価の主体について行政評価と図書館独自の評価を分けて問うなど、評価の多様性を考慮した設問や回答の選択肢が設定されている。また、全国公共図書館協議会(2009)では、本文中でも評価の多様性に言及するとともに、調査の漏れを避けるため「必要最低限の緩い定義」を採用したと述べられている。そこで採用された定義とは「調査データに基づき、何らかの比較を試みること」であり、何らかの比較の例としては、前年度との比較、数値目標との比較、他の図書館との比較、何らかの基準との比較が挙げられている。
 評価に関する実態調査や研究が進むにつれて、評価の主体や手法が多様であることへの理解が深まっていったと考えられる。
3) 調査方法・対象
 調査方法については、国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(2004)では、質問紙調査による全数調査のみが採用されていたが、みずほ情報総研(2009)や全国公共図書館協議会(2010)では、それに加えて事例調査も実施されている。
 また、三菱UFJリサーチ・コンサルティング(2010)では、「目的」と「手段」の関係を階層的・体系的に図式化した、ロジックモデルおよびロジックツリーを用いた評価の試案が示されている。これについては、平成24(2012)年に国立教育政策研究所社会教育実践研究センターが刊行した『社会教育計画策定ハンドブック』でマニュアルも示されている。試案やマニュアルが示されたものの、普及状況などに関する実態調査は実施されていないことから、今後の実態調査に際しては、評価活動のなかでロジックツリーを採用している図書館から情報を収集し、手法としての有効性を探ることが必要である。
 
 


添付資料:表1. 実態調査報告書ごとの項目の整理

 
  (参考文献)
・日本図書館協会『図書館における自己点検・評価等のあり方に関する調査研究報告書』日本図書館協会、2003
・日本図書館協会『「図書館における自己点検・評価等のあり方に関する調査研究」報告書』日本図書館協会、2004
・国立教育政策研究所社会教育実践研究センター『図書館及び図書館司書の実態に関する調査研究報告書 : 日本の図書館はどこまで「望ましい基準」に近づいたか 平成15年度社会教育活動の実態に関する基本調査』、2004
・桑原芳哉「公共図書館評価におけるアウトカム指標: 行政評価の事例調査に基づく提案」 Library and Information Science、no. 60、2008
・みずほ情報総研『図書館の自己評価、外部評価及び運営の状況に関する情報提供の実態調査報告書 : 平成20 年度 地域の図書館サービスの充実に関する調査研究(文部科学省委託調査研究)』、2009
・全国公共図書館協議会編『公立図書館における評価に関する実態調査報告書. 2008 年度』全国公共図書館協議会、2009
・全国公共図書館協議会編『公立図書館における評価に関する報告書. 2009 年度』全国公共図書館協議会、2010
・三菱UFJ リサーチ・コンサルティング“図書館・博物館における地域の知の拠点推進事業 : 社会教育施設の評価に関する調査研究報告書”文部科学省ホームページ、http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/1297173.htm、参照 2011-08-22
・国立教育政策研究所社会教育実践研究センター編『社会教育計画策定ハンドブック:計画と評価の実際』国立教育政策研究所社会教育実践研究センター、2012
 
 
 
  3.課題
 ロジックモデルおよびロジックツリーを用いた公立図書館評価に関しては、試案やマニュアルが示されたものの、現在に至るまで実態調査は行われていない。今後の研究課題の一つであると言える。
 
 
 
 
   



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