登録/更新年月日:2019年1月5日
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1.ファンドレイジングの定義と説明 【定義】 ファンドレイジングとは、基本的にはNPOなどの非営利団体が事業に必要な資金調達を社会から集める方法・手段をいう。広義には、助成金の獲得や効率的に事業収入をあげることであるが、狭義には寄付金や会費の徴収をとおして事業運営に必要な資金を獲得することを指し、「資金調達」「資金開拓」と表現する場合もある。 【説明・動向】 ファンドレイジングの考え方に近い慈善的な寄付活動は古くから広く存在した。例えばハーバード大学が植民地の住民の寄付によって設立されたように、ファンドレイジングが最初に提唱されたアメリカでは、建国当初から、人々の寄付行為が社会を形成した。日本においては、仏教文化の考え方に基づく慈善活動(フィランソロピー)があり、奈良時代の悲田院のような社会福祉的活動に原型をみることができる。明治前期においては、学制に呼応した京都の町衆が資金を出し合って学校を建設しており、こうした事例は全国的に枚挙にいとまがない。 現代において、わが国でファンドレイジングが取組まれる契機となったのは1998年のNPO法制定であり、公益法人改革であった。1990年代後半以降の協働型社会の進展のなかで、資金づくりの有効な手段として重視されたことも、今日のような広がりをみせたことにつながる。NPOや公益法人のような非営利団体にとって、収入に関わる資金の問題は重要な問題であり、当該組織には、受益者からサービスの対価を得にくいという課題があった。非営利団体が収益的活動で利益をあげる以外の収入手段には、「寄付」「会費」「助成」「補助金」「借り入れ」などがあるが、資金難からファンドレイジングのような「寄付」行為や会費を求めるという現実がある。ファンドレイジングには様々な活動手法があり、会員による会費収入、募金活動、相続寄付、広告寄付、カード等のポイント寄付、商品購入の際の代金の一部の寄付、公益的なイベントでの寄付、助成金や補助金なども該当する。 ファンドレイジングの役割は、単に非営利団体の活動に必要な資金の調達方法・手段だけではない。従前の公益的な市民活動団体に対する団体補助金や運営資金給付とは異なったしくみとして理解すべきである。つまり、社会変革を志向する活動として、そうした活動に対する「共感」として、資金を得るためのしくみであるという思想性が存在していることを理解する必要がある。社会的課題に対してミッションを持った人が、その実現に寄与するための寄付行為であり、非営利団体が寄付を募ることを通して、問題の所在を明確にすることに共感する人が参加・参画できる機会を得るということになる。社会的課題に対して目的を共有・共感し合い、資金調達の過程で関係者間に協働関係を創出することで新たな参画者が出現する仕組みである。 |
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(参考文献) ・鵜尾雅俊『ファンドレイジングが社会を変える』三一書房、2014年 |
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2.ファンドレイジングの課題 【課題】 実際のファンドレイジング活動は、いくつかのプロセスを踏む必要があると指摘されている。大阪大学の山内直人氏によると、先ずファンドレイジングの目的と目標額、目標達成時期を設定し、資金力のある潜在的な寄付者(ファンドレイザー)を探して寄付を依頼し、勧誘活動を絞り込むことだという。また、実際に寄付をしてもらい、その際に頂いた寄付金の使用目的、方途、効果や必要な寄付金の見通しについて説明した上で、寄付金募集のイベントを実施することになる。ついで寄付者へのお礼、評価等の報告を行うことが重要であるとされている。このように実際には手間がかかるのである。 ファンドレイジングによる資金獲得を求める非営利団体自身が、こうしたプロセスを十分に理解することが肝要であり、活動の前提ともいうべき課題を明確にしておくことも同様である。非営利活動そのものに、他者を納得させる要素があってはじめて他者は寄付をするのである。こうした要素をどのように作り上げるのかという点が重要である。非営利団体が取り組むべき課題については、コ永洋子氏の指摘をふまえて、いくつかのポイントを以下にあげてみた。 (1)ビジョン、ミッション、ストラテジー、スローガンを持つことであり、このようなキーワードは非営利活動自体の特性ともいうべき事項であるがゆえに、そこでは目的としての社会貢献性や社会奉仕性が発揮されねばならないであろう。 (2)共感を支援につなげることも重要である。ファンドレイジングは、社会的活動に対する「共感」によって運営されるものであるから、そこにはファンドレイザーらの支援者・協力者の関心や感動に基づく深い理解がある。非営利団体に対する信頼が生まれ、ミッションの共有化が存在し、実際の公益的活動に直結するものであることを知らねばならない。 (3)資金支援を求める非営利団体の活動実態について明らかにしなければならない。概要、社会課題の内容、求めている支援などについてである。 (4)寄付行為を受ける非営利団体の姿の「見える化」が必要であること。 (5)非営利団体の経営にマネジメント・サイクルを導入し、活動計画を策定することが重要であること。 (6)金銭に関わる目標を設定すること。ここであげた非営利団体に対する課題は、ファンドレイジングのような資金の問題に止まらず、市民社会の非営利セクターに求められている原理である。つまり、寄付集めという行為をとおして、大勢の人々と関わり、人間関係を形成するという働きが必要とされるとともに、自分たちの活動団体の認知度を高め、課題を発見するという営みについては、市民活動の性格を形成するものであり、その質的向上につながる生涯学習の場であると考えねばならない。 |
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(参考文献) ・山内直人「ファンドレイジングとは何か」『情報の科学と技術』第64巻8号、2014年 ・徳永洋子『非営利団体の資金調達ハンドブック』時事通信社、2017年 |
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3.ファンドレイジングの事例 【事例】 日本におけるファンドレイジング活動は、未だ緒に就いたばかりである。全国的には既にいくつかの先進的・先駆的な事例があるが、ここでは京都府の助成を受けた亀岡市による亀岡NAWASHIRO基金」という名称のファンドレイジング活動について説明する。 亀岡市は京都市に隣接し、1988年には生涯学習都市宣言をした人口9万人の地方都市である。市民によって生涯学習活動が盛んに行われたことで有名であるが、同市の中央生涯学習センターである「ガレリアかめおか」は全国的に有名で、ここで紹介する「亀岡NAWASHIRO基金」の事務局もここに置かれている。「亀岡NAWASHIRO基金」という寄付事業は、2017年から、同市で実施されている市民活動支援である。事業の主催は(公財)京都地域創造基金で、基本的には同財団による京都地域創造基金の助成プログラムの一つとなっている。 この助成プログラムを活用して、同市の活性化に寄与しようとした有志市民の存在が大きい。市民団体、中間支援組織、企業経営者、元新聞記者や大学生などによって構成される組織が、京都地域創造基金と連携し、地域の要望に応えるための方策という形で推進している点である。具体的には、基金を希望する活動団体は、この助成プログラムのサポートを活用することにより、自主的に寄付集めに取り組むことになる。自主的に1年以内にであるが、自由に設定した寄付募集期間に寄付集めをサポートしてもらうことができ、期間内に集まった寄付金は京都地域創造基金から活動団体に渡され、寄付金については税制上の優遇措置の対象となる。 助成プログラムでのサポートとは、「ビジョンの作成」「情報発信」「コミュニケーション」「組織管理」「税制優遇」「入金管理・情報管理」などをいう。ビジョン作成によって、助成を受ける活動団体は、考え方やミッション、活動内容を表明することになり、こうした情報発信によって関係者の共感を創り出すことが可能となる。活動団体自身によるミッションの問い直しは、組織や活動の見直しにつながる。長期的な計画やビジョンを示すような場合は、当該団体の今後の活動に方向性を与え、課題を提示することにつながるのであり、ビジョン作成に関わってのサポートがなされる点が重要である。団体認知を目的としたコミュニケーションを通して寄付提供者や活動事業関係者とが理解し合い、共感を生んでいくというプロセスも評価すべきである。また、寄付金の入出金という事務に対するサポートも貴重な援助となる。 類似事例であるが、埼玉県の生活協同組合パルシステムや堺市にある生活協同組合などでは、独自の市民活動資金提供ファンドを展開している。全国的に有名なベルマーク、プルトップ、古切手や日本ユネスコ協会連盟による書き損じはがきの収集なども類似事業といえよう。さらにITの世界におけるホームページ上のバナー広告やふるさと納税なども寄付行為として、ファンドレイジングの類似事業と考えてよいだろう。 |
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(参考文献) ・「亀岡で実りある事業を−平成29年度寄付集め支援プログラムエントリー要項」亀岡NAWASHIRO基金 |
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