登録/更新年月日:2021年2月4日
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1.SDGsの定義・目的と生涯学習 【定義】 SDGsは「環境」「貧困」「人権」「平和」「開発」など、地球や人類社会の問題を認識、解決に向け「持続可能な開発」を達成するための課題と目標をいう。 【目的・意義】 SDGsの目的は、気候変動や生物多様性の喪失といった地球規模の限界に対応し、国際社会において拡大する貧困と格差を是正することにある。地球の危機的状況を克服し、社会において誰一人取り残すことのない「持続可能な社会」をめざす相互不可分な一体的目標を提示し、その実現を図ることが目的である。目的を実現するための実践は、個人の生き方をとらえ直し、生活に対する価値観と様式の変容を促す点において意義があり、結果として「経済」「社会」「環境」に関わる生活が統合的に発展する可能性を生み出す。SDGsの実践にさまざまな主体が参加・参画することによって主体的な学びの過程が形成され、生涯学習の観点から人間形成に結びつく実践的な学習活動が展開される。 【説明・動向】 1.人類の発展と地球の持続のための基盤となる5つのP People(人間) 、Planet(地球) 、Prosperity(繁栄) 、Peace(平和) 、Partnership(パートナーシップ) 2.SDGsのフレームワーク SDGsのフレームワークは、達成すべき具体的目標である「大きな目標」「開発基準」と進捗状況を計測するための「指標」からなる3層構造で示される。 (1)17の大きな目標(ゴール,Goal):開発に向けた意欲目標 1)貧困 2)飢餓 3)保健 4)教育 5)ジェンダー 6)水・衛生 7)エネルギー 8)成長・雇用 9)イノベーション 10)不平等 11)都市 12)生産・消費 13)気候変動 14)海洋資源 15)陸上資源 16)平和 17)実施手段 (2)169の開発基準(ターゲット、Target)定量的・定性的な計測可能な行動目標 (3)232の指標(インディケーター、Indicator)達成度計測のための評価尺度 3.SDGsの設定に至る国際社会の動向 「持続可能な社会」の創造と構築をめざした「ESDの10年」(2005-2014年)の後継となる国際的な実施枠組みがSDGsである。2015年9月の国連総会で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採決され、2016年から2030年までの15年間に世界のすべての国が取り組むべき達成目標とされた。 4.SDGsにおける生涯学習や教育の課題 「教育」に関わる課題は、主に「ゴール4」で示される。開発途上国の小学校未就学児童や先進国も含めて成人非識字者が存在するという問題に対し「すべての人に包摂的で質の高い教育を確保し、生涯学習を促進することが目標」となる。17のゴールすべての課題において生涯学習や教育の観点が必要だと考えられる。 |
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(参考文献) ・持続可能な開発目標推進本部「持続可能な開発目標実施指針」平成28(2016)年12月 |
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2.SDGsに取り組む行政と生涯学習 【説明・動向】 1.日本政府とSDGs推進本部の取組 日本政府は2016年5月に「SDGs(持続可能な開発目標)推進本部」を設置し、12月に実施指針(2019年12月に一部改定)を示し、以下の8つの優先分野に取り組むとした。 1)あらゆる人々の活躍の推進 2)健康・長寿の達成 3)成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション 4)持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備 5)省エネ・再エネ、気候変動対策、循環型社会 6)生物多様性、森林、海洋等の環境の保全 7) 平和と安全・安心社会の実現 8)SDGs実施推進の体制と手段であり、取組を実施するために普遍性、包摂性、参画型、統合性、透明性と説明責任を主要原則とした。 2019年12月には、「誰一人取り残さない」社会の実現をめざし、「人間の安全保障」の理念に基づいた『SDGsアクションプラン2020』を発表し、1)ビジネスとイノベーションに関わってSDGsと連動する「ソサエティ5.0」の推進 2)SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり 3)SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメントの3つを骨子として提示した上で、2030年に向けた10年を「行動の10年」とした。このアクションプランにおいて「SDGs未来都市」を選出し、「地方創生の推進」や「『人づくり』の中核としての保健、教育」などを具体策として示している。 2.自治体の施策とSDGs SDGsは、全世界のあらゆる関係者に呼びかけられたものであり、国家はもとより自治体の役割と貢献が期待される。例えば「住み続けられるまちづくり」であるゴール11は、自治体本来の役割である。自治体がSDGsの実現に取り組むことで、行政課題と「大きな目標」「開発基準」が一致し、自治体のビジョンづくりに資することになる。SDGsが示す17の「ゴール」は、分野横断的な取組の検討を促すものであり、総合計画としての具体的行動を伴う点で総合行政の実現につながる。自治体はグローバルな課題とローカルな課題の双方に取り組むことができる立場にあり、関係する多くの主体(ステークホルダー)と協働が実現できる点で重要である。 3.生涯学習推進とSDGs ゴール4の「開発基準」は、次の10項目をあげている。1)すべての子供に適切な初等・中等教育を無償・公正に実施、2)質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育を受ける準備、3)質の高い技術教育・職業教育及び高等教育への平等なアクセス、4)仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合の大幅増加、5)脆弱層によるあらゆるレベルの教育や職業訓練への平等なアクセス、6)すべての若者や大多数の成人が読み書き能力及び基本的計算能力を獲得、7)持続可能な開発を促進するのに必要な知識及び技能の習得、8)安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境の提供、9)先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数の大幅増加、10)質の高い教員数の大幅増加。 こうした課題の達成を含めて、SDGs全体を達成できるような人材の育成が必要である。「SDGs実施指針」における8つの優先分野の1つに「あらゆる人々の活躍の推進」があり、社会教育とさまざまな社会課題に向かう「住民の学び」との有機的連携の推進により、学際的な広がりのある生涯学習が実施できることになる。 |
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(参考文献) ・持続可能な開発目標推進本部「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」平成28(2016)年12月 ・持続可能な開発目標推進本部「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版」令和元(2019)年12月 ・持続可能な開発目標推進本部「SDGsアクションプラン2020〜2030年の目標達成に向けた『行動の10年』の始まりから」令和元(2019)年12月 |
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3.SDGsに取り組む行政と学校の事例 【事例1】茨木市総合計画とSDGs 茨木市は「総合計画後期基本計画」の策定においてSDGsを取り上げている。同計画の冒頭で「SDGs達成に向けた取組の推進」をあげ、「『誰一人取り残さない』持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現は、本市総合計画のめざすべき方向性と同様であり、総合計画の推進がSDGsの推進に資するものといえます」と述べ、行政、市民、事業者・団体などの主体(ステークホルダー)が目標を共有化、連携・協力して課題に取り組むこととし、計画立案において施策毎にSDGsのゴールとの関連を示した。 例えば生涯学習に関わる施策は、「生涯学習の機会を増やし情報提供を充実する」はゴール4、「青少年の心豊かなたくましい成長を支援する」はゴール1、4及び17、「魅力ある教育環境づくりを推進する」はゴール4及び17を位置づけ、施策内の取組によってSDGsの具体化を図ろうとしている。 施策内の取組については、茨木市の固有の条件のもとに自主的に推進すべきSDGsが選択されている。実施にあたっては、こうした計画をふまえたアクションプランが必要であり、SDGsの要素を盛り込んだ生涯学習推進計画など各種の個別計画を策定・実施できる仕組みとなっている。 【事例2】大阪狭山市教育振興基本計画とSDGs 大阪狭山市教育委員会は、2020年3月に策定した第2期教育振興基本計画において、重点方針や重点目標とSDGsの17のゴールとを関連づけ、それを同市の教育課題として示している。 例えば、「持続可能な社会のための教育環境を充実します」とする基本方針のもとで、重点目標に「地域の教育力の育成と社会に開かれた教育課程の実現」をあげており、SDGsのゴール3、4、8、11、16及び17と関連づけている。同様に、重要課題である「生涯スポーツ活動の推進」については、ゴール3、7、12及び17、「生涯学習や文化芸術活動の推進」については、ゴール3、4、7、10、12、16及び17を関連づけ、同市の固有の条件のもとに、具体的に施策の意義や方向性を明らかにしている。 【事例3】大阪府立の高等学校の取組 大阪府立泉北高等学校は、2006年以降文部科学省よりスーパーサイエンススク−ル(SSH)やスーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受けており、「2019年度 SGH研究完了報告書」において、SDGsをテーマとしたいくつかの課題研究についての結果を発表している。 内容をみると、北欧研究レポート(ゴール5、7、10、11、12と関連)、ボルネオ研修「パーム油プランテーションによる熱帯雨林消失とエシカル消費の可能性」(ゴール12と関連)、「ポイ捨てが海を殺す。〜プラスチックの環境への影響〜」(ゴール14と関連)、「放っておいてはダメ!!〜カンボジアに学校を建てる〜」(ゴール1と関連)、「あなたは知ってる?ソーシャルビジネスの世界!!」(ゴール1と関連)、「恋愛って何?〜セクシャリティは無限〜」(ゴール5と関連)などであり、ゴールとの密接な関連を持った課題を設定し、具体的な研究活動に取り組んだことがわかる。SDGsと学校教育とが一体化したカリキュラムづくりが行われている。 |
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(参考文献) ・茨木市「第5次茨木市総合計画後期基本計画」令和2(2020)年1月 ・大阪狭山市教育委員会「第2期大阪狭山市教育振興基本計画」令和2(2020)年2月 ・大阪府立泉北高等学校「2019年度 SGH研究完了報告書」平成30(2019)年3月 |
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