生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年7月20日
 
 

生涯学習振興の手法 (しょうがいがくしゅうしんこうのしゅほう)

methodology of lifelong learning policies
キーワード : 学習機会、マーケット、サプライヤー、プロモーター、コーディネーター
岡本薫(おかもとかおる)
1.生涯学習振興の手法
   
 
 
 
   学校教育・社会教育を通じ、教育活動の振興策については、伝統的に「施設の整備」「指導者の養成」「プログラム開発」といった分類が行われてきた。しかしこれは、学習機会の提供が、行政による直接提供に限られていた時代のものであり、また、「学習機会の提供者」の視点に立ったものである。
 人々の学習活動の全体を対象とすべき生涯学習振興施策の手法は、このような狭い範囲で考えてはならず、また、学習者自身や行政以外の関係者などを含む、多くの主体の視点から考える必要がある。
 例えば、「学習活動の振興」(学習活動が活発に行われている状況を作ること)について言えば、前記のような広い視野を持つためには、多くの主体がそれぞれ自由に活動する、学習機会の「マーケット」の存在を認識することが不可欠だ。
 学習機会というものについて、これを求める学習者の「需要」があり、これを提供する主体による「供給」があるということは、学習機会の「マーケット」が存在するということを意味している。
 このマーケットが完全に機能していれば、何らの政策も必要ない。しかし、民主的に定められた目標にてらしてマーケットの機能が完全でない場合には、政策的な関与を行う余地が生じる。
 そうした政策的関与は、「需要側」「供給側」の双方に対して可能であり、例えば次のような手法があり得る。
需要側への施策:(1)需要の喚起、(2)潜在的需要の顕在化、(3)需要の誘導
供給側への施策:(1)行政による直接供給(サプライヤー機能)、(2)民間供給者への支援(プロモーター機能)、(3)各種の供給者間の調整(コーディネーター機能)
 これらの各々についてそれぞれ、振興対象とする学習活動のテーマ・内容や、施策が実施される地域の実情などに応じて、実施の可否・適切性を判断するとともに、有効性・コスト・優先度などを考えながら、さらに下位の手法を工夫していくことになる。
 そうした施策を企画・実施していく上で最も重要なことは、マーケット内で行動する各主体は、学習者側も学習機会提供者側も、それぞれ日本国憲法によって保障された思想・信条・良心の自由や幸福追求権を持っており、ルールに違反しない限り自由だ、ということである。したがって、行政の思い通りに動いてくれないからといって「意識改革が必要」などと言っても無意味であり、各主体の自然な欲求の存在を前提としなければ、合目的的な施策は企画・実施できないのである。
 なお、すべての施策の実施について、民主的手続きによるオーソライゼーションが必要であることは、言うまでもない。
 
 
 
  参考文献
岡本薫『新訂 入門・生涯学習政策』(財)全日本社会教育連合会 平成16(2004)年
岡本薫『日本を滅ぼす教育論議』講談社 平成18(2006)年
 
 
 
 
   



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