生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2022年1月8日
 
 

コミュニティ・スクール研究の到達点と生涯教育論の視点から見た残された課題(こみゅにてぃ・すくーるけんきゅうのとうたつてんとしょうがいきょういくろんのしてんからみたのこされたかだい)

achievements of community school research and remaining issues from the perspective of lifelong education theory
キーワード : コミュニティ・スクール 、生涯教育論 、発達資産
木口雅也(きぐちまさや)
 
 
 
  1.コミュニティ・スクール研究の分類と到達点
 本稿では、コミュニティ・スクール(以下CSと表記)研究を(1)制度論的な研究、(2)CSの態様に関する研究、(3)CSに関わるステークホルダーに関する研究、(4)生涯学習論に関する研究の視点から概観する。
 (1)制度論的な研究は、学校運営協議会制度が法制化された2004年から数年間、盛んに議論されていた。伊藤(2006)では、「教育の素人」の合議体である学校運営協議会が、学校運営について適切かつ有用な判断を下せるようにするためには、ニュージーランドのような評価・支援体制が必要であることを指摘している。また、葉養(2005)は、学校運営協議会を導入することで、一定程度の民意を獲得することにはなるが、経済的、社会的事情で学校に関わることのできない人々の学校運営への参画の道を閉ざしてしまうことへの警鐘を鳴らしている。
 (2)CSの態様に関する研究においては、佐藤(2016)が全国調査を行い、ミクロレベル(事例)で発生している様々な変容は、マクロレベル(国全体)の傾向としてどう表れてくるのかをデータにより分析している。また、岩永(2011)は「説明責任型CS」から、「学校支援型CS」ともいうべき状況が広がっている、と当初の保護者・地域住民の学校意思決定過程への参加から保護者・地域住民による学校支援者としての「参加」へのCSの態様の変容を指摘している。
 (3)ステークホルダーに関する研究では、仲田(2010)が保護者委員に視点を当て、保護者委員は他の委員と比べて相対的に劣位に置かれやすくなり、無言委員化していくことを述べている。また、諏訪・畑中(2016)では、地域住民に視点を当て、学校運営協議会活動を通して大人のソーシャル・キャピタルが醸成されることを述べている。また、日高(2007)では、校長に視点を当て、「会議の進行役にどのアクターを置くかによって、意思決定プロセスが大きく異なり、校長には高度のコミュニケーション能力が必要である」、と述べている。
 (4)生涯教育論に関するCS研究では、熊谷ら(2013)と志々田ら(2015)がCSにおける地域との連携・協働に着目し分析・考察を行い、地域住民の学びの存在やその必要性を説いている。
 
  (参考文献)
・葉養正明「学校経営者の保護者・地域社会、子どもとの新たな関係」『日本教育経営学会紀要』第47号、pp.36-45、2005年
・日和美「学校運営協議会における意思決定に関する考察 ―校長の認識に焦点をあてて―」『教育経営学研究紀要』第10号、pp.45-54、2007年
・伊藤りさ「学校運営協議会制度における評価と支援のあり方を巡って ―ニュージーランドの制度を参考に―」 『レファレンス』56(3)、pp.84-98、2006年
・岩永定 「分権改革下におけるコミュニティ・スクールの特徴の変容」『日本教育行政学会年報』No.37、pp.38-53、2011年
・熊谷愼之輔 志々田まなみ 佐々木保孝 天野かおり「学校支援地域本部事業と連携したコミュニティ・スクールの事例分析 ―『地域とともにある学校』づくりによる教育力の向上をめざして―」『日本生涯教育学会年報』第34号、 pp.203-219、 2013年
・仲田康一「学校運営協議会における『無言委員』の所在 −学校参加と学校をめぐるミクロ社会関係−」『日本教育経営学会紀要』第52号、 pp.96-110、 2011年
・佐藤晴雄 『コミュニティ・スクール「地域とともにある学校づくり」の実現のために』 エイデル研究所、2016年
・志々田まなみ 佐々木保孝 天野かおり「学校とともにある地域づくりを促す『協働』に関する考察」『日本生涯教育学会年報』第36号、 pp.183-199、 2015年
 
 
 
  2.生涯教育論の視点から見た、CS研究における残された課題
 前項目の先行研究の検討を通して、本項目では発達資産の視角から見たCS研究の必要性を説く。発達資産とは、発達段階に応じた形成が望ましいとされる資産をさす。この概念は、米国のNPO機関サーチ・インスティチュートの提唱によるもので、人の「教育や健康面でのよりよい発達をうながす環境的な力」(外的資産)と「価値観・倫理観、社会的能力や肯定的なアイデンティティ、個人の学習習慣や学習の力などの内面的要素」(内的資産)で構成されている。
 ベンソン(Benson 2003)によると、発達資産論は人間の発達に加えて地理的定義による「コミュニティ」の発達も視野に入れており、「発達資産を豊かに蓄積した地域社会(asset-building community)」の形成を目指すということである。この考え方は、地域の様々な機関や団体等がネットワーク化を図りながら、学校、家庭及び地域が相互に協力し、地域全体で学びを展開していく「子どもも大人も学び合い育ち合う教育体制」の構築(中央教育審議会 2015)と方向性を同じとしている。にも関わらず、「地域とともにある学校づくり」に対して有効な手段の一つであるCSにおける子どもや大人の学びについて、発達資産の視角からの研究が十分に深められているとは言えない状況であり、今後の研究を深めていく必要のある領域であると考える。
 
  (参考文献)
・Benson, P.L. Developmental assets and asset-building community: conceptual and empirical foundations. In R. M., Lerner, & P.L. Benson., (Eds.), Developmental assets and asset-building community: implications for research, policy, and practice. Kluwer academic / plenum publishers, pp.19-43, 2003
・中央教育審議会『新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(答申)』pp.7-10,2015年
 
 
 
 
   



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