生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年10月31日
 
 

公立社会教育施設経営と指定管理者制度 (こうりつしゃかいきょういくしせつけいえいとしていかんりしゃせいど)

キーワード : 施設経営、指定管理者、事業の継続性
井上伸良(いのうえのぶよし)
2.公立社会教育施設経営における可能性と問題点
  
 
 
 
   公立社会教育施設への指定管理者制度の導入にあたっては、教育機関の職員に関する教育委員会の任命権(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第34条、社会教育法第28条)との整合性が焦点となったが、文部科学省は、教育委員会の任命権は公務員に対して及ぶものであるから、指定管理者が雇う者に対する教育委員会の任命は不要であるとの整理を行い、公民館、図書館、及び博物館への指定管理者制度の全面的な適用が可能であるとした。指定管理者制度の導入によって公立の社会教育施設はさまざまな法人、団体によって経営されうることとなった。これによって行政事務の能率、とくにコスト・メリットが高まることが期待されるが、教育サービスが向上する可能性も有している。たとえば、民間部門の能力・工夫を公立社会教育施設における事業の企画・実施に反映させやすくなること、社会教育に関する専門性の高い職員を多く配置すること、あるいは地域住民の代表によって構成される団体が管理を行うことで社会教育施設が住民自治を体現する場となること、などの可能性が考えられるだろう。
 その一方で、制度に起因する問題点も複数存在する。
 第1に、地方自治法では、普通地方公共団体は指定管理者が管理する公の施設の利用に際しての料金(利用料金)を指定管理者の収入とすることができ、その際、利用料金は普通地方公共団体の承認を受けたうえで指定管理者が定めることを原則としている(地方自治法第244条の2第8項、第9項。なお、利用料金制度は管理委託制度においても平成3(1991)年の同法改正時に導入された)が、利用料金制に伴う、施設利用者への負担が増大する可能性は理論的に高くなる。
 第2に、指定管理者制度における指定とは行政処分であり、公の施設の管理業務を委任することを意味するため、管理委託制度とは異なり、指定管理者が処分に該当する施設の利用許可を行うことができるとされている点も問題を惹起する可能性をはらんでいるといえよう。
 第3に、指定管理者の指定は期間を定めて行うこととなっているが(地方自治法第244条の2第5項)、改めて指定を行う際に必ずしも再度同じ指定管理者が指定されるわけではないことから、公立社会教育施設における事業の継続性をいかに保障するかが課題となる。たとえば博物館における指定管理者制度の導入にあたっては、継続的な資料の収集・保存が保障されるかどうかが1つの課題となりうるだろう。
 指定管理者制度の導入によって、公立社会教育施設の経営の選択肢はさらに拡大したといえる。当該地方公共団体、さらには各社会教育施設の実状や目的・目標に応じて、柔軟な施設経営が行われることが望ましいが、「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるとき」に指定管理者に管理を行わせることができる(地方自治法第244条の2第3項)との規定からもわかるように、教育機関である以上、施設の教育上の目的を効果的に果たすために指定管理者制度を導入するといった姿勢が各地方公共団体には求められよう。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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