生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2021年7月12日
 
 

国際バカロレアPYPの探究学習で育まれるエージェンシーの生涯学習意識への影響(こくさいばかろれあPYPのたんきゅうがくしゅうではぐくまれるえーじぇんしーのしょうがいがくしゅういしきへのえいきょう)

キーワード : 国際バカロレア 、PYP 、探究学習 、エージェンシー
原田 卓(はらだ たく)
 
 
 
  1.研究の背景と目的
 学校教育は大きな転換期を迎えている。知識を知識として学ぶだけでなく、様々な分脈において転移可能な概念としての駆動する知識を獲得し、意味や価値を学習者自身が感じながら、生き方につながる学びとなることが求められている。これを受け、教育現場では様々な教育アプローチが試行されている。その中で、筆者の勤務校では、国際バカロレア初等教育プログラム(以下PYP)を採用している。
 国際バカロレアは、使命として、「人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続ける」人を育てることを示し、プログラムを通して、主体的に学び続ける生涯学習者を育成することを目的としている。
 特に、PYPでは、学びの中心にエージェンシーの育成が置かれている。エージェンシーとは、学びに対する責任と主体性を意味する。PYPの文書では、「エージェンシーを持つPYPの生徒は、イニシアチブと意志を用いて、学習に責任と主体性を持つ」(筆者和訳)と示されている。
 しかし、エージェンシーの向上が生涯学習意識に影響するのかについての研究は始まったばかりであり、明らかにされていない。そこで、本研究では、PYPで実施される探究型概念学習(以下探究学習)を通して育まれる児童のエージェンシーが、生涯学習意識の向上にどの程度影響するのかを明らかにする。
 
  (参考文献)
・International Baccalaureate 「Enhanced PYP :『The Learner』 『Learning and teaching』 『Learning Community』」 International Baccalaureate Organization (UK) Ltd、(2018)
 
 
 
  2.研究方法
 静岡県の私立小学校1校において、2020年度(令和2年度)第4学年の児童22名を対象に、6月から9月にかけてPYPの指導方法を用いた探究ユニットを実施し、探究学習での学びが生活や行動に結び付いたか、また、今後の学びや自身の将来の生き方にどの程度影響したかを、学級担任による質問紙配布回収法による調査及び児童の行動から検証した。
 
 
 
  3.結果と考察
 調査の結果を表1にまとめた。まず、探究学習に楽しさを感じている児童は、「とても思う」「思う」を合わせると全体の82%であった。調査対象の児童は、第2学年よりPYPの学びをスタートしている。教科学習と探究学習の両方を経験していることから、学び方を比較しての結果であると考えられる。
 また、自身の生活に学びが繋がっていると感じている児童は86%で、学びの意味や価値を感じながら学習に取り組んでいることがうかがえる。この結果に関連し、児童が評価課題として作成した意見文やプレゼンテーションでも具体的な行動の提案が多く見られたこと、また、実際の行動として、問題解決に必要な資料や情報を自主的に収集した児童が多かっただけでなく、学校周辺のごみ拾いを休日に自主的に行ったり、節水やごみの減量に家族で取り組んだりした児童もいたことから、学習者エージェンシーの向上も確認できた。
 さらに、自分が今後学びたいと思うことと、将来してみたい職業についても記述してもらったところ、22名全員が回答した。探究の学びがこれからの自分の学びに関係していると答えた児童が、「とても関係ある」「関係ある」を合わせて73%おり、多くの児童が学びの連続性を認識していることが認められた。一方、職業については、関係を認識している児童は55%にとどまった。これは、まだ職業と学びの繋がりが実感できるものではなく、興味や憧れによる選択が多いことが理由であると考えられる。
 児童との関係が深い学級担任が行った調査の結果であることから客観性にかける部分はあり、今後の継続的な追跡調査も必要であるが、探究学習が児童のエージェンシー向上を促進し、これから続く学びや将来の生き方に繋がる可能性を有しているということが示唆される。     
 
 


添付資料:探究に関するアンケート調査結果

 
 
 
 
   



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